~閑話、歌姫?とライアの小話~
――――【歌姫ツェーン?】
冒険者ギルドの夜は長い、それは業務があるのもあるが、一階には酒場という名の食事処がやっている。
受付の職務ではウエイトレスなどはやらないのだが、客で来ている冒険者はかわいい子を見ながら酒を飲みたいのか、たまに受付まで来て、「下に来なよーアハトちゃん、ツェーンちゃーん」と酔っ払いが来る時があるのだが、その日は丁度ホールスタッフが1人欠員が出ていて、かなり忙しそうにしていたのだ。
「はぁーい、鳥の胸串とエールをお持ちしましたー!」
「おぉ!今日はなんだなんだ!?なんでツェーンちゃんがウエイトレスやってんだ!?」
「ホールスタッフさんが一人、欠員しちゃったんで、急遽の補充ですよー」
たまたま受付の方も落ち着いて暇だったので、ツェーンにウエイトレス姿に着替えさせ、一階で仕事をしていた。
「…おっと!おさわりはなしですよー?じゃないとセルスさんに言いつけますよー」
「んぐぅ…それは…すいません…」
物を運んでいる時に、おしりを触ろうとしている酔っ払いを感知したので、避けつつそう言ってやれば、酔いがさめたのか、素直に謝って来る。
(セルスさん効果すごいな…)
そう言った理由で仕事をしていたのだが、ツェーンがこの姿になって、もう1月ほどが経っているが、まだ、ツェーンを知らない人もこの酒場に居たのだろう。
「そこのねーちゃん!そんな可愛いんだからなんかやって見せてくれよ!」
「馬鹿!あの子は受付の子だぞ!?セルスさんに焼き入れられる!」
といった感じで、結構な頻度で、催促というかセクハラまがいを受ける。
(まぁしかし、可愛いという賞賛はありがたく貰っておこう…この可愛さはかぁさんの教えと、俺の努力の結晶だからな!)
…だが、ライア自身はあまり気にしてはおらず、むしろ、可愛いやら綺麗は誉め言葉として受け入れる性格だったので、素直に喜ぶ。(男だけど)
「ツェーンちゃんの踊りとか歌聞いてみたいわぁ俺!」
「お前は酔い過ぎだな…」
(歌か…)
ライアはその場の雰囲気にほんの少しだけ酔ったのか、歌位ならやってもいいかな?とか考えてしまった。
「歌って、どんなのがあるんですかー?」
ライアはこの世界の歌がどんなものがあるのか気になりつつ、そう質問をすると。
「え?なになに?ツェーンちゃん歌ってくれるの!?」
「え?まじで!!言ってみるもんだな!!」
「え?あ、いや、どんな歌があるかも知らないし…」
少しだけ心を許してしまったライアは外堀が埋められるように話題が広がって行くが、何とか抗う。
「大丈夫だ!ツェーンちゃんが知ってる歌とかでいいから!俺はそれで満足だから!」
「たのむよぉぉぉぉ!!一生のお願いだからよぉぉぉぉ!!」
酔っ払いたちの圧はすさまじく、嫌とは言えない空気が一瞬で出来てしまう。
「えぇ…はい…」
「「「「シャオラァァァァァァァ!!!」」」」
酔っ払いたちの一致団結を見届けながら、どうしようと考えるライアだったが、すぐさまライブ会場のようにテーブルくっつけ、ステージを作り上げられる。
(いやいやいや、なんでステージまで作っちゃってんの…ホントに酔ってる?動きが機敏過ぎないか?)
あれよあれよという間にステージに上げられ、酒場中の人の視線がツェーンに向けられる。
(くぅぅぅ…ええい!ままよ!)
らぁ~ららら~らぁ~ら~♪
~~♪
「ふぅ…っと、お粗末様でしたぁ~…」
この世界の歌はかぁさんの歌ってくれた子守歌くらいしか知らなかったので、もう自棄だ!と前世でよくカラオケなんかで歌っていた女性の曲を歌い切り、ステージから周りの様子を伺う。
「…うぐ…ひっぐ…」
「あ”あ”ぁぁ……ずずずッ…」
「ひっ……ひっぐ…ぶぅぅぅ!」
皆、ガチ泣きをしていた。
「(はぁ!?なんで!?)え?…なんで皆さんないてるんですかー?」
「これが…泣かずにいられるかってんだ…なんてセツねー歌をなんて良い声で歌うんだぁ…」
「思っちまったよおぉ俺ぁ…家族が死んだら俺もこんな気持ちになって家族の大切さってのが後からわかるんだろうなってなぁ…」
ライアが歌ったのは、愛する人が死んで、居なくなった後を描いた歌詞の歌だ。
(だとしても、全員泣くのは怖いんだけど…)
ライアはこの時知らなかったが、基本この世界の歌はあまり発展しておらず、精々、音に合わせて、昔の英雄たちの偉業なんかを語りながら、踊るのが、この世界の歌と踊りであった。
なので、前世のカラオケで鍛えた歌唱力と、歌に関しての技術や抑揚、歌詞の伝え方などがこの世界の人にはオーバーキルであったのだ。
「ツェーンちゃん!!俺!またツェーンちゃんの歌聞きたい!!!」
「俺も!俺も何度だって聞きたいんだ!!頼む!金なら払うから!!」
「私もこんなに心が震えたのは初めて!!またお願い!!」
と先ほどまでは男どもをアホを見る目をしながら、遠くで聞いていた女性冒険者達も声をあげながら「俺も!」「私も!」と歌を聞きたいとリクエストしてくる。
「え、えっと………また今度ならー…」
「「「「「フォォォォォォォ!!!!」」」」」
ツェーンの瞳は少しだけ諦めと疲れが見えていた。
―――――【ライアの抱き癖】
「んぅぅ~……落ち着かない…」
夜、ライアはさすらいの宿の部屋で、夜も遅いので寝ようと布団に横になっていたが、何かが足りないのか、落ち着かない様子で、色々と寝方を変えてみたりしていた。
「ん~?なんか…違う…なんだろ?」
ライアはリールトンの街に来て、10日ほどだが、昨日などは疲れていたのかすぐに寝れてた。
「なんで、寝れないんだろ…?
…あ、そういえば……んっしょ…≪分体≫」
ふと何かを思い出したのか、ライアは布団に座りなおして、分身体を1人生み出す。
「家だったら、1週間に1回ペースで、かぁさんに抱きしめられながら寝てたけど…これで眠れちゃったら、なんか複雑なんだけどな…」
ライアは1週間に1度の両親と一緒に抱きしめられながら寝るという行為に少しだけ、寝苦しいといった感情もあった為、「出来ればこれのせいじゃないといいなぁ」と思いながら、分身体を抱き枕…抱かれ枕?にしつつ、目をつむってみる。
「………朝だ…」
朝、起きると分身体に抱かれている自分を見て、昨日の夜の事を思い出し、何とも言えない感情が出て来るライアであった。
ちなみに、これを機に4日に1度ほど、寝苦しくない力加減で抱かれ枕をして寝ている。
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