遣兵と依頼

派遣兵。

 一般には遣兵とも呼ばれる彼らは世界中に点在している依頼派遣兵ギルド所属の、謂わば民兵だ。

 彼らは申請から一週間の審査と最低一ヶ月に及ぶ研修を経てその結果に応じたクラス分けがされる。


 この「クラス」は1~10まで存在しており、彼らはこの階級に相当する依頼しか受けることはできない。

 高いクラスの者が簡単な依頼を受理してしまうと低いクラスの者の仕事がなくなってしまう可能性があるし、逆に低いクラスの者が身の丈に合わない依頼をこなそうとすれば只々危険なだけだ。


 クラスを割り当てる際、原則クラス1からであるが、実力に見合っていないクラスを与えるわけにもいかないため例外が発生することも少なくはない。

 とは言え、大抵が精々クラス2か3からのスタートであり、それ以上は例外というか最早特例である。

 そういった特例が発生した時、妬み嫉みもありそうではあるが、仕事を奪われる可能性もあるため案外そういったいざこざはなかったりする。


 殆どの遣兵はクラス2か3といったところで、クラス4から先は中堅、クラス7にもなればならもう上位の実力者だ。クラス8以上は世界にも数える程度しかおらず、国に個人として頼られる事もある程。


 当然これに対する依頼内容の階級も存在する。それぞれ想定される危険性や攻略難易度によって定義がなされており遣兵と違いクラス0~9の10段階に分別される。


 それぞれの規定基準は内容によって異なるが、例えば魔物や災害であれば、

クラス0 危険性なし

クラス1 一般人でも十分に対処可能

クラス2 不特定多数の人間に被害あり

クラス3 一村落規模の被害あり

クラス4 複数の村落に渡って被害あり

クラス5 一都市に甚大な被害あり

クラス6 複数の都市に甚大な被害あり

クラス7 一国、或いは周辺国家への被害あり

クラス8 大陸全土に渡る被害あり

クラス9 世界規模の被害あり


 この通りである。

 こちらへ届けられる依頼は大抵が2か3であり偶に4や5が発生する。クラス0はあってないような物だ。


 要人の護衛であったり採集や調査といったものもこれを指標にしており相応の基準が設けられている。

 護衛であれば依頼者の要望や通るルートに応じて設定し、採集や調査であれば地形や生息する生物といったそのエリア自体の危険性を基準に設定する。


 ここで疑問に感じるであろうことは護衛や採集ならともかく、討伐において「何故クラス10が無いのか」ということだろう。遣兵のクラスと揃えた方が分かりやすいはずなのに何故なのか。


 これは、はっきり言うとそこまでの存在が出現、発生した場合クラスとか関係なく完全な人類総力戦になるからだ。

 クラス9の時点でそうなる可能性もあるのだが、対象の性質や遣兵によっては複数人いれば対処可能と想定されている。実際過去にそういった事例もあった。

 クラス8あたりからそうだが、そうなるとギルドだけの問題ではなく人類の問題となるため態々こちらが制定するする必要がないのだ。


 故にクラス10は想定されていない。ただクラス10の代わりというか、それに近いカテゴリーが存在する。それが『不可侵存在レッドゾーン』と呼ばれる怪物達だ。

 まあこれはクラスではなく特定の個体を示唆しているだけだが、これに区分されるモノ達は『特別な場合を除いて一切の接触を禁じる』とされている。

 これはギルドが独自に制定しているものではなく世界協定によって締結されている絶対の法である。


 つまりはそれだけヤベー奴らってこと。


 どれくらいヤバいかというと、人類の最高戦力を募ってやっとこさ対抗可能であると言われるくらい。暫定討伐は不可能。遣兵にだって中には当たり前のように天候や地形を変える者がいるというのに、そんな彼らをも超える力を合わせても討伐は不可能とされている。中には痕跡からその力を測っているだけのものもいるものの、脅威であることには変わりないだろう。


 敵対した場合良くて文明の消滅、最悪世界滅亡。そりゃ不可侵ですわ。


 ただ逆に言えば世界協定でもギルドでも討伐対象として指定していないということは現段階で人類と敵対しているわけでは無いということでもある。

 彼らにとって我々人類なんて取るに足らない存在であり、取って食おうが腹の足しにもなりゃしない。そもそも彼らはそのあまりに超常的な生態から通常の生物群に数えられておらず、食物連鎖からも外れている。食事なんて概念があるのかもわからない。


 故に触らぬ神に祟りなしとばかりに我々人類は彼らとの接触を徹底的に避けているのだ。懸命な判断である。


 話は少し逸れたが、以上が大まかな階級区分である。


 そして遣兵に関してはさらに三つの種類に分かれる。遣兵は研修を行う中で試験官が採点を行い、最終的に適当と判断された分野に配属させられる。


 それぞれ『傭兵』、『調兵』、『狩兵』と呼ばれ、傭兵は対人戦、調兵は採集や調査、傭兵は対魔物・獣戦をメインとしている。依頼の際にはこれに合わせたものが妥当だと考えられおり、依頼者やギルドはこれを一つの基準として依頼を出す。


 当然それぞれの分野でなければ受注することができないというわけではなく、傭兵でも魔物と戦えるし狩人でも対人戦が可能なものはいる。中にはその博識さから調兵に配属された者が並の傭兵や狩兵を超える戦闘能力を持っているなんて事もある。


 じゃあ何故分けているのかというと、逆に特定の分野のみを専門としている者もいるからだ。そういった者はクラスが低くとも一定以上の結果を残すことが多いため重宝される。故に満遍なくこなすことができなくとも仕事が回ってくるようになっている。


 今回のオーク討伐の依頼。

 これで言えば調査がメインであり戦闘はあくまで非常時とするため、調兵にサポートの狩兵を付けることを推奨する。過去に何度か被害があると言いながらこうして依頼をすることができているという点からオーク群の規模はそこまで大きなものでは無いのだろう。

 まあ複数の村から少しづつ物資を強奪している可能性もあるが、この村周辺にはそれらしい集落はない。

 …今回は念のため危険性を高く見積もってクラス3の調兵一人、クラス4の狩兵2人での調査依頼としておこう。



「…派遣ついでに詳細まで書くように言っておかないとな。」



 ちなみに言うまでもなく紙媒体である。

 ただし紙の質はかなりいい。前世のコピー用紙とそんなに変わらず、コレが一般に普及している。依頼書は手書きだが、刻印板というファンタジー版印刷機みたいな物もあり、機械の上に紙を置き上から板で挟み、書き込みたい文字をキーボードのような物で打ち込むとあら不思議、紙にその文章が刻まれているのです。

 ちゃんと文字の大きさも指定できるし、事務作業はこれがないとやってられない。



「よし、張り出すか。」











「お、できたのか?」


「えぇ、とりあえず調査依頼を出します。…いつもの、ね。」


「あー、最近は守らない奴が多いからな。こっちを頼るのは良いが最大限…いや、最低限のことはしてもらいたいもんだ。」


「全くです。」



 いやホントにね。

 その辺しっかりした方が自分達だって間違いなく安全なのになんでしないんだろうね。


 うんざりしたような顔でふと窓から外を見る。日は高く登っており真っ昼間であることを主張していた。作業を始めた時も日は高かったから1時間くらいしか経っていないのかな。いや、時計はあるんだけど。



「依頼の進捗率は?」


「まだはっきりと割り出してはいないが、大体半分ってところだ。まぁぼちぼちだな。」


「…低クラスの依頼は粗方終わってるみたいですね。」


「最近になって新人も増えたからな。溜まってた分も消化してくれたみたいだ。…高クラスのは、中々なぁ。」


「元々長期を予定しているものばかりですし良いんじゃないですか?まあ外部からの依頼もありますから、催促があったなら別ですが。」


「いや、特にそんなことはない。ただずっとあると気になってな。」


「…まぁ、確かに。」



 高クラスの依頼は、採集のリスクが高い割に報酬が少なかったり、討伐対象がめちゃ強で物資の消費が激しかったりと旨みが少ない物であることが多い。

 手に入れることができるのは…名声とかか?


 それでもやはり命には代えられない。

 依頼者が貴族であったりすると運が良ければコネができたりもするが…貴族と関わるくらいならなぁ…。



「気長に待ちましょう。最悪こちらから指名依頼することになりますが。」


「あれなぁ…交渉面倒なんだよな。」


「受けたくて受けるわけじゃないですからね。強請って当前かと。」


「…もう国が解決してくれねぇかな。」


「お国に任せてはおけないでしょう…。」



 誰か解決してくれ〜

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