~閑話、危ない村娘と恋する八百屋の子の小話~





―――ヤヤ村の村娘




――私の村にはすごい子がいる。






「行ってきまーす!」



私の名前は“リン”、今年で7歳になる、女の子です。



お母さんのお手伝いで、買い物に出かける私をお母さんが“気を付けるんだよぉ”と見送ってくれるのを感じながら家を出て、八百屋さんに向かう。



「…ありがとう!おじちゃん!」



「はいよ!気を付けて帰りなよ!」



私は、顔なじみの八百屋のおじちゃんのとこで頼まれていた買い物を終わらせると、ちょうど隣の家の子が、ものすごくうれしそうに、誰も使っていない空き地に歩いているのを見かける。



(…?なんであんなに楽しそうなんだろう?)



私はとても楽し気な、その子を見て少し、どうしたのか気になってしまう。



(…ちょっとだけなら、いいよね…)



私は、空き地に向かった子の後を追いかけていくと、空き地で何かをしようとしているのか、空き地の真ん中で立ち止まっている。



「分体!!」


――にょ…



(え!増えちゃった…)



その子はおそらく、何らかのスキルを発動させると、2人に増える。



(そっか…あの子は多分、今日5歳になってスキルの確認に来たのかな?)



それであれば、人のスキルを勝手に見てしまい、少し申し訳ない気持ちになってしまう。



「ん?」



そう申し訳ない気持ちになっていると、その子はいきなりふらつき始め、スキルを解除する。




「オー…なかなかに厄介……フ…フフフ…ふふふふ!」



(え…いきなり笑い出した…)



その子はふらつきながら、笑い出して、とても奇妙な光景を作り出していた。



(なんか怖いし…これ以上スキルを見たら悪いから、早く家に帰ろう…)



私は、そそくさと、その子に見つからないように家に帰った。




――それから私は、たまにだが、空き地に向かうその子を見かけるようになり、気になってしまい、何度か後を付けてしまう生活を過ごしていた。



お母さんに聞くと、隣の家の子はライア君という男の子らしいのだが、しばらく後を付けて行ったりしていると。

どう見ても女の子にしか見えない日があるのだ。



普段は男とも女とも言えない感じで、男の子と言われたら納得できるのだが、たまに自分より女の子っぽい姿で、空き地で何かをしている時がある。



そんなせいもあって私の中では“女の子みたいな男の子、でもたまに女装するおかしな子”と言った印象になっていた。



そんなある日、また空き地に向かうライア君を見かけ、ほぼ日課になっている観察をしに空き地まで付いて行く。



(…これって、冷静に考えたら、私ってストーカーなのかな?)



かれこれリンは7歳から11歳までライア君の事を陰ながら観察していながら、話しかけた事も無いし、おそらくライア自身も私の事は良くは知らないはずだ。




(いやぁ別に、私はライア君のこと好きとかじゃないし、ただ、私の周りにいる年齢の近い子って居ないから、少し何してるのか気になってるだけだし…まぁ顔は女の子みたいで綺麗だとは思うけど)



などと、少し心配な思考をしながら、いつも隠れている、木の陰に移動する。



(今日は何するんだろ?…この間は地面に座りながら唸ってて、ちょっとかわいかったけど…)




ライア君はいつもの空き地の中央ではなく、芝生の多いエリアに移動すると目をつむり集中している。



(…?何かするのかな?)




「……ふぅぅ……“ウォーターボール”!」






――――バシャァン!!





ライア君はいきなり手を突き出すと、その手から大きい水の塊を飛ばして、遠くの木にぶつける。



「うおおおおおおおお!!」



(え?…今のって魔法??…ライア君って魔法も使えるようになったの?)



お母さんから魔法の存在は聞いていたが、ほとんどの人は学校や、使える人に教えてもらわないと習得できないと言われていたので、素直に驚く。



「くぅぅぅ!これこそ魔法だよね!…かっこいいなぁ!!」



ライア君は魔法が成功して嬉しいのか、目をキラキラさせながら喜ぶ。



(ふふふ…やっぱり、ライア君も男の子って感じなんだ)



そんなふうに変な一面ばかり見ていたが、男の子らしい一面もあるんだなと感心していると、他の魔法も試しているようだ。




「“アースボール”!!!」


―――ドゴォン!!



「きゃ「うわ!!」」



ライア君が放った、魔法の威力が強くて、こちらにまで衝撃を感じ、声を上げてしまう。



(こ、こわかったぁ…もしあっちに隠れてたら、今頃私…)



今回はこちら側に隠れていたから大丈夫だったが、もし間違いがあったら大けがでは済まなかっただろうと想像してしまう。



(今度からはもっと離れたところで観察しよう…)



ストーカーを止めるという考えには至らないのは、この際言わないで欲しい。



(あ、家の手伝いあるんだった…先に帰ろ)



リンは魔法に驚いて、声を上げたが、気づかれなくてよかったと安堵しながら、静かに家に帰る。




余談だがリンはこの4年間で≪潜伏≫を習得している。







―――――八百屋の息子




俺は八百屋の家の子で、カールって名前の16歳だ。



俺はもう家の手伝いで、店番をしたり、会計の仕事を手伝ったりするんだが…



最近、店に野菜を下ろしてくれるゴートンさん所の娘さんが、家の手伝いで、よくうちに来るんだが…




「すみません、今日は遅くなっちゃって…」



「いや、別に俺は大丈夫だし、親父はいないけど、俺が代わりに納品はするから…」



(めちゃくちゃかわいいんだ…髪は燃えるような綺麗な赤で、部屋からほとんど出てないんじゃないかと思うほど白い肌…それにふと近づくと感じるいい匂い…ライアちゃん)




なんと可哀そうに、カールは畑の収穫物を売りに来ていた、ライアに惚れていた。



ライアはかぁさんと一緒に家の手伝いをさせるのは、女装姿の5,6号がメインで行なっており、最近はライア自身が≪変声≫のスキルなどで、余計女性になり切っている為、カールはライアを完全に女の子と認識していた。



「えっと…これで全部ですね」



「あ、はい…全部で…」


(あぁぁ…ライアちゃんって、この間マリーさんに聞いたけど、13歳なんだよな…

成人は2年後かぁ…)



ライアのかぁさん、マリーはカールの淡い恋心は認識しているかは定かではないが、なぜかライアの性別に関してはカールに教えていない。



「それじゃぁまたお願いしますね!」



「あぁ…あの!」



「ん?どうしました?」



カールは特に何も考えずに呼び立ててしまい、焦ってしまう。



「あ、いやその…野菜とかって重くないですか?」



(あ”あ”あ”ぁぁぁぁ…え?なに言ってんだろ俺…八百屋の俺が、野菜が重いってただのアホじゃん…)



すぐに質問がアホだと気づき、思い切り後悔してしまうが…



「フフ…そうですね。結構大変ですけど、私、結構力あるんですよ?」



カールのアホな質問にも、おどけながら返してくれるライア(女装)にカールは思う。




(あぁぁ!ライアちゃん好きだ!俺!)




そんな小さな村の小さな恋が始まるかもしれない一幕があった。(登場人物はどちらも男である)










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