改革、エルフの兄弟3







「正確に言えば“1年前”に追放をされたのはプエリだけで、僕はプエリを守るために、一緒に村を出たんだ」



「追放…さっきのプエリちゃんの言ってた忌み子に関係してるんだね?」



追放と聞き、穏やかじゃないなと感じつつ、先ほどのプエリの“忌み子”がここで関係してくるのだと確認する。



「うん…プエリはエルフなのに火の魔法が使える…というより、火の魔法しか使えないんだ」



クストから話を聞くと、エルフという種族は魔石の属性が水・樹・風の3種類のうちどれかになるのが普通らしいのだが、プエリの適正が火のみだったらしく、これはエルフの中でも稀な事らしい。



そして、3種類の属性以外であっても他の属性であれば追放まではされず、村に居れたかも知れないが、プエリは“火”…つまり、神樹を守るエルフにとって、山火事になりかねない魔法を使うプエリの事を邪魔に思い、忌み子として追放されてしまった。


それが1年前の出来事らしい。



「その後の1年間は村の外の森で、小さい小屋を作って、僕とプエリ2人暮らしをしてたんだ」



「…エルフの事は俺もあまり知ってるわけじゃないけど、こんな小さな子供を追放にするなんて…」



「…そんなに神樹ってもんが大事かね…子供1人追放するほどに…」



ライアはエルフに少なからず幻想を抱いていたし、ファンタジー物のエルフも森を大事にしている描写なんかもあったりしたが、こういうのが現実にあるのだと思うと苛立ってしまう。



とぉさんも自分の価値観と違うのは種族が違うからだと、わかっているのかもしれないが、言葉と表情には怒りがにじみ出ている。




「…ライアねぇちゃん…おじちゃん…わたしはだいじょうぶだよ?」



クストの近くで話を聞いていたプエリがライアたち2人の怒りを感じ、自分は大丈夫だと笑顔を向けてくれる。



「っぐぅぅ~…決めた!!俺は二人の事を全力で守る!!…プエリちゃん、クスト君…もし良かったら俺達と家族にならないか?」



「かぞく…?」



とぉさんはプエリのけなげな様子に、感情が抑えきれない様子で、エルフ2人を家族に迎え入れようと提案をする。



「あぁ!…クスト君、君たちはこれからどうする予定だったんだい?」



「…え?…えっと、特に決めてはいなかったけど…多分、どこか、魔物の出ない森なんかを探して、隠れ住もうかなって思ってたけど…」



クストは魔物と人間、そしてエルフの所にも居場所がないはずで、それをわかっているからこそ、隠れ住むと言った言葉が出たのだろう。



「そんなの危険だ!このまま、この家の子になって、ここに住みなさい?」



「俺もその方が良いと思うよ?…俺はエルフって存在自体を知ったのも、つい最近で人間とエルフの間の溝もわかってないけど、少なくともこの村に、エルフを捕まえようとする人はいないはずだよ?」



こんな小さい村で、エルフの話を今まで聞く事が無かったし、とぉさんみたいにほとんどの住民がエルフの事を知らないと思っていいだろうし、知っていても悪さをする人はいないはずだ。



(まぁ、俺自身は、ほとんどの人と交流が無い状態で、説得力はないかもだけど…分身体達はある程度話してるし!)



ライアは村では、分身体任せの交流しかしていないので、少し心に影が出来た気がしたが、自分の心を誤魔化した。




「いいの?…わたし、忌み子だよ…?」



「関係ないよ!人間は火も土も風も水もその他の属性だって使うんだからね?」



プエリの忌み子と言われた理由は、人間の間では、特に問題はない。



「本当に?迷惑かけるかもしれないよ?」



「俺も魔法の事はわからないが、君ら2人の事を迷惑に思ったりなんかしない…思うなら最初から家族になろうだなんて言わないさ!」



クストもこちらに迷惑をかけることを気にしているが、とぉさんはそんな心配無用だと、クストに笑顔を向ける。




「…ふぐ……ひっぐ…ふえぇぇぇぇぇん!!」



「…プエリちゃん」



今まで、兄が死ぬかもしれない時や、人間であるライアが現れた時でも、大人顔負けの心の強さで、涙を堪えていたプエリが、今は声を抑えずに、大きな声で泣き叫ぶ。



――――ぎゅうぅ…


「…すごい頑張ったね…これからは俺達がプエリちゃん達と一緒にいるから…ちゃんと泣いていいからね?」



「うえぇぇぇぇぇぇん!!!」







――――――――――――

――――――――――

――――――――








「…すぅ……すぅ…」



「泣き疲れたのかな…今まで気を張っていたのもあるのかな?」




プエリは5分程大泣きすると、ライアの胸の中で静かに寝息をたて眠ってしまった。



「ありがとう…プエリがこんなに泣いたのなんて、村に居た時くらいだったから…」



「俺達は当たり前の事を言っただけだし、やっただけだよ?」



「それでも…僕とプエリは救われた…ただ感謝がしたいんだ」



クストはそういうと、少しだけ濡れた瞳をぬぐいながら、布団に体を沈ませる。



「…とぉさん?、プエリちゃんが寝たんだから、あんまり大きい声出さないでね?」



「ふぐぅぅ…あぁあぁ”あ”ぁ……ずまな…いぃぃ…ひっぐ…ずずずっ!」



とぉさんは、プエリの涙を見て、寛大にもらい泣きをしていた。




「どぉうざん……ひっぐ…少し外に出てるな…なびだがどまらん…ずずずっ!」



とぉさんはそう言って、部屋から出ていき、部屋には眠ったプエリと布団にクスト、そしてライアの3人になる。



「騒がしい家だけど、これからよろしくな?」



「…えっと…よろしくお願いします…」




そうして、この日、クストとプエリがうちの家族の一員になった。



「…そういえば、追放されてから小屋で住んでたって言ったけど、どうして今になって、あんなところに居たの?」



「それが…小屋で生活をしてる時に、魔物の群れが出て…僕はその時にバイパーの毒にやられたんだけど、何とかプエリを連れて、あそこまで逃げて来たんだ」



クストたちは村を追放されているから、村にも頼れず、森の中を逃げ回って、あの渓谷にたどり着いたらしい。



「そうだったんだ…それは結構ある事なの?」



「神樹の森の周辺はほとんどの魔物が倒されて、まず見かけない位いないはずだけど、居る事は居るんだ。

…でもあの群れは、今まで見たのより全然多かったから、予想外で運が悪かったと思うけど…」



ラルフに教えてもらった通り、神樹の森周辺の森は魔物が少ないはずで、クストたちを襲った群れも予想外だったらしい。



「予想外の群れ…か」








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