それって貴方の考えですよね?
どうも元日本人現転生者、フェルスです。
俺は今、馬車に乗り広大な平野、山々の景色を楽しみつつとある村に向かっているとです。
「うむ…」
いやー、いいね。自然。
前世では技術開発が進んでこういった自然も減っていっちゃってたからなぁ。
その点この世界では妖精に配慮し、そういった発展が進んでいない。
妖精は科学を嫌うからね。民話には『妖精は冷たい鉄を嫌う』って話があったけど、あれはきっと科学のことを指しているんだろう。
母なる大地万歳。
「お客さん。中々上等な服着てるが、どっかのお貴族様の使いかい?」
俺が自然を堪能していると御者がそう話しかけてきた。
まあギルド職員だし、いつ誰が来てどのような対応をしなくてはならないか分からない。だから普通の平民よりかは綺麗な服を着ている自覚はある。
見栄を張っているとも言う。
「いえ、遣兵ギルドの者です。ほら、ここに…」
そう言って俺は胸ポケットに装飾されたギルドのマークを指差す。
ギルドの制服には一目で分かるようにこうした装飾が施されている。
「おぉこりゃ失礼した。…にしてもギルドの人が出張るたぁ、何かあったのかい?…って聞くもんじゃねぇか、悪いな。」
「構いませんよ。この先の村で少しいざこざがあったらしく…その確認と対応を。」
「はぁ〜、若いのに大変だねぇ。」
「ええ、本当に…。」
元の仕事だけならそんなに多くないんだけどね…これも仕事か。
「しかし大変と言えば、一日中運転をしているのも中々大変ではないですか?」
「いやぁ、ただの馬ならそうだろうがな。お客さんと話だって出来るし楽しいもんだよ。」
地域によるが、実は馬車とはいっても生きている馬は使われていない。
『移動用
簡単に言うと魔力で動く馬のロボットである。
長距離を想定され作られているため兎に角燃費が良く、貴族なら一台は持っているであろう移動手段の一つだ。
帝国が最初に開発したんだが、これの
直接乗っても揺れはなく、操縦もしやすく小回りが利き無生物であるため速度の緩急もない。更には燃料がある限り動き続けるため予定に狂いが生じにくい。
乗り物としては至高とも言えるんじゃないだろうか。
ちなみに歩行型ではなく二輪駆動や四輪駆動、馬型以外のものもある。
こんな世界でも前世顔負けの移動手段があるのに驚きである。
「有難いことだよ、本当…お、そろそろか。」
御者さんとそんな話をしていると、いつの間にやら目的地が近づいていた。
土から緑が顔を出した畑や元気に走り回る子供たちが見えて来る。
うむ、平和そうで大変よろしい。
しかし残念ながら俺の内心は穏やかではない。これからここの村長と話をしなければならないのだ。詳しい事情を聞かないことには詫びも入れられない。
俺は御者さんにお礼を言って客車から降り、集落の方へと向かう。
◇
柵によって囲われた村の入り口には老人一人と若い男が一人、こちらを待っていたように立っていた。
おそらくその老人がここの長なのだろう。
「初めまして。件の報告を受けギルドより参りました。フェルス、と申します。」
「これはご丁寧にどうも。ワシはこちらで村長をしておる、テレンスと言う者ですじゃ。こっちは…」
「息子のキースです。」
お互い挨拶を済ませ、早速本題に入る。
「本日こちらへ参上した件ですが…」
「まぁまぁ、立ち話も何でしょう。どうぞこちらへ。」
まぁ確かに。大事な話でもあるため長くなることもあるかもしれない。
彼とその息子はこちらを扇動するように俺の前を歩き出す。
俺はそれに追従するように移動を行う。
「…」
移動中、視線を動かし村を観察する。
人はちょくちょく見られ、家も少ないなんてこともない。それぞれの家に畑が存在しているようで耕している姿も見られる。
特に変わったところのない普通の村だ。
さらに視線をスライドさせ遠くを観察する。
そうするとそこそこ大きめの森が視界に飛び込んで来た。
多分、あそこにゴブリン達が居るのだろう。
暫くすると少し大きめの家屋が見えて来る。
「お待たせいたしました。こちらがワシの住う家となっております。…どうぞ、中へ。」
「ありがとうございます。」
玄関をくぐり、案内に従い居間と思われる部屋にやって来る。
キース君が椅子を弾いてくれたのでそこへ座らせてもらう。
俺は、彼等が座り準備が整ったところを確認し、ようやく口を開く。
「…では、例の件についてお聞かせ願えますか?」
「…詳しい話は聞いとらんのですが、そちらの遣わされた者が隣人に手を挙げたと…」
…?
「…報告書にはゴブリンに対して威力行為、つまるところ暴行を働いたと記されていましたが…」
「ええ、それでお間違い無いかと…」
…なぁんか違和感があるなぁ。
「当人…当のゴブリン達と話はしていないんですか?」
「勿論しましたとも。彼らはやってきたものに剣を突きつけられた、と。」
…おいおいちょっと待てよ…?
「その時の状況に関しては?」
「ですから、剣を突きつけられたと———」
「———そうではなく、どういった経緯でそのようなことが起きたのかなどは?聞いていないのですか?」
「彼等が襲われたというのですからそうなのでしょう。」
村長は変わらぬ調子でそんなことを言う。
俺はそれがとても正気には思えなかった。
いや…、まさか詳しい話を聞いてもいないのに報告書として提出させたのか?
場合によっては当事者の将来だって左右するかもしれないというのに…隣人だからといって虚実曖昧な話を鵜呑みにするのは長としてどうなんだ?
てっきり正当性が向こうにあるからこそ報告までしたのだと考えていたんだが…。
…このじいさん、要請書を出した時もそうだがどうにもいい加減が過ぎる。
って言うか、それ以外何も話せないのに何故こんなところまで連れてきたんだ?
「…彼等が嘘を言っていると?」
俺がそんな混沌とした事実に頭を抱えていると、横から息子であるキース君が口を挟んできた。
「…そう言っているのではありません。」
俺は思わず出そうになったため息を飲み込み説明する。
「おそらく、剣を突きつけられたというのは事実なのでしょう。未遂とはいえ、確かにこれは暴力行為と何ら変わりありません。」
じゃなきゃ新人くんだって何日も姿を見せないなんてことはしないだろう。
「なら———」
「———ですが。」
だが問題はそこではないのだ。
「そこに至るまでの経緯が不明瞭なまま正義不義を判断することなど出来ません。にも拘らず派遣した彼を完全な悪として報告したことに問題があると言っているのです。」
仮に今回の件において実際に新人くんがクロだとして、次も同じように行くとは限らない。
「今回あなた方のおっしゃることが事実だったとしても、次回以降も同様に正当性を主張できるとは限りません。もしそこで事実と齟齬があった場合、責任を問われるのは報告を行った貴方方かもしれないんです。」
故意にせよそうでないにせよ、偽装報告は立派な犯罪である。
結果が良ければそれで良いというわけではないのだ。
そう考えると彼を送り出した俺の判断も軽率だったと言える。
「…今回の件に関しましてはこちらにも非がございますのでこのまま進めさせていただきます。どうか次回以降このようなことがないようにお願い致します。」
「…っ」
「むぅ…。」
頼むぞ、マジで…。
「はぁ…では、当人達のところへご案内して頂いても?」
「…かしこまりました。」
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