始動、スキル訓練
―――――ライアside
『ライアちゃーん!依頼完了の確認をお願いしたいんだけど!』
『はぁーい!』
ダンジョン攻略組を送り出してからも、ギルドの受付を分身体で回しながら、ライア本人はいつも通り、ギルドマスターの見張りをしていた。
「だぁぁ…終わったぁ…」
「お疲れ様です、ギルド長…お茶でも入れますか?」
「あぁ…」
午前中にやらなければいけない書類を片付けたギルドマスターは、机に突っ伏しながら、うなだれる。
「…はい、どうぞ?」
「助かる―…そういえば、ライアの冒険者分体達は、昨日からダンジョン攻略だろ?大丈夫そうか?」
ギルドマスターはライアの入れたお茶を受け取りながら、アインス達の様子を聞いてくる。
「…ちょっと、夜の見張りが…平和で退屈な位ですかね?」
「はぁ?退屈のほうがいいじゃねぇか?」
少し変な顔をするライアをいぶかしみつつ、当たり前だろ?と常識を語るように言う。
「そういや、今日はもう書類はないのか?」
「え?…そうですね…セルスさんからは、今の所、急ぎの書類はないと聞いていますが」
どうして、ギルドマスター本人より、一受付のセルスの方が仕事量をわかっているのかは疑問だったが、そういう物だろうと、早々に考えるのはやめている。
「そしたら、ライアとした最初の約束もまだだったし、ちょいと教えようか?スキル」
「いいんですか!?」
実は、スキルを教えてもらうという約束であったが、最初の1週間はたまりにたまった書類の処理に忙殺され、ろくにスキル取得の時間が取れないでいた。
(いつも、仕事終わりに教わろうとしても、ギルド長が疲労で頼めなかったり、サボって仕事が終わらなかったりしたからなぁ…)
今日はある程度の仕事を片付いたので、ギルドマスターが当初の約束通り、スキルを教えてくれるらしい。
「ギルド長!!どんなスキルを教えてくれるんですか!?」
「待て待て…ひとまず聞いとくが、戦闘用スキルが欲しいとか、技術系のスキルが良いとかってのはあるのか?」
この世界の“スキル”にはいくつか種類がある。
剣術や槍術のような戦闘用スキルだったり、ヤヤ村の鍛冶屋のおじさんが5歳で貰っていた≪鍛冶≫のスキルのような技術スキル。(おっさんに取り方を教えてもらおうとしたが、取り方は知らないらしい)
後は、5歳以降には取得不可能な≪分体≫などの特殊スキルと、ライアが持っている≪自己回復≫や≪状態異常耐性≫などの自身の体に直接的な影響がある身体系スキルだ。
ただ、基本的に普通の人は、5歳以降には取れない特殊スキルとそれ以外と考える風潮があり、冒険者ギルドに来るまでは、ライアも戦闘用スキルや技術スキルと言った分類されていると初めて知った。
「ん~あまり、自分で欲しいのを探すっていうより、教えてもらったスキルを全部取って来たって感じだったので、すぐには思いつきませんね…」
「ならそうだな…特に欲しいのが決まってないなら、≪礼儀作法≫ってのを取ってみないか?」
「…?どんなスキルなんですか?」
ギルドマスターが言うには≪礼儀作法≫は貴族なんかは必須で取る物らしいが、受付や大きな商会の人なども取れば、身の振りや、立ち振る舞いが洗練される技術スキルの一つらしい。
「それを取れば、受付に立つ時に役立つだろうし、何も取る予定が無いなら取ってみないか?」
「…受付のレベルを上げるスキル…そんな感じですか…まぁ俺的にも、色々と演じる幅が増えて楽しいので、賛成です」
「よし来た!…それじゃぁまずは歩き方からだな…」
それから、ギルドマスターは近くにあった分厚い本をライアの頭に載せながら、まっすぐ歩くという、どこかで見た事のあるような練習を始める。
「……これって、頭のてっぺんが、紐で引っ張られてるように歩け、みたいな練習です?」
「おぉ?よくわかったな?もしかして、この練習は知っていたか?」
どうやら、前世で聞いたことのある練習法であっているらしい。
「いえ、そうゆう訳ではありませんが…
というか、ギルド長も≪礼儀作法≫を持ってるんですよね?…良かったら見せてもらえませんか?」
「ん?まぁ減るもんじゃねぇし、別にいいが…」
そう言いながらギルドマスターは、ライアの頭の上に載っていた本を自分の頭に持って行くと、そのまま、一切のぶれなく、部屋の端からは時までを、まるでそこがレッドカーペットかと錯覚するほど、優雅に歩いて見せる。
「…どうだ?これが≪礼儀作法≫だ」
「…すごいですね…いつものギルド長じゃないですね…」
「おい、そこは“いつものギルド長じゃなかったみたいです”って優し目に言えよ!…あん?どっちも同じだな?」
何ともアホそうな会話をしているが、この人も“元”とはいえ貴族なんだなと再確認した。
「…これは取ってみたいですね…面白そうです!」
「ハハハハ!スキルを面白そうで取るのか!…やっぱ面白れぇなライア!」
気合が入ったライアは、ギルドマスターの教えの元、その日は夕方くらいまで≪礼儀作法≫の取得訓練をしていた。
夜、再び夜の仕事を開始するギルドマスターは手を動かしながら、≪礼儀作法≫の訓練をしているライアに話しかける。
「ライア、おまえってあと何体分身体出せるんだ?」
「っと…そう…ですね…あと…11?ですかね?」
ライアは頭にのせた本を落とさないようにバランスを取りながら、「ヤヤ村に3人…冒険者に4人、受付に3人」と考えながら、答えていく。
「かぁーやべぇなそれ…ならライア、お前≪錬金術≫のスキルも取らねーか?」
「≪錬金術≫?なんですかその面白そうなスキルは?」
何とも心躍るワードを耳にし、思わず、頭に乗った本を振り落としながら返事をする。(本はきちんとキャッチはしている)
「面白そうだろ?…ってそうじゃ無くてな?よくよく考えてみたら、お前の≪分体≫と≪錬金術≫は相性がいいんだよ」
「ふむふむ、なるほど、というと??」
「…なんかいきなりアホっぽくなったな…」
それからギルドマスターに聞いてみると、≪錬金術≫は傷を治したりする傷薬や、なんとあの魔道具の加工にも必須のスキルらしい。
「≪錬金術≫ってのは≪魔力操作≫を持ってると、勉強をすれば取れるもんなんだが、≪魔力操作≫持ちも少ないし、仮に取得しても、傷薬1個作るのにも1人で30分くらいかかっちまうもんなんだが…」
「なるほど、俺一人が取れば、≪錬金術≫を持った傷薬を作れる人物が一気に10人以上増えるという訳ですね?」
傷薬というのは、前世のラノベ風に言えば、ポーションで、効き目は腕がちぎれていなければ、くっついてしまうほどの効果らしい。(セルス情報)
その傷薬は、ギルドではかなり品薄で、高級品だ。俺が仕入れることが出来たら、ギルド的にはとても助かるのだろう。
「≪錬金術≫を取って、傷薬を作ってくれたら、適正価格で買い取るが、どうだ?」
「楽しそうなので、取らせていただけますか?」
「ハハハ!お前はそうだよな!ハハハ!」
ライアは傷薬の件もいいが、どちらかというと、魔道具の方が気になってはいたが、それは今は言わなくても、わかっているだろうしいいだろう。
「それじゃぁ今度、≪錬金術≫を教えてもらえるように先生を呼んどくから!楽しみにしとけ!」
「先生…?」
ライアは、ギルドマスター自身が教えるわけではないのだなと思いつつ、その“先生”とやらを楽しみにすることにした。
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