始動の戦い






「……ホントに10人もの盗賊とやり合って、勝機があるのなら、ここで一緒に戦ってくれると嬉しいが…」




アインスの言葉を聞き、その言葉に嘘はないと判断したゼルは、アインス達に協力を願い出る。



「はい、森では最大で20匹位のオークを倒してましたし」



「…それが仮に本当なら、ベテランの冒険者並みね…」



ライアの森での戦績を話してみると、弓使いのミリアナが反応する。



…本当はもっと多かった気がするが、確実にいた数で言うと、それでも多かったらしい。



「よし!それなら俺たちが盗賊たちの正面を受け持つから、アインス達はラルフさんの安全を確保しながら、援護を頼む!」



「「了解!」」



ゼルは、アインスの話を嘘と考える時間もないと判断し、すぐさま周りに指示を出す。



―――ビュン!!



そうしていると、森から狙ってきたであろう矢がゼル目掛けて飛んでくる。



「ぜりゃ!!」


――ベキッ!



森から飛んできた矢を、ゼルは剣で切り落とす。



「出てこい!盗賊なのはわかってる!」



「―――……へへへ?良く弓矢に気づけたな?」



ゼルが森に向かって呼びかけると、数人の盗賊たちが現れる。



(8人?…弓矢を持った奴が居ないから、奥に弓矢を持った奴を隠れさせてるな?)



ライアは出てきた8人の他に、2人の隠れているところを≪索敵≫で把握し、そこに照準を向ける。




「おぉぉ!中々に別嬪ぞろいじゃないか…今日はついt「“マッドショット”!」!?」



「「ぎゃぁ…」」



盗賊が何か言いかけていたが、それを遮り、後ろ2人の弓持ちを沈ませる。



(ちなみに“マッドショット”は泥を飛ばして、魔物など相手の動きを止めたりするために考えた魔法だ。人間相手だったら、衝撃で気絶するくらいだから…死にはしないはずだ…)




「な…魔法だと!?それになんで後ろの2人がわかった!?」



どうやら、盗賊たちは≪索敵≫で、人数や場所がバレている事は気づいていないようだ。



「…よし!このまま俺たちは盗賊の正面を抑えるから、アインス達は任せる!」



「了解です!“マッドショット”!!」



どうやらゼルは、アインスの魔法を見て、大丈夫なのだとわかって、こちらは自由に動いてもらう方が良いと判断したようだ。



――――ドシャッ!


「ぎゃぁ!!」


――――ドシャッ!


「ぼぶ!?」



「ぐっ…くそ!あの魔法を使ってくる男をヤレェ!!」



続けざまに、マッドショットの餌食になり、やられていく仲間に焦ったのか、盗賊のリーダーらしき男はアインスを狙い、指示を出す。



「へい!…ってぎゃぁ!!」


―――ザクッ!



「そう簡単には抜かせないっての」ビュン!



――――スパッ!


「ぐあぁぁ」



「そうっすね、こっちを忘れて行かないで欲しいもんすよ」



ゼルの横を通り抜け、アインスに向かおうとした盗賊は、ミリアナの弓と、タリスのカバーでやられていく。



「ッく…っと!?」



「後ろの魔法ばかり気にしてると、足元救われちゃいますよっと!!」


―――ズパッ!!



「ぐぅぅぅっ!!!」



意識を逸らした隙を、ゼルは見逃さず、盗賊のリーダーに傷を負わせる。



「くっ!撤退だ!動ける奴は、こいつらの邪魔しつつ、撤退するぞ!!」



リーダーは自身に勝ち目はないと悟ったのか、撤退を選択する。


…あたかも全員で逃げる為に“邪魔をしつつ”といったように感じたが、どう見ても、リーダーが一目散に逃げている為、足止めをさせたいようだ。



「…そういうこすい事考える奴は、逃がせないんだよね!“マッドショット”ッッ!!」



「ぐっ!!……」



逃げる背中を狙い撃ち、リーダーを気絶させて、残りの盗賊も難なく捕縛する。




「いやぁ…アインス君すごいね…アインス君の魔法だけで勝ったような物じゃないか」



「そうね、魔法の強さってピンキリだとは思うけど、アインスの魔法はすごい威力だと思うわ」



「アインス君の魔法に加え、他のみんなも戦えるんっすよね?将来有望どころの話じゃないっすよ!



盗賊との戦いが終わり、一息つくと、ゼル達がアインスを褒める。



「いやいや、ゼルさん達の前衛がきっちり守ってくれたんで、魔法に集中できたんですよ…それより、盗賊たちは街に連れて行けば、犯罪奴隷ってのになるんですか?」



戦闘前はあまり聞ける雰囲気では無かった為、聞けずにいたが、少し気になるワードではあったので、質問をしてみる。



「ん?あぁそうだが、もしかして村から出た事ないから、“奴隷”という制度も知らないのかな?」



「恥ずかしながら…」



ラノベでよくある話だと、主人公がひどい扱いを受けている奴隷を助け、その奴隷と恋に落ちたり、奴隷たちを救い、英雄のような話があったりはする。



「えっと、この国には犯罪奴隷と借金奴隷の2つがあるんだ」



ゼルいわく、犯罪奴隷は犯罪を犯し、人の命を無為に奪ったりすると落とされる身分で、基本的に、国が主体で、危険な仕事や過酷な労働を強制される制度らしい。


それに対し、借金奴隷は借りたお金を、返せなかったり、期限に間に合わないと落とされる身分で、借金が返されるまでは借金主には逆らえず、仕事を強制されるのは同じだが、こちらは人権が適用されており、命を掛けたり、性的な仕事などの強制はしてはいけない決まりになっている。


仮に、借金奴隷の人権を無視した行為が露見すれば、貴族でも犯罪奴隷落ちになるという徹底ぶりらしい。



「とまぁそんな感じで、犯罪奴隷にはなりたくないって奴がほとんどで、盗賊とかをやるやつが減ったはずなんだが…こういった奴らはたまにいるんだ…」



そう、何とも言えない顔で、縛られている盗賊たちを見るゼル。



「それに、貴族でも奴隷落ちって言っても、そういう事をする奴は隠れてやっていたりするから、ともかく借金はしないようにするのが鉄則だな」



「そうしときます…」


借金は元々するつもりもないが、気を付けようと考えるライア。



「それじゃぁ、今日はもう夜も遅い、俺たちが交代交代で見張りをするから、みんなは寝てくれ」



「…俺たちも見張りを手伝いますよ?」



ライアの≪分割思考≫を使って、本体は寝たまま、分身体に見張りをさせる事も出来る。(ずっとやると疲れて来るが)

なので、見張りの手伝いを申し出る。



「戦闘ですごく助かったんだ、見張り番くらいしか恩返しは出来ないが、受け取ってくれないか?」



「…そういう事であれば、ありがたく寝させてもらいますね?」



ゼル達は最初、まず勝てないだろうと思われた戦力差を感じていた為、アインスには恩を感じているらしく、見張りは譲れない、と言った感情を感じたので、素直にお願いすることにした。

 





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