始動の出会い
ギルドマスターと受付さんに性別を明かしたら、“面白いからいっか”と結果的に受付嬢の制服を渡され、受付さんに事務所内を案内してもらった。
「明日から同じ受付として、よろしくお願いします。
私の名前はセルスと言います。」
「よろしくお願いします」
事務所の案内を終えると、セルスさんは分身体4人を例外的に冒険者登録をしてもらい、冒険者になると持つことになる“冒険者証”という首飾りを4人分を貰う。
「これは?」
「これは冒険者ギルド全支部共通の身分証になります。
これは魔道具とかではありませんが、その人物の名前を裏に刻印しているので、自身の証明になりますので、無くさないでくださいね」
冒険者証は自身が冒険者だと示すものらしく、分身体には、「常につけていてくださいね」と言われた。
(ドックタグみたいなものかな?)
それからは、冒険者ギルドでの注意や明日からの仕事、決まりごとの説明をしてもらった。
「…そういえば、ライアさん今日、村から出てきたんですよね?住む場所か、泊まるところなどは、決まっていますか?」
「いえ、まだ決まっていないですね」
リールトンの街に着いてからは、すぐに冒険者ギルドに向かっていたので、宿や、不動産屋さんはどこにあるのかも知らない。
「では、ギルドと提携している宿屋兼、職員の寮…のようなところがあるのですが、そこに来てはいかがでしょう?そこを利用している、他のギルド職員達なども紹介出来ますし、何より職員価格でとても安いですし」
「いいんですか?…でしたらお願してもいいですか?」
セルスさんの紹介で宿の確保も出来、場所は近いようなので、ライア本体は、宿に向かう事にする。
「セルスさん、分身体達はこのまま冒険者業をさせてもらってもいいですか?依頼を受ける訳じゃないですけど、近場の狩場や、出る魔物なども見ておきたいので」
「わかりました。では“アインス”さん達に色々教えておきますので、夜に宿屋で」
セルスさんは、公私混同しないように、分身体に付けた名前で呼び、別人として扱うようだ。
そこからライアは、セルスさんに教えてもらった場所に行くと、宿屋というより、マンションのように見えてしまうレンガ造りの立派な建物が見えてくる。
―――ガチャ
「すいませーん…」
「はぁーい!いらっしゃい!」
中に入ってみると、受付があり、そこには一人の女性が立っていた。
「すいません、ここって冒険者ギルド職員が使ってる、“さすらいの宿”ってとこで合ってますか?」
「そうだね、うちがさすらいの宿で合ってるよ?紹介かい?」
どうやら場所は会っていたようなので、セルスさんの紹介という事と、今日から職員になった事を伝え、セルスさんにもらったギルド員証を見せる。
「あら、あんたがククリちゃんの後釜かい?そりゃよかったよ!他の職員も仕事が増えて大変そうだったからね!」
「まだ戦力になれないと思いますが、頑張ってみます」
どうやら、寿退社したのは、ククリさんという女性らしい。
「ハハハ!頑張んな!それじゃぁ先に、これが4階の401号室の部屋のカギだよ!無くさないようにね」
「はい、気を付けます」
「それから、ここは他の宿と違って、食堂とかは無くて、食事は出ないよ?その代わり、隣の飲み屋なんかでご飯は食べていたりする人もいるし、部屋にはキッチンがついてるから、自炊をしてもいい」
おかみさんに部屋のカギを貰い、宿屋の決まり事なんかをレクチャ―してもらう。
「まぁ、宿屋としてやってはいるけど、元々ここはアパートで、それを宿屋として使ってるからね…。普通の1人部屋と同じ扱いさ」
やはり、この建物は外から見た感じ、アパートっぽいなとは感じたが、アパートを改装して作った物らしい。
「私はサラサって言うから、他に何か聞きたいことが出たりしたら、ここに来てくれれば質問には答えるから!頼りにしてくれていいよ」
「ありがとうございます、サラサさん!よろしくお願いします」
ライアはサラサさんに見送られつつ、階段を昇って行き、4階の部屋に向かう。
―――ガチャ
「ほぉー…中々に広い…」
401号室を開けて入ってみると、大体12畳?ほどのリビングと別でキッチン、トイレや風呂場があり、村にはなかった都会っぽさを感じるつくりをしていた。
「…これ、全部、魔道具使ってるんだ…」
村では、トイレは決まった所に捨てに行っていたし、風呂場なんて上等の物はなく、大きいタライにお湯を貯めて、体を洗う程度だった。
しかし、ここの設備は魔道具を使い、限りなく前世に近いものになっている。
「俺…ここに永住しようかな…」
前世の生活を知っていたライアは、浸かれる浴槽があるだけで、よだれが出るほど喜ばしいものだ。
「いやいや…この生活をするだけなら、前世でいくらでも出来たんだ…この生活以上の生活を家族みんなに、させてみてこそじゃないか…」
ライアは、特に意味もなく葛藤をして、頑張るのだと張り切る。
「さて、部屋に荷物を片付けたら、他の分身体の使い道でも考えようかな…」
ライアは分身体達が持って行った防具や、武器の類以外の荷物を、部屋に収めていき、部屋づくりを進めていく。
「明日からは受付の仕事もやる事になったし…いかにも新生活って感じだね!」
―――――――――――――――
――――――――――
――――――
「「「「かんぱーい!」」」」
時刻は夜、ライアは今、サラサさんに教えてもらった、隣の飲み屋でギルド職員による、歓迎会を開かれていた。
「いやぁぁこのままずぅっと、新しい子が入らないんだとばかり思ってたけど…ほんとに、よかったぁぁ…」
酒をまだ飲んでいない段階で、ライアの加入を泣くほど喜んでいる小柄な女性がミリーさん。
「しかも、ライア殿はあの≪分体≫を使いこなせるのであろう?もしかしたらライア殿が2人に増え、作業量も2倍になんてことも…」
喋り方が少し古風な男性がカズオさん…名前に関しては、地域特有の物らしい。
「それじゃぁライアちゃんが2倍働くことになっちゃうじゃない…それにさすがにそんなのは無理よ」
自己紹介時に「こんなにかわいいならライアちゃんね!」と男でも可愛ければいいタイプの女性はネリヤさんと紹介してもらった。
「ハハハハ!まぁしばらくは教育期間であれだろうが、新しい仲間だ!今日は飲もう!」
「マスター?あまり飲み過ぎで、またテーブルとか壊さないでくださいね?」
歓迎の場には3人の他にセルスさんとギルドマスターも同席している。
ギルドマスターの酒癖は悪いようだが…
「…一応、分身体はまだ出せるので、仕事で分身体を使う事にもなると思いますよ?」
「「「いやぁったあぁぁぁぁ!」」」
よほど仕事が嫌だったのか、ミリーとカズオ、そして、ギルドマスターが叫ぶ。
(おい、ギルマス…)
「でもライアちゃんはいいの?大変じゃない?」
「まぁ大変じゃないとは言わないですけど、忙しい時だったりには出そうかと…それに、何かスキルを取りたいときや、用事が出来た時には、分身体で職場に行く予定なので、多めに働いておこうと」
さすがにみんなが忙しそうにしている時に、こっちは分身体で職場に来て、本体が遊んでいるというのは心苦しく思うので、日ごろから頑張っていれば、心労を軽くできるといった下心もあったりする。
「それも自分のスキルなんだから気にしなくてもいいのに…」
「まぁでも、他の人の仕事を、奪うようなことはしないので、ほどほどに使って行きます」
さすがに、仕事場をライアだけで回せるようになったとしても、さすがにそんなことはしたくない。
「えぇー!…ダメなのかぁ…?」
ギルドマスターは少しそんな考えがあったのか、酔った顔で悲しそうにする。
「マスターに仕事が無くなる事なんて、あるわけないんですから、ライアさんに頼っても駄目ですよ」
「うぇあーい……」
“セルスさんはマスターのお母さんか、何かか?”と思いながら、その日は職員のみんなと食事や、お酒を楽しんだ。
「あら、ライアちゃん…結構お酒飲めるのね?」
「…≪状態異常耐性≫を持ってるせいか…酔えないみたいです…」
「あぁ……どんまい?」
酒のアルコールも毒素として分解されているのか分からないが、初めてのお酒で酔う事は出来なかった。
(くぅぅ…。酔いたい…。)
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