第51話 その真相
材料を集めれば変身できる。そんな期待を持たせて、有声だけでなく他の者を巻き込んだのは良くない。
これにどう説明をするのかと、有声は軽く睨みつけた。
『あれは……確かに希少だが、必要ではなかった。ただユーセイに、この世界を見せて回りたかった。そうするための理由をつけた。この世界を気に入ってくれれば、帰りたいと悲しまずに済むと。ユニコーンは……あれは向こうも悪い。ユーセイが番持ちなのを分かっていて、誘拐しようとしていたのだからな。ドラゴンの番に手を出そうとする愚かな輩は、殺されても文句は言えない。それは、この世界の常識だ』
ルビがはっきりと断言したので、それは共通認識なのだと有声は考える。前の世界でも不倫は良くないものとされていたから、それに対する報復がやりすぎなのだと納得した。
「あー、それは仕方ない。のか? いや、やっぱり可哀想なことをしたから、残っている角をきちんと埋葬してあげよう。それで、これ以上はどうとかは言わないと約束する」
『……分かった。お主の言う通りにしよう』
番に手を出そうとした不届き者なので、捨ておけばいい。そういった本音は、許してもらえることと天秤にかけて、彼方へと放った。
「僕が思っていたよりも、早く拗れが解消できて良かった。もっと時間がかかると予想していたけど、若さだね」
「若さはあまり関係ないかと……」
「そう? まあ、確かになんでも若さで片付けるのは駄目か。ごめんごめん。有声君が素直になったおかげだね。それに広い心で受けいれたおかげ。誰にでも出来ることじゃないから凄いよ」
「そこまで褒められることでは、ありませんって」
「褒め言葉は素直に受け止めておけばいいんだよ」
「……はい、ありがとうございます」
ルビと番になったことを知るまでに至った経緯と、そこからの結末を有声は三郎に報告する。
事情をなんとなく察していた三郎は、それを聞き上手くいって良かったと、胸を撫で下ろして安堵した。
帰ってからも大丈夫だろうかと心配していたので、その報告は喜ばしかった。
幸せそうにはにかむ有声をからかわなかったのは、息子みたいな存在に対する優しさだった。
有声は知らないし気づいていなかったが、ルビと同じぐらいミドリは嫉妬深かった。番になってからしばらくは、三郎が他者と接触するのを遮断していたほどだ。
その嫉妬が、時が経つにつれて小さくなったかといえば、全くそんなことは無かった。現在も、三郎のために引っ越した家にずっといてほしいと、出かけるのを喜ばない。
有声は例外だった。ミドリは、ルビのことを昔から尊敬していた。届かない存在に対する羨望などの複雑な感情もあり、三郎という番ができたのを自慢したのは、ルビより先に大事な存在ができたことで勝ったような気持ちを味わいたかった。
しかしいつまで経っても、番を作らないルビを心配していた。ルビのような凄いドラゴンには、同じぐらい凄い番が必要で、そんな存在が生まれるのは時間がかかる。
ミドリはよく、三郎にそう言っていた。ルビが洞窟にこもってしまったと聞いても、きっと力を蓄えているのだと言った。
それから三郎にとっては長い時を経て、ようやくルビは番を得た。ルビから連絡が来た時は、ミドリは喜びすぎて家を一部壊したほどだ。
ルビの番は人間で異世界から来た。どういうわけだか、自分に自信がない言葉ばかり口にする。三郎も似たような過去を持っているから、一度会わせて話をさせてあげてほしい。
ルビを心配し、番に喜んだからこそ、ミドリはその申し出を断らなかった。
ルビの選んだ番なら、悪い人間では無い。三郎に危害を加えることも、2人が仲良くしすぎることもないだろう。
しかし、有声にはまだ番の契約を結んだ事実を伝えていないと知ると、本当に大丈夫なのかという心配が出てきた。
そのため初めにインパクトを、変なことを考えないようにと、あんな登場の仕方をした。やりすぎだと三郎に、後からルビにも言われたが後悔していない。
有声は、ミドリが想像していたより普通の存在だった。若くもなく、極上の容姿をしているわけでもなく、凄い能力を持っているわけでもない。
しかし、その存在はいるだけで心地の良い何かがあった。身に纏う空気がそうなのか、有声の前では取り繕う必要はない。ミドリの警戒心は、いつの間にか消えていた。それは、とても珍しいことだった。
そして番だと知らないはずなのに、ルビに対する言動が甘いのも、ミドリはプラス評価を出した。ルビの魅力が分かるなら、見込みがある。
今はまだ番のことを知らないとしても、いずれそれらしい関係になるはず。
根拠はないが、そう確信していた。その考えを、番である三郎には話した。似たもの同士だったから、有声とルビの関係が上手くいくか同じぐらい心配したのだ。
「僕もミドリも気になっていたから、こうして報告に来てくれて嬉しい。番についての愚痴なら、いつでも聞くから相談してね。先輩として、たくさんアドバイスするよ」
父のような気持ちで、三郎は有声に目を細めて笑いかけた。
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