26


「赤い糸で結ばれていようが、何か他にキッカケがあれば、別の人と結ばれることもあるのかもしれない」


 なんとも言えない感情に支配されている俺とは違い、希輝は解決策を考えているのだろう。

 眉間に皺を寄せ、唇をぎゅっと結んでは開いてを繰り返す希輝が、何かを言おうとして躊躇っているのが分かる。

 話の流れ的にも、俺に頼みづらいことを頼もうとして躊躇している姿に見えて、思わず苦笑した。


「分かった。巻き込んだのは俺みたいなもんだし、ここは俺が引き受けるよ」

「……は?」


 瞳に決意をこめた希輝が何かを言う前に、希輝の肩を軽く叩いて微笑んだ。

 残り少なくなったパンを袋ごと机の上に置いた希輝が、俺に戸惑いの視線を向ける。


「他のキッカケ作り。正直、モテたことがないから自信がないけど」

「どういうことだよ」

「俺の友人みたいに、彼女を作ってみる」


 間違いなく俺よりも希輝のほうが適任なんだけど、人嫌いの希輝には頼みづらい。

 それ以前に、最低だと思いつつも、希輝が他の人と良い仲になるのを見たいと思えなかった。

 

「紡久は、それでいいのか」

「え?」


 さっきまであった筈の決意の光が消え、表情に陰りを見せた希輝に戸惑いを隠せない。


「それでもなにも……希輝に任せるわけにはいかないし」

「そうじゃなくて……っ、もういい」

「希輝?」


 ふいと顔を逸らした希輝が、残ったパンを袋ごと掴んで席を立つ。

 荒々しい足音を立てて教室から出て行く背中を追おうとしたけど、希輝の手に掴まれたパンが醜くひしゃげていて、それを見たら追う勇気は出なかった。

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