改革の一歩目






―――――工房にお留守番の分身体side




「リネットさん…この、圧縮の魔石なんですけど…」



「あぁ、それは素材部品の方に加工をしないと、魔道具にしても壊れてしまうのですよ」



「なるほど…ならここを…」





ヤヤ村に帰り、クスト達に出会ってから、一月ほど経った今、リネットと進めている魔道具開発が、順調に稼働していた。




「しかし、ライアは良く見つけたのですね?熱を加えてから空気に触れさせないように“圧縮”の魔石で、食べ物を保存すると長持ちをするなんて」



「たまたま、家で居る時にそうなのかなって…試せる環境が無かったので、ただの妄想になっていましたが」



ライアはあたかも、自分の考えと偽りながら、前世の知識を使い、保存食事情の改善をする為に、缶詰の製法を真似をしながら、魔道具製作に取り掛かっていた。



前に、ダンジョンにゼル達と潜った際、保存食が干し肉がほとんどと話していたの思い出し、「どうせ魔道具を作るなら、役に立つものにしよう」と考えて、前世知識の缶詰の要領で保存食を作成する魔道具を考えた。



(まぁ案は俺だけど、かなりリネットさんに助けてもらったな)



リネットは自分の研究より、ライアの魔道具の方が、楽しそうに思ったのか、この1か月ずっと手伝ってくれていた。






「……“用意した容器の空気を抜いて、密封するイメージ”……イメージ…」




実は、菌を死滅させ、熱を付与する魔道具は元々近いものがあり、それを代用した魔道具はもう出来ており。

現在は、缶詰の一番難しい、真空状態を作る魔道具を試験的にきちんと動くかを確かめる為、魔道具(仮)を作成している。



色々こうした方が良いとか話していたら、想定より少しだけ大きくなってしまったが。




「これで…完成!!」



「おぉぉ!ついに出来たのです!早速試してみましょう!」




近くで見ていたリネットは、ライアの成長の為か≪錬金術≫の行使は、ほとんどライアに任せてくれて、その間は近くで見守っていたので、出来上がりを一緒に喜び、試してみようと声を出す。




「それじゃ、この用意した容器に私が作った牛筋煮込みを入れて行って、今しがた出来た仮称【みっぷう君】で、全ての容器を密封!!」



「ふぅぅぅですぅ!!」



2人はずっと、この魔道具の完成を楽しみにしていたので少しばかり、変なテンションになってしまっていた。


ちなみに【みっぷう君】は仮称なので、販売されるとしたら、名前は変える予定だ。




――――ガチャン!


「…よし!この密封が完了の音が鳴ったら、すかさず仮称【あちち君】を起動!!」



「いけぇ!あちち君!!」




――――きゅぅぅぅ!!



魔道具仮称【あちち君】は密封した容器に熱を与えていき、除菌を行っていく。



(たしか、この熱入れを1時間ほど行うんだったっけ?)



少しだけうろ覚えになってしまっているが、恐らくそれだけ加熱すれば大丈夫だと考える。





「それじゃ、このまま1時間ほど経ってから、どうなったのか経過を見ましょう」



「そうですね」



結構ライア自身、前世の記憶があいまいな部分はあったが、そこはリネットにカバーしてもらいつつ、この魔道具を製作することが出来たので、もうリネットには頭が上がらない思いだと感じるライアだった。



「なんか先生には、この1月色々面倒を見てもらったので、何かお礼をしたいんですけど、何かやって欲しい事とかあります?」



リネットは腐っても貴族だ。

ライアの個人資産では物を送ることなどできないのはわかっていたので、行為で返せるものはないかと質問する。



「やって欲しい事?ですか…うぅ~ん…特に思いつかないのです?」



「そうですか…では、何か見つかったら、その時に聞きますよ!…いわゆる“貸し”として」



自分から貸しを作るとは何とも文脈的にはおかしく感じてしまうが、リネットはその貸しを作るという発想が気に入ったのか笑ってしまう。



「あはは!貸しですか!…わかりました!何かあった際はライアに貴族的な貸しで脅すことにするです」



「いや…貴族的にも脅しもやめていただけると…ふふふ」



リネットとライアはしばらく笑った後、魔道具の結果が出来るまで、休憩をしようという事になり、メイドのユイと違う部屋で話しながら、休憩することにした。








――――――1時間後





「おぉぉぉ!ちゃんと密封したままですね!」



「そうですね…まずはきちんと容器を開けられるかどうか…」



熱を入れ、魔道具から容器を出してみると、特に爆発をしている訳でもなく、蓋が取れて、中身が出ているという事もなかった。



なので、次は密封した容器を開けれるのかを調べる為、ライアは容器の取っ手を掴む。



――――カチャ



「「おぉぉぉぉ」」



容器の中はまだ冷め切っていないのか、ほのかに湯気が上がるくらいに温かく、煮込みの良い匂いが立ちのぼる。



「それじゃまず、一口…ん…うん!変な味もしないし、特に毒になった様子もないね」



「ボクも食べるです!…あぁむ…んぅぅう~うまぁですぅ」



今日の朝も作って持ってきたときにリネットは食べて、どんな味か知っているはずだが、煮込みが気に入ったのか、中身のほどんどを食べてしまう。



「魔道具の実験は今の所、大丈夫なのですね!」



「はい!…となれば、このまま常温で1週間放置した状態と1か月放置した状態…そして1年後も一応、確認できるようにメモを張って置いておきますか」




今回用意した、10個の容器に日付と魔道具の名前、実験内容を紙に書いて、貼り付け、実験室の隅に置いて行く。




「もしこれが完成して、保存食の種類が増えれば、ライアは冒険者達に感謝される事間違いなしですね?」



「役に立つと思って作り始めはしましたけど、この魔道具が出来たのはリネットさんのおかげですからね?感謝されるならリネットさんもですよ」



「ボクは研究が出来ればそれでいいのですよ~」と逃げるリネットを見て吹き出しつつ、魔道具などの改良案や、後片付けを進めていく2人だった。







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