始動のダンジョン2
――――ダンジョン攻略を開始してから約5時間が経過…
「デリャァ!!」
―――ズシャ!
ダンジョンを進むゼル達一行は、襲い掛かってくる魔物の対応をアインス達がすべて返り討ちにし、順調に進んでいた。
「よし、この先に少し広い場所があるから、そこで昼食にしよう」
「さんせーい!」
「わかりました」
ゼルに言われた通り、5分程先に進むと、遮蔽物がない大広間のような空間に着く。
「…と言っても、分身体は食事を取らなくても、大丈夫らしいから、俺たちの為の昼食になってしまうが…」
分身体達は、最初に少しの魔力で生み出してからは、気絶などをしない限り、消さない事も出来るのだが、何故か、継続的に魔力を消費するわけでも、食事を必要ともしていないので、今回のように、分身体だけで遠出なども可能である。
「構いませんよ、俺達も本体がちゃんとご飯食べていますから」
「…それは普通の事よね?」
そんな、取り留めもない話をしつつ、この後のダンジョン攻略について、話していく。
「ここからまた、5時間ほど進んだところにも、ここのような広い空間があるから、大体みんなそこで野営をするし、俺達もそこで休むといった感じで大丈夫か?」
「はい」
「よし、それじゃぁそろそろ、出発しよう」
ゼル達が昼食を取り終わって、この先の予定を話し合いながら、休憩を済ませ、ダンジョン攻略を再開する。
「それにしても、ダンジョンの魔物ってそんなに種類って多くない感じですか?」
ここに入ってからも、この間は行った時も、戦ったのはほとんどが、モームと、外のより少しだけ大きいかな?と思うゴブリンとしか会っていなかったので、そんな疑問が出る。
「確かに、ここら辺はダンジョンの第一層って言われるくらいだから、あまり強い魔物は出ないね」
「第一層?第二層や第三層などもあるんですか?」
冒険者ギルドでもダンジョンの中をそういった名称で呼んでいる人は居なかったはずだが、自分の知らない情報があったのかと質問する。
「うーん…正式な話じゃないんだけど…ここのダンジョンは入り口から奥に向かうほど、段階的に敵が強くなっていくから、冒険者の中で、魔物の出るエリアごとに、勝手にそう呼んでるんだ」
ここ以外のダンジョンは入り口から、恐ろしく強い魔物が出たり、とても広い上に迷路になっているダンジョンなどがあるらしい。
「だから、他のダンジョンでも“第一層”みたいな呼び名があるわけじゃないから、リールトンのダンジョンだけで使われてる仮称みたいなものだよ」
「そうだったんですね!…あ、ゴブリンですね…」
「ソォイ!!」
――ベコッ!!
話の途中でゴブリンが現れるが、少し先を歩かせているツヴァイに始末させつつ、そのまま歩いて行く。
「…ちなみにゼルさん達はどこまで行ってるんですか?」
「えっ?あぁ…俺たちは第三層と言われる、オーガとオークが出るところまでは行ったことはあるよ」
「(ゴブリンとは言え、ダンジョンの魔物をその辺の石ころ扱いね…ゼルもなんだかんだ、午前中でアインス達に慣れたのか放置なのね…)」
なにか、ミリアナから乾いた笑顔を向けられ、呆れられたような気がしてしまう。
(どうしたんだろう?)
そこからも特に苦戦も何もせず、ゼル達は、ただただ散歩してきたといった感情だったが、無事に野営予定地に着く。
「なんだかんだで少し早く到着してしまったが、先を急ぐものでもないし、今日はこのままゆっくり休むとしようか。
…それに今回はアインス達にダンジョン攻略を体験してもらうのが、主な目的だしな」
「ありがとうございます。ゼルさん」
それからは、普通の冒険者はどのように、ダンジョン内で野営するのか、などをレクチャーしてもらいながら、準備を進めていく。
「…ほんとにいいのかい?」
「はい!元々3日に1度はこちらが完全に休ませてもらう話なので」
野営の設営が終わり、寝床が出来、食事を済ませて、少し早いが寝ようとなった時に、見張りは3日に1度は休ませてもらうので、それ以外はこちらが見張りをするというと、申し訳なさそうにゼルが確認してくるが、元々そうするつもりだったので、気にせず眠ってもらう。
「それじゃぁすまないが頼む」
「はい、明後日はゼルさん達にお願いすることになるので大丈夫です!」
「おやすみなさい」「おやすみっすライアちゃん!」とゼル達が横になって、寝る体制に入る。
ダンジョンの夜は魔物の活動が少なくなるのか、あまり現れる事は少ないらしいが、それでも度々現れるらしいので、見張りは必須である。
「……」
必須と言っても、魔物の襲撃が無ければ、朝日も見えず、時間経過がわかりにくい洞窟の中で、ただただ、たき火を見つめるだけなので、ぶっちゃけ暇で、今はライア本体も起きているので良いのだが、寝た後は、冒険者組担当の≪分割思考≫は暇になってしまう。
「…もう少ししたら、魔物が来てくれないかな…」
アインスは誰にも聞かれないように小声で、物騒な暇つぶしを期待した発言をしてしまう。
―――――――――――
―――――――――
―――――――
「ん…んぅ~!…おはよう…」
「おはようございますミリアナさん」
アインスは、願いと裏腹に、襲撃の一切ない平和な一夜を過ごして、感情を無くしたような顔をしつつ、ミリアナに朝の挨拶を交わす。
「……なんか、死んだ顔してるけど…何かあった?」
「…いえ、普通だったら、多分良い事ではあるので、大丈夫です」
「???」
ライアは、≪分体≫の特性上、色々とやれることの多い生活の中で、暇になるという感覚が無くなって来ていたので、自分は軽いワーカーホリック状態なのだと、今日初めて知った。
「うぅ…戦いたい…」
「え?ほんとに大丈夫?」
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