第27話 新たな場所


「エルフの次はユニコーンか……凄いな」


 ルビの背中に乗りながら、有声はしみじみと呟く。


『ふん。ユニコーンなど、ただの角の生えた馬だ。そんなに騒ぐようなものでもない』

「角が生えた馬って……さすがにもっと言い方があるよな」

『事実を言って何が悪い』


 ファンタジーな生き物に会うのを楽しみにしている有声が、ルビには面白くなかった。初めて見た時に向けられた好奇心旺盛な瞳を、別のものにしか出さなくなった。ドラゴンとしての誇りがあるので、プライドが許さない。そのせいで貶すような評価をするが、有声は真面目に受け取ってくれなかった。


『お馬!』

『のれる?』

「うーん……どうだろうな」


 オルとロスはユニコーンを見たことがないので、どんな生き物かワクワクしているようだった。乗れるかと聞かれて、有声は微妙な答えしか出せない。

 --確かユニコーンは、処女にしか懐かない生き物だったような。

 ぼんやりとした情報が頭に浮かんだ。理由までは分からない。ただ、それ以外の相手には敵意を見せるものではなかったかと、ほとんどない知識を絞り出した。

 もしそうなら、乗るのは難しい。期待しているから、その事実は言えなかった。はしゃいでいたオルとロスが疲れて寝たのを見計らい、有声はルビに尋ねる。


「な、なあ。ユニコーンの巣に行っても平気なの? 襲われたりしない?」

『何を心配している』


 空気がピリついたが、有声は気づかず質問を続ける。


「俺のいた世界では、ユニコーンは、えっと、その……せ、聖なる乙女にしか懐かないっていう話だったけど、それってまずくないか?」

『何故?』

「何故って、俺達の中に乙女なんかいないだろう。今回、必要としているものは知らないけど、簡単に手に入れられるの?」


 物わかりの悪いルビに、どうして説明しなければならないのかと、顔を真っ赤にさせる。その姿は初々しく、見なくても伝わったルビは怒りを小さくさせた。


『我がいれば平気だ。それにオルとロスも、ユーセイよりは戦える。向かってこようとしても、返り討ちにしてくれるわ』

「え、それって。俺は役に立たない雑魚だと、遠回しに言ってる? どういうこと? 怒ればいいの、泣けばいいの?」


 まだ幼い子よりも弱いと言われ、有声は微妙な気持ちで言葉が出なくなった。とりあえずルビは許せないとポカポカ殴ったが、背中に乗って片手も塞がっている状態では、大したダメージを与えられなかった。

 その拳の弱さに、守ってやらなくてはとルビは再確認したぐらいだ。



「凄い。パステルカラーだ。ゆめ可愛い?」


 これまでも珍しい場所や生き物を見てきたが、慣れてきた有声さえも驚いた。

 ピンク、水色、クリーム色、可愛いものを詰め込んだとばかりの場所。雲も植物も地面も、視界に入る全てがカラフルに埋め尽くされていた。まだ柔らかめの色彩だったから良かったものの、原色であれば目がチカチカとして体調不良を引き起こしていたかもしれない。

 ふわふわ、キラキラとした空間に、自分は場違いなのではないかと居心地の悪さを感じていた。

 ユニコーンがいると言われて納得出来ても、場所を楽しもうとか遊ぼうという気にはなれなかった。


「この辺りは、ユニコーンの他に何がいるんだ?」


 気にする必要はないのに、できるかぎり存在を消しながら有声は聞く。

 歩いて移動した方が都合がいいとのことで、徒歩で向かっている。ルビに合わせたら全力で走っても追いつかないので、背中に乗ったままだ。有声はさすがに歩くと言ったのだが、体力を考えた結果である。

 ルビにばかり負担をかけて申し訳ないと謝っても、当の本人は特に気にしていなかった。


『そうだな。妖精や精霊の何種類かがいるはずだ』

「妖精に精霊かあ」

『期待しているようだが、種類によっては性格があるのや、獰猛なのもいる。特に人間を相手にすると、血気盛んな輩が多い。見た目に惑わされれば、痛い目を見るからな』

「う、わ。気をつけるよ」

『我から離れるな。決して1人になるなよ。さらわれるかもしれない。そうなれば……一生おもちゃにされる』


 それは過保護なぐらいの脅しだったが、有声は深刻に受け止めた。絶対にはぐれないと決意して、それを示すようにしっかりとルビに掴まった。


「気をつける。知らない人にはついて行かない。俺も死にたくないから」

『我もいる。我に何かあったとしても、オルとロスが守るはずだ。ユーセイに手出しはさせない』

「何かがあったら、とか言うなよ。……ルビが怪我をするのも、俺は嫌だからな。自己犠牲とか許さないから」

『分かっておる。もしもの話だ』

「その、もしもだって考えたくない」

『……とてつもないことを言っている自覚はあるか?』

「え? 変なこと言った?」

『自覚が無いなら、まだいい。そのうち分からせる』

「痛いこととか、怖いことは嫌だよ?」

『……善処する』


 有声に顔が見えないと分かっているルビは、口元をだらしなく緩めた。頬も赤らんでいたが、それに有声が気づくことは無かった。

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