第32話 拠点騒ぎ
「そ、それは、まだ早いって言ったよな」
『いいだろう。別に減るものでは無い』
「そういう問題じゃなくて。えっと」
『だめ?』
『カカ、だめ?』
「あー、もう。オルとロスを味方にするのは、いくらなんでもずるいって」
『ふん。使えるものは使うのは当然だ』
3対1という不利な状況に、有声は負けを認めたくなくて抵抗を続ける。しかし、いつかは折れることになると自分でも分かっていて、ルビもそれを分かっているからこそ余裕を崩さなかった。
あれから眠った有声を連れて、ルビは前に連れていった湖に移動した。オルとロスと出会ったところでもあるので、反対意見は出なかった。
湖に着いた頃、有声は目を覚ました。許してもらうために、色々な策を用意していたルビだったが、彼はすでに怒りをしずめていた。
「あの時そうするのが一番だってルビが決めたのなら、俺がとやかく言う筋合いはない。それに、守ってもらったし」
長期戦も覚悟していたルビは、感動で震えた。有声が自身の考えを肯定し、それが最適解だと信じている。あまりにも甘美な喜びだった。
『そ、そうか。しかし、お主を危険に晒したのは我の責任だ。すまなかった。……無事で本当に良かった』
有声が気にしていないのなら、ユニコーンの情報はいらないと頭から消し去った。そしてドロドロと甘さを含んだ声で、落としてしまったことの謝罪をする。
「それも俺の不注意が原因だから、ルビは何も悪くないよ。むしろ、心配かけてごめん。見つけてくれて、凄く嬉しかった。……ありがとう」
有声は声の甘さに慣れていて、そちらに気を取られずにルビにお礼を言う。
「ところで、湖に連れてきてくれたんだ。起きたらここだったから、夢でも見ているんじゃないかって思った」
『ここに連れてくれば喜ぶと思ってな。違ったか?』
「いや、正解」
有声がすぐに許したおかげで、険悪な雰囲気にならずに会話が進んでいた。しかし、別の方向に進み始めた途端、その雰囲気が崩れていく。
『ここがそんなに好きなら、ここを拠点にするか』
「拠点って」
『よし、家を建てよう』
「いやいやいや。ちょっと待った! どうして、そういう話に進んだのかな」
『その方が色々と都合がいい。幸い、縄張りを争う存在もいない。例外はあったが、ここにはそうそう入れない。拠点にするのにふさわしい場所だ』
「そうだとしても、まだ早いって」
家を建てるという言葉に、有声は何とか考え直そうと必死に抵抗した。しかしオルやロスまでルビの味方になり、形勢は完全に不利だった。有声も、ただ駄目だと拒否しているわけではない。心をひかれているのも確かだった。
ただ、本当に家を建てていいものかと、どこかで不安な気持ちが覗いていたのだ。ルビやオルやロスと、いつまで一緒に過ごせるのか。ずっとは無理だと、有声は考えていた。いつかは離れる時が来ると、言葉にはしないが確定事項だと決めつけていた。
だからこそ、家を持つのが怖かった。拠点を作った途端、心が離れてしまったらどうするのかと。だから時間を稼いで、心変わりしないか見極めたかった。
そんな有声の不安を、完璧にでは無いがルビは察していた。何かを、自分達に関連することで怖がっているから、頑なに拒否するのだと分かっていたので、ゴリ押し作戦を行った。
共に過ごしている間に、有声がかなりのお人好しで押しに弱いのを知っていた。長期戦で攻めれば、いつかは相手が負けると。最初はそのつもりでやっていたのだが、ルビは考えを変えた。
このまま押せば有声は諦めるが、それではなんの解決にもならない。有声が自ら、拠点を建てたいと言うようにならなければ、いつか拗れる未来が待っている。そんな気がしたのだ。
『ユーセイ、お主がそこまで嫌がるなら、やはり止めておくか』
「え、あ、うん」
『えー』
『おうちー』
唐突にルビが引いたので、有声は肩透かしを食らったかのように微妙な表情になった。自分の望んだとおりの結果になったのだから喜ぶべきなのに、彼は喜べなかった。
オルとロスが残念そうに悲しんでいる姿に、胸がチクチクと痛む。
『しかし、最後に1つ聞かせてくれ。我もオルもルビも、ユーセイと生涯共に過ごしたいと考えている。何があろうとも、別れたりはしない。……だからこそ、不安なのだ。お主がいつかいなくなってしまわないかと。ふらりと消えて、二度と戻ってこないのではないかと……そんな想像をしてしまう。しかし、家があれば帰る場所はここだと安心できる。絶対に戻ってきてくれると……ユーセイは、そういう場所を作るのが嫌か?』
『……カカ』
『……おうち、いっしょ』
その言い方は効果的だった。有声の不安を自分達も感じていると、ごまかすことなく正直に話したので、同じ気持ちならと考えが揺らいだ。
ここまで言わせておいて、拒否する理由がどこにあるのか。有声はよく考えた。そして決めた。
「……分かった。家を建てよう。俺達が帰ってくるための家を」
その言葉に、ルビが張り切ったのは当然のことだった。
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