始動、10の分体達







ギルドマスターが“先生”とやらを呼ぶと言ってから1週間ほど過ぎて、ライアは≪錬金術≫の事は気にはなっていたが、特に聞かずに分身体は仕事をしつつ、ライア本人は≪礼儀作法≫の訓練をしていたりした。






――――受付分身体side





「ライアちゃんはスキルのおかげにしても、仕事を覚えるのが早いわよね?」



「そうでござるな、すでに拙者以上の貫禄まである気がいたしますぞ?ハハハ」



今は、セルスとミリーがお昼休憩で離れており、受付にはネリヤとカズオの2人が居た。



「いえ、覚える機会が多いので慣れるのは早かったと思いますが、人並みかと思いますよ?」



「ライアちゃんが人並みだったら、カズオとミリーは何なのかしら…」



「きっと、ゴブリン以下なのでしょうな…」



謙遜は日本で美徳だったが、今この場では、カズオさんが悟りを開かせてしまうほどの選択ミスだったようだ。



「ただいまぁ!おいしかったぁー!」



「あら、おかえりなさい、ゴブリンの片割れさん?」



「えぇ!?いきなりなんですぅ??」



お昼戻りのゴブリンの片割れミリーをネリヤはからかいつつ、交代でお昼に向かう。



「それじゃお昼休憩に行ってくるから、ライアちゃん、ふたりをよろしくね?」





「あのぉ…ゴブリンって何だったんですか?」



ネリヤを見送るとミリーが聞いてくるので、先ほどしていた話をカズオが伝えて、二人一緒に悟りを開いたような顔をしていたので、今触れたらいけないと思い、書類仕事をするためにその場を離れる。





「あ、ライアさん…すいません、依頼のお願いをしたいんですが…」



「はい、ご依頼ですね?どういった内容でしょうか?」



ライアの分身体はお昼を取る必要はなく、休憩なしで働いているが、セルスが「そんな過剰労働を…」と、申し訳ない顔をされるが、ライア的には、休憩を取らされて、暇になっても嫌なので、無理矢理働いている。(ワーカーホリックが加速)



そんな感じで仕事をやっていると、常に受付に1人は分身体が居る事になり、冒険者のみならず、依頼を発注する商会の人などにも顔を知られていた。



「その依頼でしたら、小銀貨3枚になります」



「はい、これでお願いします……少し聞いていいですか?」



この人も、ライアは行ったことは無いが、近くの商会の主人で、護衛の依頼や素材採取の依頼をよく注文する人だ。



「はい?どうされました?」



「ライアさん達は3人いますが、それはスキルなんですよね?全員は同一人物で合ってるんですか?」



どうやら、商会の商人は、受付に居る3人がスキルなのだとは思っているが、一応、別人格とかではないのかと聞きたいようだ。



「えっと、そうですね、一応すべて、同じライア本人が動かしていますので、別に別人格とかではありませんよ?」



「あ、そうですか、よかったです」



「よかった?」



商人の話を聞くと、どうやら3人の区別が付かず、全員ライアだとわかってはいたが、個別に名前があるのかもと考えていたらしい。



「すいません、ほんとにちょっと気になっただけなので…それでは失礼します」



商人は取り留めない話だ、と言った感じにライアに別れを告げて、ギルドを去って行く。





(フーム…確かに、この冒険者ギルドに初めて来る人は毎回驚かれるし、毎回説明するのもちょっと面倒だった…)



元々、ギルドの仕事が忙しいから、緊急処置的に分身体を3人出しただけだったが、おそらくしばらくはこの体制を変えることはできないだろう。



「なら、この子たちも個性を作ってみようかな」



せっかくなら、アインス達みたいに名前と姿を固定させた分身体を作ろうと考えたライアは、早速、設定を考える。




(うーん…名前は引き続きドイツ語数字?フュンフ…ゼクス…ズィーベン…どれも女性っぽくないな…)



ライアは女性っぽくなくなるのは、受付嬢的にはいけない、と考えながら、書類仕事を片していく。




「あ、ヤヤ村の分身体3人にこの名前を付けて、その次の…アハト、ノイン、ツェーン…うん、これにしよう」




と、その場の思い付きでヤヤ村の方の分身体にも名前が付いた。



これで分身体達は…


冒険者組4人…


男剣士のアインス


男格闘家のツヴァイ


双子の女槍使いのドライとフィーア



ヤヤ村3人…


兄弟用分身体フュンフ


とぉさん用息子のゼクス


かぁさん用娘のズィーベン



そして、受付嬢3人…


アハト


ノイン


ツェーン


の10人の名前持ちになった。



(アハトは若干、女性っぽくないけど、まぁそこはしょうがない…ボーイッシュな感じにしようかな?)




そんなことを考えながら、3人の姿をどうしようと考えながら、仕事を手早く進める。



(うん…新しい事を考えるのは楽しいかもね…♪)



ライアは機嫌が良さそうに、鼻歌交じりに手を動かしていた。





――――――――――

―――――――

―――――



―――とある、一般冒険者達side



「おい…ライアちゃんが近くの商会の若旦那と話してから、めっちゃ機嫌良さそうにしてるぞ!!」



「な、なにぃ!?あの顔が良くて、人が良さそうな、街の女たちに人気がある、あの若旦那か!?」



「くっそぉぉぉ…やっぱり顔か?顔なのか!?」



「ばっかお前、あの若旦那めっちゃ性格もいいし、話も面白いんだからな!!俺たちが勝てるもんじゃねーよ!!」




「「「「「……ハァぁぁ…」」」」」



人知れず、冒険者達の癒しになっているライアは知らぬところで、勘違いをされる。






―――先ほどの分身体アハトside



「……?」



なぜか、冒険者たちに見られているっぽいが、なぜだか悔しそうにしており、ライアはそれが何かは、よくわからなかった。




―――ガチャ


「…ライア!応接室に本人が来い!を連れてきたぞ!」



と、そんなこんなしていると、お昼前くらいから、「ちょっと、出かけて来る」とギルドを出て行っていた(セルスさんの許可済み)ギルドマスターは何やら、フードを深くかぶった人物を連れ、ライアにそう言ってくる。




「この方が先生…?」



フードを被った人物は如何にも、魔法使いと言った風貌で、ギルドマスターの後ろを優雅に歩いていた。






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