第1話 犯人の手記より抜粋 その1
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私の心をめらめらと音を立てて燃やす復讐の火は、理性という暴風でさえ、かき消すことはかなわない。じわりじわり、とその漆黒の熱は私を苦しめる。その源にあるのは怒りだ。
私はあえてこの手記をしたためることにする。
言うならば、これは薪だ。奴らから受けた苦痛を、そして屈辱を思い出しながら書くことで、この復讐の火をより大きなものへと成長させるのだ。
私は奴らに復讐する。
何から書こうか……そうだ、まずはきっかけだ。
きっかけとは私が復讐を決心したきっかけではない。それはまた後ほど書くとして……
いじめのきっかけ。これについて書いて行こうと思う。
あれはそう、入学してまもなくのことだった。「クラスで一番背が低いから」という理由で私は奴らに目をつけられた。最初はそれをネタにからかわれたり、いじられたりして、げらげらと笑い者にされるだけだった。
が、思春期の子供というのは残酷なもので、自分より弱いと認めた相手にはとことん容赦がなくなる。次第に、殴る、蹴るなどといった暴力が加わり始めたと思ったら、ひと月も経たない内に、それは立派ないじめへと成長した。
天満は陰湿な奴だった。直接的な暴力行為よりも物を使った嫌がらせを好み、私のカバンの中に鳥や小動物の死骸を詰め込んだり、私がトイレの個室に入っている際、絵の具を混ぜた汚水を上からかけられたりした。
何が面白くてそんなことをするのか、まるで理解できないが、彼らにとっては面白いのだろう。
月ヶ瀬は、はっきりと言ってしまえば頭のおかしい奴だった。やることなすことに限度がない。奴には人が持ち合わせる常識というものが欠如しているのだ。もっとも、いじめという行為自体が非常識なものではあるのだが……
やつから受けたいじめの中でもっともきつかったのは『死刑ごっこ』だった。
私は首に縄をかけられ、背の高い奴がその縄を片手に持ちぐっと引き上げる。首に食い込む縄の痛み、そして息が吸えなくなる圧迫感。本当に死んでしまうのではないか、という危機感に苦しむ私をみて、月ヶ瀬はにたにた笑っていた。
そして星崎は……こいつは。こいつは絶対に許さない。こいつだ。こいつが……
今日はここまでにしよう。
火が大きくなりすぎた。まさかここまで怒りが込み上げてくるとは思わなかった。このままでは衝動的に行動を開始してしまう可能性がある。
それでは駄目だ。私はあくまでも計画的に任務を遂行しなくてはならない。
しかし、だからといってこの苦しい儀式を中断することも許されない。
私はこの火を囲いながら生きなくてはならないのだ。その時が来るまで、私が死ぬことは出来ない。
もう今日は寝よう。また、夢の中で君に会えますように。
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