第2話 頼もしい味方


 有声は一人、城門の前で立ち尽くしていた。

 王様のせいで城から追い出され、国から追い出され、わずかな金だけしかもらえずに見知らぬ土地に一人でいる。

 ここがどこで、どういう世界なのかも分からない。そんな状況におかれて、有声は絶望するかと思えば、どちらかというと楽観的だった。


「ま。軟禁されて、一生奴隷コースよりはマシか」


 国で飼い殺されるより、まだ選択肢がある状況の方がいい。そう切り替えて、この先どうするべきかと目の前にある森を眺めていた。鬱蒼と生い茂る木々は先が見えず、鳥だけではなく獣の声まで聞こえてきた。休日だったため、普段着に財布とスマホしか持っていない有声には、戦うすべがなかった。


「このままだと死ぬな」


 冷静に自分の状況を口にしながら、有声は動けずにいた。無計画に進んで、あっさりと死ぬのは避けたかったからである。そうはいっても、いい案が出てこず立ち尽くすだけだったが。

 そうして、どのぐらいが経ったか。城門が再び開き、賑やかな集団が外に出てくる。


「全く、リーダーが寝坊なんかするから、出発が遅くなったじゃないですか!」

「悪い悪い。昨日は遅かったから、ついな」

「どうせ、女のケツでも追っかけてたんだろ!」

「あはは、違いねえ」


 傭兵の格好をした10人ほどの人達は、肩を組んだり小付き合いをしながら、大きな声で騒いでいる。その様子を門番が、冷めた目で見ていた。立場の低いものに向けるような、そんな視線だったが彼らは気にしていない。

 有声は、出てきた男達を観察する。鍛えているであろう体つきと、その腰に下がっている剣。1人で森を抜けるよりは、誰かについていった方が生存確率が高くなる。そして気の良さそうな彼らは適任とまではいかないが、一緒に行動するには心強い。

 そうと決まればいなくなる前に捕まえなくては。一度考えたら猪突猛進になる有声は、臆することなく彼らのリーダーと呼ばれた男に話しかけた。


「あの、ちょっとお願いがあるんですけど」

「あ?」



「がはは! 兄ちゃん、面白い奴だな!」

「あ、どうも。ありがとうございます」

「そんなに遠慮しなくてもいい。俺達はもう仲間なんだからな!」

「はは……光栄です」


 背中を痛いぐらいの強さでバンバンと叩かれながら、有声は乾いた笑いをこぼした。傭兵はランバール団というグループで、国から国へと要人の警護をしたり、モンスター退治をして生計を立てているらしい。

 その話を聞いて、有声はようやくここがファンタジーの世界だと気がついた。モンスターがいるのなら、1人で森に入らなくて良かったと胸を撫で下ろす。何も知らずに進んでいれば、おそらく今頃はモンスターにやられていただろう。

 ランバール団の出発が、たまたま遅れて運が良かった。何も分からず召喚され、巻き込まれたと判明したら放り出された。そうリーダーのダンに話せば、驚くべき事実を教えられた。


「え、勇者が召喚されたのは初めてではなかったのですか?」

「ああ、あの国では有名な話だ。何年かに1回、王家の権力と人気を獲得するために召喚の儀式を行っているんだ」

「……権力と人気稼ぎ」


 でっぷりと肥えた王様の様子を思い出して、なるほどと有声は納得する。納得したが、それに巻き込まれて、元の世界に戻れないとなると微妙な気持ちだった。


「今まで召喚された人がどうなったか、ダンさんは知っていますか?」

「あー、大体が騙されて傀儡にされるか、おかしいと気がついて逃げ出すか……あとは、まあいいことになった話は聞かないな」


 嫌な予感がしていたが、まさかそこまで酷いとは思っておらず、有声は置いてきてしまった名前も知らぬ男子高生の身が心配になる。一応忠告はしておいたが、伝わっていないからこそ余計にだった。心残りを素直にダンに伝えれば、彼は豪快に笑った。


「あんたが気にすることじゃないって! そいつだって子供じゃないんだから、自分の面倒は自分で見られるだろう。忠告もしたなら、後はそいつ次第だよ」

「……冷めているかもしれないけど、全ての面倒を見られないのは事実です。すぐに目を覚まして、逃げ出してくれればいいけど……」


 男子高生がどんな能力を持っているかは不明だが、利用されて潰される可能性は高かった。丁重にもてなされるせいで、おかしいと気づくのが遅れるかもしれない。その時に、手助けしてくれる人が彼に入ればいいが、そうは願うが所詮は願うだけだった。何もしていないのと同じである。


「ま、あの国に行く用事があれば、俺達も気にかけておくよ。でも、あんたは戻らない方がいいと思う。まだ何も分かっていない状態だと、騙されて身ぐるみ剥がされるのがオチだな。そういえば、スキルとかは見てもらったのか?」

「スキル?」

「……本当に、何も知らないまま放り出されたんだな。おい、誰か。スキル鑑定のアイテムを持っている奴いたよな」


 同情する視線を有声に向けて、ダンは近くにいた仲間に話しかけた。そうすれば1人がカバンから、水晶に似た見た目のものを取り出す。


「簡単に見るから、とりあえずこれに力を込めるイメージをしてみてくれ。こうやって両手で包むように持って、念を込める。出来そうか?」

「は、はい」


 実演をしてもらい、有声は渡された水晶を包み込むように持った。そして言われた通りに目を閉じながら、力を込めるイメージをした。

 その瞬間、周囲がざわめく。

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