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 結局三軒梯子したのだが、久しぶりに飲んだアルコールは相当効いたようで、体が回復するのは次の日の昼過ぎまで待たなければいけなかった。

 自分の部屋のベッドの上で目を覚ます、毎日見ていた天井なはずなのに、久しぶりに見た気分だ。

 というか最近はベッドでさえ寝てなかったから、本当に久しぶりに見る天井なのかも。

 部屋を見渡すと、その荒れ具合に自分でも引いた。かろうじて踏み場のある床には、足の形をしたスタンプがあり、それ以外は何もかも埃まみれだ。

 カーテンを開けて日光……というか夕陽を部屋の中に入れ、片付けをしようとして、立ち止まる。

 ……あまり気が乗ることではないが、しなければならないことがその前に一つあった。

 僕はスマホを持ち、連絡帳を開いて、震える指でそれを押した。

 数回のコール音。ずっと震えている手で、スマホを耳に押し付ける。

 ガチャ、と。お掛けになった電話番号は……という人工音声が聞こえた。

 何故か全身の力が抜けて、安堵したような気持ちになる。

 ――と、一息つく間もなく、折り返しが来た。

 意を決して、それに出る。

「……もしもし、希美、ですけど」

「無事やったようで、なによりやわ」

 電話越しの母の声は、全く変わらないようだった。

「あー……、うん。ぶじ……っちゃ、ぶじ……。かな」

「…………」

「…………」

 沈黙。

 うちの母は、元々喋る人ではないし、僕もあまり家族と喋る方ではない。妹は母とよく喋っていたような気がするが、うちは母子家庭だったので、僕はわりかし一人でいることが多かった気がする。

「……まぁ、なに、その……」

「なんや」

 心なしか、母の声が冷たい気がする。

 いや、冷たいというか、怒っているというか、縁切られても仕方ないみたいなことを僕は実際しているけれど。

「ごめん…………。みたいな」

 いつぶりかも分からない。とても幼い頃ぶりな気がする、母への謝罪をした。

 なんせ、世話がかからない息子だった気がするから。

「…………ま、ええわ。あんたの部屋、まだ残してるから。帰りたくなったら帰ってき」

 でも、確か。大昔に僕が何かをして謝った時も、母親はこんな感じで許してくれた気がした。

「……うん。ありがとう。多分……、半年後……とかに帰ると思う」

「はいはい。用事はそんだけか?」

「あ、あ! まっ! ……ま、真奈は元気?」

「真奈ぁ? ああ、なんかこの前男連れてきよったわ。まぁいい歳やしなあの子も……」

「そ、そっか……。ま、まぁ、そんくらいかな! じゃ、じゃあ切るわ!」

「頑張りや。はいはーい」

 電話を切って、改めて自分の部屋を見る。

 黒い夏の日は終わって、一息付いて、改めて、あの岬の絵を見る。

 高い金属音のハーモニクスが、脳裏に響いた気がした。

『そんなに人生って、楽しいものなのか?』

 彼女が言っていたように、自分も知識を積み上げてみたが、それは決して楽しいものではなかった。

 じゃあ、僕の人生の楽しさって何なのだろう。

 どうして、僕はあの時、楽しいと思えたのだろう。

『魔女って、信じる?』

 一体、彼女はどこにいるのだろう。

 彼女にそれを聞けば、分かるだろうか。

 また、彼女に会うことが出来れば、あるいは――。

 会う、ことが出来れば……?

 そういえばどうして僕は、彼女と出会えたのだろう。

 魔女……、魔女……。

 いくら考えても、分からずに、その日は部屋の掃除に没頭した。

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