異世界の仕事も楽じゃない

@mochimochikinniku

本編

ファンタジーといえば

 みんなはファンタジー世界と聞いてどんなものを思い浮かべるだろうか。


 剣と魔法?神やドラゴン?勇者や魔王?あるいは少し捻って外宇宙とか?


 まあ想像するものは各々あるのだろう。ちなみに今挙げたものには俺も同意する。ファンタジーにおいて摩訶不思議なモノというものは大抵存在しているものだ。あるいはそんな非常識が肯定されるからこそファンタジーとして認識されているのだろう。



「フェルス」



 でも最近は段々とファンタジーというものがリアリティとごっちゃになってきたようだ。


 単なるイタいやつだと思うだろうか。思うのだろう。しかし待って欲しい。俺にもこうなってしまった経緯がしっかりとあるのだ。


 きっと聞けばみんな納得してくれる。


 なんせ、





「はい、なんでしょうクレール」


「…ここの村から遣兵の要請が出た。隣接する森からオークが出現したそうだ。」


「…」








 俺はそんなファンタジー世界に転生してしまっているのだから。











 かつて、俺は日本人だった。

 別に特別な事をしたわけでもあっと驚くような才能があったわけでも無い。ただ平凡に生き、平凡に死んだ…いや、ちょっと劇的に死んだサラリーマンだ。

 劇的に、とは言ってもコンビニで成人向け雑誌を買うか迷ってたら横から乗用車が突っ込んできて巻き込まれただけなんだけどね。


 死ぬ寸前というのはアドレナリンがどーたらこーたらで視界がはっきりと視認できるそうだが、しっかりとお爺ちゃんが目を見開いてこっちを見てたのが確認できたよ。

 多分アクセルとブレーキを間違えたんじゃ無いかな…いや、自動化が進んだ今時そんなことあるんだろうか。その辺はあまり詳しく無いんだ。

 お爺ちゃん、無事だといいなぁ。


 あとめっちゃ気持ちいいだなんて聞いたこともあったけどどうだったかな…覚えてないってことはそんなもんってことだろう。あるいはそんな余裕がなかったのか。


 兎に角そんなこんなで俺は若くして死んでしまったのだ。まだ童貞だって卒業してなかったのに…すまんな我がムスコよ…今世では良い思いさせてやるからなぁ…。因みにまだ目処は立っていない…こ、これからだからっ!


 あぁ、死んでしまうとは情けない…何が情けないだぶっ殺すぞ。

 RPGで有名なこのセリフってよくよく考えたら勇者超可哀想だよな。一回死んでる人間に向かって慰めではなく煽りを選択するとは…一国を担う人間とは思えねぇ所業だぁ…。王は人の心が分からぬってほんとだっだんだ。そう考えると勇者は本当に聖人だと思う。もう勇者じゃなくて聖者だね、こりゃ。



「また、ですか…もうちょっと村人鍛えてもらえないかなぁ…」



 そうして絶賛ニューライフを満喫している俺(24)が働いているのがこの『依頼派遣兵ギルド』と呼ばれる職場である。



「仕方ないだろう。辺境の農民は基本自給自足だし、そこまで王国も手は回らないし。自分の身は自分で守れ、なんて薄情だろう。」


「そう言うものでしょうか…」


「そういうもんだ。」



 なんだそれ、と思ったそこのあなた。


 ここは、そうだなぁ…こういった世界観に馴染みのある人にわかりやすく言うと、所謂「冒険者ギルド」である。


 誰かが提出した依頼を管理して適当な人材に割り振る。依頼の達成率に応じて報酬を与える。そんでそんな中で時々発生する問題を解決する。


 ざっくり言うとこんなもんである。まぁ明らかに色々とガバはあるのだが、世界観が世界観なので仕方あるまい…仕方ないといって良いのか。

 精密コンピュータでもあれば少しは違うのだろうが当然そんなものは期待できず、依頼に対する難易度や危険性、該当クラスの決定は基本的に過去の資料と照らし合わせて行われる。


 人力とか…おいおいおい死ぬわこれ。


 ただほどんどの依頼は似たり寄ったりであるものが多いので凡その目星は付く。

 今回であればオーク群の討伐。これも良くある依頼であり、個体数、集団の勢力による危険度の判断が可能なはずだ。


 それに、ギルドは定期的に各地域の生態や環境の調査を行っており、その他複数の組織の調査資料なども集めている。

 例えば近隣の森に生息する生物の勢力、隣接する海域の一ヶ月の天候状況から予測される魔物の移動等々、可能な限り早期発見早期解決ができるよう努めてはいるのだ。


 しかしいかに大規模組織といえど人力で行う以上限界があるわけで…

 そうした「漏れ」によって発生するのがこうした魔物討伐等の依頼なのである。



「リリアさんに流しても良いですか…?」


「…お前がオーガの顔を拝みたいならな…」


「……」



 そして、そんな依頼を処理するという面倒事を押し付けられるのが俺達ギルド職員なのだ。


 勘弁してくれよ、ほんと…。











 依頼の達成は職員ではなく遣兵によってこなされる。

 彼らはその達成に応じた報酬を生活の足しにするわけだ。


 当然といえば当然なのだが、遣兵達に割り振られる依頼とはこうしたお零れのようなものだけではなく、先程説明したような日々の調査や討伐といったギルドからの・・・・・・依頼も存在している。むしろこちらがメインと言えるだろう。

 出しても出しても無くならない任務をありがたいことに彼らが処理してくれるのだ。最もそれらを分別するのは我々の仕事なのだが。


 今俺が行なっているこの仕事もその依頼の危険度を分別するというもので、要請書に記入された内容をもとに依頼書を作成する…んだけど。



「…対象がオークである事以外何も書いていないんだが…?」



 要請書は依頼書を作成する上でベースとなる情報であるためできる限り詳細に記入してもらう必要がある。これは要請書を提出する上での努力・・義務となっており、テンプレートなんかも配布されている。

 しかし中には問題が発生したら碌に調べもせずフワッとした内容で提出する者達もいるのだ。なんで努力義務なんだ…義務化しろよ…。


 確かに村人達は戦力的に敵情視察なんてできないだろうし、それが分からないからこうして要請を出しているんだろうが…。

 それならせめて過去に襲われた時の様子やら何やら書けただろうに。便利屋じゃねんだぞこちとら。


 だがそんな依頼も無視できないのだから現実は非常である。



「先に調査依頼出すか…」



 こういった場合は基本的に一度遣兵を送りより正確な情報を手に入れなければならない。

 過剰な戦力を送り込めば達成はできるだろうが報酬は分散するし仕事の効率だって悪い。戦力不足なんて論外だ。俺達の仕事はただ仕事を与えるのではなく適切かつ出来うる限り安全な仕事を与える事なのだ。



「この距離なら…3時間あれば着くか。誰か手の空いてる人いるな。」



 仕事とはこうして増えていくのである。


 とほほ…。

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