エピローグ

 1



 翌日、私と警察は名田の家に向かった。


「名田さん、ちょっとお話が」


 狩谷警部が声を張るが、名田は出てこない。ドアノブに手をかけると、がちゃり、と音を立てて玄関ドアが開いた。


「鍵がかかってないな」


 屋内にも名田の姿はない。


「名田さん、いませんか?」


 名田を捜索する中で、私はある物を見つけた。


 それは一冊の大学ノートであった。全国どこにでも売っているA4サイズの薄いノート。


「これは……」


 そのあまりの内容に、私は危うく卒倒しかけた。丸みのある特徴的な文字の羅列。


 次第に手が震え、めくる指にも力が入らなくなる。十数分かけ、やっとの思いで読み終えた私を支配していたのは、なんともやりきれない脱力感であった。


「名田先生……」


「希望ちゃん、それ、何が書いてあるの?」


 強張った表情で訊ねる大和に、私は手に持ったノートを差し出した。


「読んでみて」


 大和は恐る恐るそのノートを手に取り、そこに書き記されている文章を声に出す。


「……私の心を、めらめらと音を立てて燃やす復讐の火は――」



 *



 その後、名田は行方不明となった。


 死んでいるのか生きているのか。


 彼が発見されることはなかった。


 彼はどこにいるのだろう。


 二郎と同じ場所へ行けたのだろうか。


 それとも……


 こうして、藤宮を恐怖に陥れた事件は終幕を迎えた――了

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復讐の火 館西夕木 @yuki5140

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