始動の旅立ち






「―――忘れ物はない?お金はちゃんと持った?向こうについて忘れてたってなっても、すぐには戻れないからね?」




かぁさん達に抱きしめられながら寝るという2日間を過ごして、今日は商人さんが、村に来る日で、ライアの旅立ちの日になった。



「大丈夫だよかぁさん、お金は持ったし、荷物なんかは分身体に持たせてるから忘れ物なんて無いよ!」



時刻は昼過ぎで、商人のラルフさんは村での商売を終えて、村の端に止めている馬車に荷物を積み込んでいる最中だ。


今回、街までライアたちを乗せていく話はすでに許可をもらっている。




「ライアが強いのはわかってるが、何事も油断せずに気を付けて頑張って来いよ!」



「……年に何回かは帰ってくるのよ?」



「…うん!頑張ってみる!」



そんな別れをかぁさんととぉさんとしていると、ラルフさん達が出発するようだ。



「それじゃ、行ってきます!!」



両親の所を離れ、商人のラルフさんの馬車に近づいて行く。



「ラルフさん、今日はお願いしますね」



「あぁ、よろしくね?ライアちゃん」



“よし、出発しよう!”というラルフさんの声に、馬車の周りにいた人も動き出していく。



かぁさん達に見送られながらライアたち一行は生まれ育ったヤヤ村を出発する。





――――両親side



「行っちゃったわね…」



「あぁ…でもライアは大丈夫さ…あの子は、色んな意味で強い子だ」



「…それでも私は寂しいのよ?」



「それは俺もだ…でも待っててあげよう…俺たちの息子を」



「…えぇそうね…お腹の子も一緒に待ってくれるものね!」



そう言って、かぁさんは自身のお腹に手を当てながら、ライアの向かった先を見て、悲しそうに笑顔を向ける。





「えっと…分身体だけど、ちゃんといるんだけど…え?居る事、忘れられてる?」



両親の後ろで、普通に残っているライアの分身体は、何か居づらさのような疎外感を受けた感覚がした。





――――ライアside




「かぁさん達は…もう…」



両親の大げさな別れに、何とも言えない感情になってしまう。



「…?どうかしたのかい?」



「あ!いえ、少しかぁさん達の言っていた事を思い出していただけです」



思わず出てしまった、独り言を聞かれたので、誤魔化しておく。



(≪分体≫のスキルはまだラルフさんには言ってないからな…)



今回、ラルフさんの馬車に載せてもらったのはライア自身の他に、分身体4人が居るが、全員別人で、仲良し5人で街に行く、という話で馬車に載せてもらっている。



(≪変装≫スキルのレベル上げをずっとやっていてよかった。おかげで、怪しまれてないっぽい)



≪変装≫を取得して、5レベルくらいまでは気づかなかったが、≪変装≫のスキルは、ほんの気持ち程度だが、顔の印象や髪色を変えられる。



なので分身体4人は、赤味がかった金髪の男の剣士を“アインス”、短髪の茶髪で男の格闘家を“ツヴァイ”紫色のポニーテールにした双子の女性槍使い2人を“ドライ”と“フィーア”と名付けて、全員別人という演技をしている。(名づけは確か、ドイツ語の数の数え方のはず…)



ライア本人は髪を短くしてしまうと、新たに生み出す分身体も短くなってしまう為、常にロングだ。



(おかげで、俺は最近、常に女装だが、慣れると自分磨きも楽しくなったしなぁ)



と、色々考え込んでいると、剣士の分身体に話しかけられる。



「君らは冒険者になりに街に行くのかい?」



「…あ、そのつもりです!護衛の皆さんも、街の冒険者なんですよね?」



「あぁ、俺たちはリールトンの街の冒険者だよ…って事は君らは冒険者仲間になるんだな」



実はラルフさんの馬車は、いつも護衛で冒険者の人がついていて、今回も話には出ていなかったが、馬車に乗っている。



この辺りは魔物とかは出ないらしいが、盗賊はたまに出て来るらしい。



その為、自衛の為、冒険者を雇い、村々に買い付けや、商売をしているのだそうだ。



「俺たちもまだ冒険者になって2年だから、あまり偉そうなことは言えないが、頑張りなよ?」



「はい!」



冒険者達は3人パーティで、今話していた剣士風の男性が“ゼル”、辺りを警戒するために、馬車から外を時折、確認している短剣を持った男性が“タリス”、弓使いと言った風貌の女性が“ミリアナ”と教えてもらい、お互いに自己紹介をしたり色々話を聞いていた。






「ラルフさん、街まで行く途中で、一度、野営するんですよね?」



「あぁそうだね、暗くなる前にいつも使っている川沿いの平原で野営する予定だ」



後ろの冒険者組と分身体達と話しながら、ライアはラルフに今日の予定を確かめる。



「ライアちゃん達は保存食か、何か食料は持ってきたかい?なかったらいつも儲けさせてもらっているから譲ろうか?」



「いえ、一応野営の事は聞いていたので、持って来てます!」



前からラルフには色々話は聞いていて、街までは馬車で2日は掛かる事や、野営の事も聞いていたので、オーク肉の干し肉や、保存食は持ってきていたので、食料に問題ない。



「ははは!準備が良いもんだね…そうゆうのを忘れない子は大成するだろうね!」





―――――――――――――

――――――――――

―――――――





そういった話をしながら、何もないまま、野営予定地に到着する。



「…よぉしどぉどぉ……さぁ!ここで野営しますんで準備をお願いします!」



「「「はーい」」」



野営地について、ゼル達、冒険者組は最初に馬車を下りると、火をつける為に木を集めて来る。



おそらく、暗くなってしまったら、木を集めるのも、食事をするのも大変になってしまう為、明かりの確保が最優先のようだ。



「っとこんな物かな…」



と、ほんの数分で、木を集め終わってしまっていた。



ゼルは集めた木々に火をつける為、一番乾燥して、火が付きやすそうな部分に火打石の要領で、火を付けようとする。



――――ガチンッ…ガチンッ



「……あの、ゼルさん」



「ん?どうしたんだい?」



「火、つけましょうか?俺、魔法使えるので」



ライアは分身体(アインス)で、何もしないのは悪いと感じ、魔法で火起こしの手伝いを申し出る。



「え?魔法が使えるのかい??それは助かるけどいいのかい?」



「はい、何もしないのは申し訳ない気持ちになってしまって…」



「別に、気にしなくてもいいんだけどね…でも助かるよ、アインス君!火をつけるのって何気に根気がいるからね」



そのまま、魔法で火を起こしてからは、寝る場所の確保や、川から飲み水の確保に動いて、食事にすることにする。





「…それじゃぁみんなはもう、ヤヤ村で魔物狩りなんかは経験積みなんだね?」



「はい、魔法や戦闘用のスキルをみんな所持してるので、ゴブリンやらを色々と」



食事を取りつつ、アインス達の村での生活を聞かれたり、逆に街の冒険者ギルドの話しなどをしていた。



「それじゃぁ街に着いたら早速、登録に行ってみようと思います」



「うん、それがいいさ!…俺たちはラルフさんの商会まで行って、護衛完了のサインをもらって来ないといけないから、ついてはいけないけどね」



「何とか言われた場所に行ってみますよ!…ん?」



そんな風に何気ない話をしていると、ライアの発動させている≪索敵≫反応が出る。



「………」



「…どうしたんだい?」



いきなり黙り、一方向に顔を向けるアインスに何かあったのかと真剣になりつつ、質問する。



「向こう側500メートルくらいに、10人位の人が、こちらに向かってきてます…」



「…500メートル…もしかして、≪索敵≫持ちなのかい?…すごいね…」



敵の接近より、そんな離れた所の接近を察知できる、アインスに驚く冒険者達。



「魔法もだけど、君は色々と規格外っぽいね…

10人か…さすがにちょっと多いね…」



盗賊10人は中々に多い数らしいのかゼルの表情はかなり重い。



「どうします?逃げますか?捕まえるんですか?」



ライアは、前世の日本人の記憶が合ったので、あまり人の死を考えれなかったので、殺すという選択より先に、逃げや、捕まえるという発想が先に出る。



「うーん…今から逃げても多分、追いかけてくるだろうし、おそらく逃げ切れない…

捕まえれるなら捕まえて、街に連れて行けば、犯罪奴隷としてお金はもらえるだろうけど、さすがに無理だね」



(あれ?この世界って奴隷制度なんてあったのか…)



おそらく、ヤヤ村のような小さな村では居なかったので知る機会もなかったし、とぉさん達も言う必要がなく、知らされていなかったのだろう。



(それか、奴隷制度自体が、あまり浸透していないで、とぉさん達も知らなかったとか?)




と、ごちゃごちゃ考えているうちに、盗賊たちは残り100メートル付近まで近づいてきていた。



「もう100メートル付近まで近づいてます…どうします?」



「うーん…よし、今から馬車で逃げても追いつかれるだろうし、このまま迎撃しよう。ラルフさんは申し訳ないけど、アインス達と馬車に乗って逃げてもらっていいですか?盗賊たちは俺たちが食い止めますから」



「手伝いますよ?」



ゼル達は3人で決死の表情をして、ラルフ達を逃がすために提案をしてくるが…



「ははは!将来有望な子をここで殺してしまっては、さすがに申し訳ないからね!」



ゼルは如何にも“ここは俺たちに任せて行け”をやっているが、少し勘違いをしている。



「えっと、多分俺ら、10人くらいなら捕まえれますよ?」





「……え?ほんとに?」




「えっと…はい、」









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