やり直した悪役令嬢は家族の為に断罪を回避する

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 広場に人が集まっていた。


 彼等の視線は広場の中央にそそがれる。


 なぜならそこでは、一人の悪女の断罪が行われるからだ。


 悪女の傍にいる者が、斧を手にした。


「お前が行った数々の悪事は、死によって償われるだろう。刑を執行する!」


 断罪の刃が振るわれて、一人の女性の命が断たれた。


 その女性の死を悲しむ者はいない。


 なぜなら彼女は、世界の敵である存在ーー邪神をその身におろしたのだから。






 断罪された悪役令嬢マリー。


 マリーは、乙女ゲームの世界だという知識を持っていたにもかかわらず、死亡してしまった。


 異世界転生したという利点を活かせなかった。


 というよりも――。


「知識があったから油断していたって事なのかも。消極的でいるべきじゃなかったわね。二周目に活かさないと」


 マリーは失敗した。


 それはなぜか。


 運命の強制力があったからだ。


「まさか何もしなくても悪役として断罪されるなんて思わなかったわ。死んだ記憶があるまま生きてるのって変な感じ」


 マリーは、原作通りにならないようにヒロインを虐めまいとした。


 しかし、誰かがやってしまったようだ。


 それで、濡れ衣でマリーが手を汚したという証言がたくさんでてきた。


 証拠はなかったが。運命をあなどりすぎたようだ。


 マリーからの虐めは、実際にあったものとして扱われてしまった。


「黒幕にも協力していないのに」


 原作の悪役令嬢マリーは、シナリオの黒幕に協力していた。


 だから、このマリーは黒幕に協力すまいとしていたのだが、誰かが協力してしまったようだった。


 その誰かは、マリーに罪をなすりつけ、どこかへと逃亡。


 結果として、身代わりのマリーは、命を落とした。


「国を壊すような邪神の復活だもの。誰かが死ななければ市民達は納得できなかったでしょうね。証拠がなかったとしても」


 一周目では、そのような事が積み重なった結果の果てに、濡れ衣を着せられた悪役令嬢マリーが断罪されたのだった。


 詳しい調査が行われて、白だと判明したにもかかわらず。


 しかし、彼女には一つの魔法があった。


 それは時を巻き戻すという魔法だ。


 転生する際に、転生の手続き?みたいなものをしてくれた神様から、力を授けられていたのだ。


「他にもいろいろ魔法があったけど、もらったのがこれでよかったかもしれない」


 だから今度は、悪役令嬢として立ち回り、自分で状況をコントロールできるように努めることにするのだった。


「次は間違えない。絶対に、死なないわ」






 決意した彼女はやるべき事を整理し、コツコツ実行した。


 その時期は、原作開始の五年前。


 やれることは、山ほどあった。


 だから原作が始まるまでは、自分を磨いてあらゆる技能を身に着けた。


「礼儀に教養に剣技に武術に護身術に、いろいろあるわね」


 一周目もそれらはしていたが、さらに同じ事を繰り返し、さらにその道を究めていく。


 極めたもののいくつかは、達人級にまでなった。


 そしてマリーは、原作開始の時期からは一周目とは異なった行動をとる。


 悪役令嬢らしく、ヒロインと攻略対象の仲を引き裂き、ヒロインに虐めを行っていった。


「平民が当たり前のような顔をして、この学校の廊下を歩かないでくださる?」

「そんな、ひどいですわマリー様」


 そしてそれだけでなく、黒幕ともかかわり、ラストエピソードに向けてシナリオをすすめていった。


「私、気に入らない娘がいますの。あの子を陥れるためなら、邪神の力だって借りますわ」

「面白い娘だ。よかろう、我々の計画に力を貸したまえ」


 それらは全て妹のための行動だった。


 マリーにはメリーという妹がいた。


 メリーには夢があり、才能があった。


「おねえさま、わたしね! おっきくなったら、みんなを助ける魔法使いになるの!」


 立派な魔法使いになり、国の中央の宮殿に勤めるという夢が。


 そこは、魔法使いのエリートだけが、行ける場所。


 犯罪者の妹などというレッテルが貼られてしまえば、メリーの将来は閉ざされてしまうだろう。


 マリーが断罪されれば、メリーの夢がかなわなくなってしまう。


 そう思ったマリーは、運命の修正力が作動しないように注意を払いながらも、断罪されない未来を探っていった。







 マリーは、悪役令嬢として活動する傍ら、自分が白だという様々な証拠を残しておく事にした。


 忠実な奴隷を購入し、人目につかない所で計画を話し、優しく接して懐柔する事や。


 できるだけ日記を詳細につけるようにして、断罪の前に人目につくよう、細工をしておく事や。


 匿名で慈善事業に力を入れたり、孤児院施設や教会に支援をしたりして、いざという時の味方を増やした。


 そして、黒幕の企みを、シナリオの影響を及ぼさない程度に、ヒロイン達に流す事も。


 メリーの事だけを考えて、世界がめちゃくちゃになってしまったら、元も子もないからだ。


 そのような努力の結果、迎えた断罪の日。


 悪役令嬢マリーの運命はーー


「マリー様は、そのような方ではありません。皆さん誤解されています!」

「そうです! マリー様は本当は優しい方なんです。貧しかった私達が、どれだけマリー様に助けられた事か」

「お願い、あたし達の孤児院をすくってくれたマリー様をいじめないで!」


 一周目とは違う形をとった。


「みんなありがとう」


 その言葉は心からのお礼だった。


 利用するために行動した結果でもあるが、彼等が邪神の餌食にならないようにという思いも、マリーの本心だったからだ。







 彼等の訴えと証拠品の存在により、無事断罪を免れたマリー。


 ヒロインと攻略対象達は誤解していたと謝った。


「ごめんなさいマリー様。マリー様には深い考えがあったんですね」


 それに対して、マリーは思う事はない。


「気にしないで。私は何も思っていないから」


 ただ、


「おねえさま、よかった! 学園から兵士達に連行されたと聞いて、いてもたってもいられなかったんです! 無事だったんですね! 取り調べはもう終わりましたか?」

「ええ、丁重に扱ってもらったもの。何も心配しなくてよかったのに」


 彼女は命を落とす事なく、メリーの夢を邪魔する事なく、この先も見届ける事ができるようになった。


 それが、何よりも嬉しい事だった。



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