Tの家での話②13階段と17段め

 Tの家の2階、床の間のある8畳の和室が、引越したばかりの頃の家族の寝室だった。


 家族全員分、4組の布団を平行に並べて眠る。ちょうど川の字に一本棒を足した形だ。

 一番ドア側の、階段に近いところが私の位置で、ドアからすぐのところに枕があった。


 幼稚園児〜小学校低学年だった私は20時過ぎには寝室に行かされていたが、そんな時間はまだ眠くない。

 暗いのは怖いと嘘をついて階段の電灯をつけっぱなしにし、その灯りで本を読むのが日課だった。


 時々、両親がちゃんと寝ているかを確認しにきた。

 当然見つかると叱られるので、階段を誰かが上がってくる音がしたら、枕の下に本を隠して寝たふりをしていた。



 Tの家の階段は13段だった。

 11段目で左に曲がり、13段目で二階に着く。

 大体10段目くらいで寝ている私から登ってくる相手の後頭部が見え、11段目になると向こうからもこちらが完全に見える様になる。


 母だと確実に叱られて電灯を消される、父だと注意はされるけどそんなに怖くないし電灯も消されない、兄が寝に来たのなら私が本を読むことに無頓着なので全く問題無し。

 少しでも本の続きを早く読みたくて、寝たふりをしながらチラチラと誰が上がってくるのかを窺っていた。



 しかし、階段を上がる音はするけれど、一向に姿が見えない。

 もう10段目、小さい兄でも頭が見えるはず。

 11段目、階段が曲がって、顔も見える位置。

 12段目、そろそろほぼ全身が見える。

 13段目、登り切って、目の前にいる、はず。


 でも、誰もいない。


 誰も見えない。


 いつもの階段だけが目の前に広がっている。


 そしてそのまま、足音が登っていく。


 14段、15段、16段、17段。


 17段目で音は消えた。


 姿は最後まで見えなかった。



 この17段分階段を登る足音は、大きくなって寝室の横の6畳間が私の部屋になり、1人で眠る様になっても、ほぼ2日に1回くらいの割合で聞こえてきた。

 兄と一緒に聞いた事もあるが、兄も何も見えないと言っていた。

 両親は聞いたことがあるのか、大人になってから尋ねたのだが、要領を得ない答えしかもらえなかった。


 13段しかない階段の、存在しないあと4段、どこに登っていったのかはわからない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る