始動のダンジョン







――――アインスside



「今日はよろしくお願いします」



「こちらこそ、今日はよろしく頼む。…こんなに早くライ…アインス君たちと一緒にダンジョンに潜るとは思っていなかったが、すごく頼もしいよ!」



そう言って、ゼルさんはこちらに笑顔を向けて来るが、実は今回のパーティは急遽に決まった物だ。



先ほど、ギルドマスターに“仲間を募集すればいい”と他の冒険者パーティを誘い、ダンジョンに潜ればいいと気付かされてから、すぐに募集をしようとした時なのだが…



『あれ?ライアちゃん、パーティ募集の張り紙っすか?』



『え?あ、はい…実は…』



丁度、受付から出て、人員募集の紙などを貼る“掲示板”に募集用紙を貼りに行くと、タリスがおり、事情を話す。(もしかしたら、出てくるライアを追って来たのかもしれないが)



『なら、俺たちと行かないっすか?俺たちなら、お互いのスキルなんかはわかってますし、人数的にも多すぎない感じになるっすよ?』



と、いう事なので、そのままタリスはゼルに話を持って行き、ミリアナもOKとの事だったので、ダンジョンにいく事になった。



……その次の日に。



「…タリスが良い恰好したいのはわかるけど、急すぎないかしら?」



ミリアナは宿で休んでいるタイミングで、その話を聞き、5日後位にいく事になると思い、「楽しみね」なんて言いながらOKを出したら、その翌日に出発したので、さすがに困惑していた。



「あはは…なんかすいません…」



アインスは申し訳なさそうに謝罪をするが、ミリアナは「タリスがアホなのが悪いから」と笑ってくれた。



「ゼルさん、今回は急でしたが、準備とか大丈夫でした?」



「あぁ、元々依頼がない間は、ダンジョンに潜ろうと予定していたからな。

こちらに問題は無いよ!」



こちらは、睡眠と防具や武器以外は特になくても問題は無いが、ゼル達が食事も身を奇麗にするためのタオルなんかもいるだろうが、そういうのも大丈夫そうだ。



「よし、それじゃダンジョンに向かうか」






――――――――――――――――

――――――――――――

―――――――――





リールトンの街のダンジョンは町が入り口を管理しているが、街の中にあるわけではない。



街から徒歩で20分ほど歩いた先の森に、ダンジョンの入り口がある。



ダンジョンの入り口には街の兵士が立っており、冒険者やダンジョンに入る、許可をもらった人物以外が、入ってしまわないようにしているのだ。



「冒険者証か、ダンジョンへの許可証の提示をお願いします」



「はい」



ライアたちは兵士に冒険者証を見せていく。



「…はい、大丈夫そうですね」



ダンジョンに入って死んだりしても、自己責任ではあるが、誰が入って行って、誰が戻ってきていないかの確認はしているらしく、名簿に名前が載る。



(つまり、ダンジョン内で仮に分身体がやられたら、俺がダンジョンまで赴いて、また≪分体≫を使わないといけない)



≪分体≫のスキルは、分身体には使えず、ライア本体からしか、分身体は生み出せないのだ。



特殊スキルは分身体には使えないのか?とも考えて≪経験回収≫の方も試してみたら、普通に使えたので、≪分体≫で≪分体≫は使えないという仕様のようだ。



(そうなったら、自分の体で、初めて魔物の前に立つことになるかも…)



“気を付けよう”とそんな風に考えながら、ダンジョンの入り口で許可をもらい、中を進んでいく。



ここ、リールトンのダンジョンは洞窟の形をしており、奥に進めば強い魔物が居ると言われるダンジョンだ。

洞窟なので、松明をもって入るのだが、ダンジョンの中は、松明が無くてもダンジョンの中でだけで光る、“照明石”と言われるものが、そこらかしこにあるので、最悪、松明を失っても真っ暗になる事はない、親切設計である。



(こうゆうのもご都合主義だったりするのかな?…それともダンジョンの何か特性とか?)



色々思考を巡らせながら歩いていると、早速ダンジョンの魔物の反応が出る。



「前方に“モーム”が1匹、進んで来ます」



「来たか…それじゃぁアインス達に任せるぞ?」



「はい!」



モームという、土の中や、砂の中を泳ぐように移動して、地面から攻撃してくるミミズのような魔物の接近を感知し、ゼル達に知らせる。



そして、実は今回のダンジョンを進むにあたり、色々決めていた事があったりする。



1つ、ダンジョンの魔物は出来るだけアインス達が倒していく事。


2つ、倒した魔物の素材や魔石はゼル達の物とする事。


3つ、野営をする際は、3日に一度はアインス達、全員を見張りなどさせずに休ませる事。



この3つをダンジョンに入る前に話して、決めていた。



1つ目に関しては、ライアたちが今後のダンジョン攻略の指針にするために、どれほど戦えるかを調べるためにゼル達から提案してくれた。



その条件はライアたちにも経験値的にも、戦い的にも、嬉しい事だったので了承する代わりに、2つ目の条件をライアたちが提示した。



ゼル達は何もしないで、そんなの貰えない。と言われたが、ダンジョン攻略は野営が出来ないアインス達にとっては大事な事だったし、魔物を全部倒させてくれるなら、こっちが貰い過ぎだ。

とねじ込んだ。



そして3つ目は4日以上は疲れが出てきそうだったので、3日という期間になった。




ちなみに、今回は1か月以上は潜る予定で入っているので、ミリアナに関しては、激しく戦闘を行い、汗だくになるよりは全然いいと、より好評だった。




「それじゃ…行きます!」


―――ザスッ!



アインスは今回は魔法を温存しつつ、戦う予定なので、モームが地中からこちらに近づいて来たので、≪索敵≫でモームの居るであろう地中に剣を突き刺す。




「――キュア”ァァ…」



モームは場所がバレていると思っていなかったのか、回避運動もせず、あっさりやられていく。




「そいじゃぁこっちも」



「やっちゃおう!」



―――ザザグッッ!!



「キャア”ァァァ…」



地中を進む、残りもう一体の方には、槍を持たせているドライとフィーアの双子を向かわせ、モームを地中で串刺しにする。




「よっと…このモームは≪索敵≫があったら特に問題はなさそうですね」



地面から剣を抜きながら、問題はない、とゼルに報告する。



「んー…やっぱり≪索敵≫のスキルはいいな…モームは地面を出てくるタイミングを予測して、倒していくしかなかった魔物なんだが」



「≪索敵≫は、自分一人で、空気や、音、スキルなんかの力で広範囲の状況がわかる人じゃないと取れないですからね」



「一度は挑戦したことはあるんだが、どうも、目に見えない状況の把握と言われても、わからなくてね」



≪索敵≫のスキルは取ることが難しいとされるスキルで、ゼルさんも取ろうとしたことはあるが、断念したスキルらしい。



「俺の知り合いに、1人だけ≪索敵≫持ちがいたっすけど、色んなパーティから、引く手数多だったっすね…」



タリスの知り合いには≪索敵≫スキルを5歳でもらえた人が居たらしいが、その人物ももう、どこかに行ってしまったらしい。



「そんなスキルを実質、何人も生み出せるライアちゃんは反則よねぇ…」



ミリアナの言う事は間違いない、とライア自身も頷いてしまう。



「やはり、かわいいは正義っすね!」



「…あんた、衝撃過ぎて、ライアちゃんが男って忘れてるわけじゃないのよね?」



「忘れてはいないっす、でも!俺はライアちゃんが男って信じない事にしたっすから!」



タリスは“自分の意志は曲げない”と強い意志を見せ、周りを呆れさせる。



(いわゆる、俺をアイドルみたいにでも見てるのかな?)



そんなほのぼのとしながら、ダンジョンの魔物を倒しつつ、奥へ進んでいく。







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