第27話  犯人の手記より抜粋 その4



 正義なんてない。


 中学生だった私はそう理解した。


 正義とは、権力者が使う暴力だ。勝てば官軍負ければ賊軍。つまり私は負けたのだ。


 市政に関わる星崎の父によって二郎の事件はもみ消された。


 私が真実を語っても、その声は世界に届くことはなく、彼らを裁く者はいなかった。


 何のための警察なのだ? 何のための法律なのだ?


 財力、権力、腕力。


 日本は力がものを言う社会だ。思春期だった私はだから、世の構造というものをそうして知ったのだ。


 学校だろうと社会だろうと関係ない。力のあるものが上に立ち、弱者をいたぶる。


 これが真理なのだ。


 人は生まれた瞬間に死の宣告を受ける、とは誰の言葉だったか。


 全ての生命は必ず死ぬ。それが決定事項であり、現代のあらゆる技術を結集しても変えることの出来ない定めだ。


 二郎もそうだ。


 例え奴らの手にかからずとも、いつかは死を迎えていたはずだ。


 だとしたなら、奴らをただ殺す、という行為は果たして復讐としての意味を持つのだろうか。


 それが正しい裁きなのだろうか。


 私は二郎の死を免罪符にしようとしているだけではないのだろうか。


 復讐の火は、私の心を覆ったメッキを溶かし、剥がそうとしている。


 どす黒い殺意にまみれた私の心は、ああ。


 この心の奥底にこそ、私を苦しめる本当の復讐の火が燃えている。


 苦しい。


 苦しい。


 苦しい。


 そうだ、私がやるべき復讐とは、これだったのだ。


 を、奴らにも味わってもらうのだ。





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