~閑話、伯爵家のメイドさんと、新しき受付嬢の犠牲者の小話~







―――――リネット・リールトン付きメイドside





私は、このリールトンの街の領主であらせられる、リールトン伯爵家ご当主様、アイゼル・ロー・リールトン様の三女である、リネット・リールトン様付きのメイドの、ユイ、と申します。



最近、リネットお嬢様が工房へ連れてきたライア様の事なのですが、私、すごく不審に思っております。



「……ライア様、少々御髪が…」



「ん?髪?」



ライア様の御髪に軽い埃が付いていましたので、取ろうと頭に触れたのですが、とても髪のツヤ、うるおいがあり、手触りも良く、ライア様個人の匂いなのか、とてもやさしい香りがいたします。




「あぁ、ありがとうございます、ユイさん」



「…いえ…」




この方、これで成人した“男性”なのらしいのです…。



私はこれだけでも、ライア様を疑っているのですが、何より、服装も今まで見ている間は女性服しか着用しておらず“これが…男…?”と何度考えた事か…。



どうしても疑問に思ってしまい、リネットお嬢様に確認してみると、お嬢様もホントかどうかはわかっていないらしいのです。



リネットお嬢様はどちらでも構わないと考えられているのか、あまり気にしてはおりませんが、わたくしは違います。



私は、リールトン伯爵家にお使いするメイドでございます。



お嬢様に近づくお人の素性は明らかにしなければいけないのです。




「……」ジー



「…ん?」



――サッ!


「…」



……なので、私はどうにかして、ライア様の性別を確かめようと、色々と行動を起こしているのですが、今の所、結果は芳しくないのです。




先ほどの、御髪に着いた埃もカツラを疑い、偽装して確かめた物なのですが、普通に地毛のようで、女としては完全に負けているので、せめて女性で合ってくれ、と願うばかりでございます。





「…ちょっと、外の空気吸ってきますね?」



「そうですね…あまり詰め込んでも効率が落ちるのです」



…む、どうやら、ライア様は休憩がてら、外に出られるようです。



ちなみにライア様は、リネットお嬢様に≪錬金術≫を習得するための知識などやらをご教授されておられるのです。(私はあまり勉強は得意ではなかったので、尊敬に値するお方ですね)



…おっと、ボーっとしてないで、ライア様を追いかけてみましょう。




「んぅ~…はぁぁ…」



「……」



ライア様は、工房を出られて、ぐいっと背伸びをしつつ、中央通りに向かって歩いて行かれるようですね。




「………」


スタスタスタ…




「………」


スタタ!…スタタ!




ライア様はそのまま、あまり早くないような速度で、中央通りまで歩いて行き、出店の前で止まり何かを注文しているようです。




「(おじさん、ココの実のジュース3つ貰えますか?)」



「(はいよ!…なんか、後ろで、すごいこっちを見てるメイド姿の嬢ちゃんが居るが…あれは良いのかい?)」



「(あ、はい…私の知り合いなので、大丈夫です)」




どうやら、ココの実のジュースを売っている屋台らしいのは見えるのですが、周りの喧騒もあって、話し声は聞こえません。ぐぬぬ




「(まぁ…嬢ちゃんがそういうならいいんだが…はいよ、ココの実3つだ)」



「(ありがとうございます)」




おっと、ライア様がココの実を貰って、工房に戻るようです。



「………フフ」


スタスタスタ…




「……」


スタタ!…スタタ!



何やら、ライア様が笑った気がいたしますが、笑ったお顔も絶賛するほどお綺麗だなと感じるばかりです。




―――ガチャ…


「ただいま戻りましたー」




工房にライア様が入って行かれ、結局、ライア様の男性らしい所は発見できなかったので、やはりライア様には女性なのかと考えてしまいます。



しかし、ライア様が男性とおっしゃられた以上、確実に女性とわかるまでは監視はやめないようにしておきましょう。



―――ガチャ


「ん、お帰りなさいユイさん」



「…はい、ただいま戻りました」



何故か、工房に戻ると笑顔のライア様がお出迎えしてくれましたが、何だったのでしょう…?







――――ライアとリネットの会話



「申し訳ないのですが、ユイはあれで気づかれていないと考えているので、しばらく気づかないふりをしてほしいのですよ」



「こちらは構いませんが…あのように後ろを付いてこられると、思わず構ってあげたくなってしまうのですが…」



「可愛いでしょう?ボクの自慢のメイドさんですよ」



ライアとリネットは、今年で12歳のユイが、ライアの性別を調べようと頑張っているのを知りながら、その様を観察しているのであった。








――――冒険者ギルドによくいる、一般冒険者side




俺の名前は「ガッシャーん」という名前で、「何やってんだおめぇは!」というパーティを組んでいる一冒険者だ。



…何やら…後ろがうるさい気がするが、今は無視をしよう。




俺は、最近受付を辞めて、結婚したククリちゃんの代わりに入った、ライアちゃんの大ファンだ。



「おい!お前、今日の受付のライアちゃん見たか!?」



ん?どうやら、朝の受付に押し寄せていた冒険者の1人が受付から降りてくると、ライアちゃんの話題を出してくる。



「ライアちゃんがどうしたんだ??」



「見てないのか!?なら見た方が早いぞ!」




俺は、その男の言う通り、何があったのかと思いながら、受付の見える2階まで上がる。



「いらっしゃいませ!ご用件は何でしょうか?」



「え…」



そこで受付をしていたのは、今までに見た事が無い女性3人がそこにはいた。



「討伐のご依頼ですね?それでしたら…」



「はい、こちらになります。お気をつけて行ってらっしゃいませ」



(この子たちは…いや!そうじゃない!ライアちゃんファンの俺の脳が訴えかける!)




俺は、元々ライアちゃんに迷惑を掛けないように朝の混雑時を避けるように時間をおいてから受付に行っていたが(混雑していないと、ゆっくり話せるし)今は確かめずにはいられない。と近くのショートカットの女の子に話しかける。



「あ、あの」



「はい、ご用件は何でしょうか?」



男は、自分の考えが当たっていると思いながら、緊張と違ったら失礼だと思いながらも聞く。



「えっと…ライアちゃんだよね?…あの2人も…」



「お、わかったんですね?…はい!この間、個別に名前はあるのか、とご質問がありましたので、毎回知らないお客様に驚かれるよりは、個別化してみたという訳です。

あ、ちなみに、私はアハトと申します」



目の前の明るい茶髪のショートカットの女の子がアハトと名乗り、他の、暗めの藍色の髪を三つ編み状にして、頭に巻いている大人っぽい女の子がノイン、最後のピンク髪を低い位置で、ツインテ―ルにした可愛らしい女の子がツェーンというらしい。




「すごいですね?今の所私たちがライアなのかと疑問を持った方はいたようですが、皆さん半信半疑で“ライアちゃんはどこなのかな”って聞いてくるばかりだったので、私がライアと言って来られたのはお客様が初めてですね!」





――――ズキューン…



「あ、はい」



「あ、すいません。まだご用件はまだでしたよね?」



「いえ…ちょっと、まだ決めかねているので…一回戻ります…」



「え、はい!またのご利用お待ちしております!」




俺はとぼとぼと、1階に降りて、先ほどの席に座り込む。



「…お!戻って来たか!どうだった!?」



先ほどの冒険者が、ライアちゃんを見てきた俺を見つけて、どうだったか聞いてくる。



「俺は…」



「俺は?」



「アハトちゃんを推す!!!!」



「…は?」



俺はどうやら、アハトちゃんに恋をしたらしい…今まではライアちゃんを見る為に、受付に通っていた気もするが、アハトちゃんと話してみて思ってしまった。



「ライアちゃんも可愛かったが…ショートカット美少女にニコって笑顔を向けられて、あんなこと言われたら俺…」



「いや…まぁ可愛いのは全肯定なんだが…どうした?本気でライアちゃんに恋しちゃった系か?」



男は少し、おどけるように言ってくるが、ライアちゃんと付き合ってほしい男など腐るほど、居るのはわかっている為、その口調も気にはしない。




「…いや、俺はアハトちゃんに恋をしてしまったんだ…スキルの分身体にな…だから付き合って欲しいとかはない…

ただ、俺は…どんな事をしても、アハトちゃんに幸せになってもらいたいんだ!!!」




「……えぇぇ…」



冒険者の男は、アハトのファンになった男を見ながら、大丈夫かなこれ?と色々と心配になってしまっていた。









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