始動のギルド業務





――――歓迎会から1週間




「…よし…」



ライアの新しい部屋である401号室で、ライアは新しく買った化粧台の鏡を見ながら、ギルド職員の恰好をしていた。



―――ゴーン…ゴーン…



朝、軽めの朝食を取った後、ライアは身支度を終わらせ、最後の確認をしていると、街にある教会から、朝を知らせる鐘の音が聞こえてきた。



「…ん、もう行かないと…」



ギルドの仕事は、朝の鐘の音がなってから、大体20分後くらいから仕事が始まる為、鐘の音を聞いたら部屋を出る事にしていた。



「あらおはようライアちゃん!頑張っておいでね!」



「はぁーい!サラサさん行ってきまーす!」



受付に居たサラサに朝の挨拶を交わしながら、ギルドに向かう。




「おはようございまーす!」



「おはよぉライアちゃんー」



「おはようライアさん」



ギルドに着くと、ミリーさんとセルスさんが、いたので挨拶をする。



「ライアさん、朝の受付準備と、この依頼書束をボードに張って来てもらっていいですか?…それと、またマスターの部屋の掃除もお願いしてもいいですか?」



「わかりました!≪分体≫」



セルスさんは忙しそうに、朝の業務をしているのか、こちらに仕事を振ってくる。



その指示も普通であれば、少し一人では辛いものだが、こちらに≪分体≫があるのがわかっての指示だ。



「…すいません、ライアさんの≪分体≫を頼ってしまって…」



「構いませんよー!まだまだ余裕はあるので!」



「…頼もしすぎて、使えないとわかってても、≪分体≫が欲しくなってしまいますね」



今のライアは冒険者組4人とヤヤ村3人、それから職場用に3人を新たに出している。



ちなみに冒険者組は、一応別人の設定だったので、別の宿に泊めて、≪経験回収≫はたまにする予定だ。


さすらいの宿には泊めようかと最初は思ったが、職員割じゃないと結構高い値段だったので、別の宿にすることにした。



(そりゃ、あんだけ魔道具が完備されてるところが、安い訳ないよね)




「それでは、お願いしますね」



「「「はーい」」」




朝の業務も終わらせ、冒険者達の受け入れ準備ができ、受付業務を開始する。




「やぁライアちゃん!この依頼を頼めるかな?」


「ライアちゃん!昨日の依頼書ってもうなくなっちゃったのかい?」


「ライアさん、実は相談があるんだが、少し来てくれないだろうか…?」


「ライアちゃん!そんな垂らし野郎は絶対ライアちゃんを狙ってるっす!危ないっす!」


「男ってやぁね…ライアちゃんもそう思わない?」


「……うぉ!?…同じ顔の受付嬢が3人もいる…」




冒険者は朝一の依頼書が発行されるタイミングで、いい依頼を探そうと、朝に集まるので、朝が一番忙しい。



(ははは、分身体3人分で人の話を聞いてると、≪分割思考≫があってホントに助かるなぁ…タリスさんも、俺が男ってわかってくれなかったのか…)



タリスの話しかけている分身体から見える位置に、ゼル達が居るのが見える。


ゼル達とは別れたその次の日には受付で再開し、ギルドに来て、どうなったのかは話している。



そして、分身体3人に受付業務に任せて、ライア本体はマスターの秘書的な業務をすることが増えた。



「ギルド長?手が止まってますよ?」



「うぐ…」



と言っても、ギルドマスターが仕事をサボらないように見張る役目が本題で、たまにお茶出しをするくらいだ。



「ねぇねぇライアちゃん…スキルの習得練習しようぜ?今ならセルスの奴も見てないだろうし…」



「……すいません、ギルド長…今、セルスさんが受付業務をしながら、こっちをにっこりと笑ってみてきたので、やめときます…」



「ひぇ…」



なんで、見えないし、聞こえないはずの今の会話を察知して、分身体経由で脅して来れるのだろうか…



「セルスさんからはギルド長のやるべきことが終わったら、スキルの習得に動いていいと言われてますので、俺も手伝える事は手伝いますから、仕事をやってください?ギルド長。」



「ライアぁー…」



ライアはこの1週間で、ギルドマスターの扱いはわかって来ていたので、仕事をやってくれるように勧める。



「そういえば、昨日、アインス達でダンジョンに入ってみたんですが、あそこの魔物ってもしかして、外の魔物より強いんですか?」



「ん?あぁ、ダンジョンの方の魔物は多くの経験値が取れることから、外の魔物より強い事は証明されているな」





このリールトンの街には代表的存在がある。



それがダンジョンという物で、ライアはダンジョンの存在をゼル達から聞いていた。



「ダンジョンは取れる魔石の大きさも、魔物の素材や肉の美味さなどもかなり違うし、たまにミスリルなんてものまで取れるからな…魔物も、それに合わせて強いんだ」



「あぁ…どうりで…」



(ダンジョンにいた、ゴブリン、普通のよりちょっと大きかったし…)




このリールトンの街以外でもダンジョンはあるらしいが、見つかっていない物や、他の国が占領しているかで、この国では2つしかダンジョンはないらしい。



(ダンジョンって聞いた時は“おおぉぉ”って興奮した。昨日は奥に行けなかったけど、しばらくはダンジョンがメインかな?)



ダンジョンは狭いし、結構深く、野営しながら潜らないと、余り奥に行けないらしく、野営道具が必要であった。



ライアの分身体は食料もお風呂も要らないが、≪分割思考≫で交代交代で脳を休めても、今の≪分体≫使用率だと、5日くらいが限界だ。



ダンジョンは一番奥の方まで行ったことはないらしいが、少なくとも片道1か月ほど、潜っていけるほど深いらしい。




「ギルド長は、睡眠が要らなくなる…というより、睡眠をしなくても我慢できるようになる!みたいなスキルって知りません?」



「そんなスキルがあったら、オレはセルスに取らされて、不眠不休で働かせられそうだ…」



それはありえそうだと思ってしまうのは何とも…。




受付に居るセルスも心なしか、にっこりしていて、背筋がヒュンとしてしまう。



「ぶるるぅ……まぁそんなスキルは多分≪分割思考≫くらいしかできないんじゃねぇか?」



「そうですか…なら、素直に野営道具を持って、安全を祈りながら野営する事にします」



これはしょうがないので、安全に野営できるようにどこか、横穴や、隙間を見つけて、魔物が入ってこれないようにしながら、進めていくしかないかな?と考える。



「いや…今の話しの流れ的に、ダンジョンでの話だろ?なんで他の仲間を募集しないんだ?」



ライアは冒険者ギルドで受付をしながら、仲間募集の張り紙を見ていたのを思い出して、自分も人を募ればいいのではないか、と思い至る。



「あ」




ライアはほんの少しだけ疲れていたのかな?と思うのだった。





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