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「とりあえず、先ずはこれが俺たちが考えた通りのものなのかを調べたい」

「……つまり?」

「図書室だ」


 その後は、人目につかないように希輝とは距離をあけながら図書室へと向かった。

 希輝はいつものように颯爽と、風を味方につけるかのように歩いていたけど、俺は忍者のようにコソコソと歩く。

 放課後ということもあり、運よく誰ともすれ違うこともなかったけど、図書室の扉を開けた瞬間に運が尽きたことに気づいてしまった。


「えっ! なんで図書室に希輝くんが……」

「いつも真っ直ぐ家に帰るって噂だったよね」

「スポーツマンかと思ったら、本も読むなんて……素敵」


 放課後に図書室で過ごしていた女子が、ひそひそと希輝に熱視線を送りながら囁く。

 男子は突然図書室が騒がしくなったからか、それとも女子の視線を全て奪われたからか分からないけど、苛立つように希輝を見つめた。

 その男女両方共に、俺の姿はまるで背景のように見えていないらしい。


「……本当、希輝ってどこに行っても人の視線を集めるよな」

「嬉しくない。それより、ほら。赤い糸について調べるぞ」


 好奇の視線から逃げるように、俺の腕をつかんだ希輝が図書室の奥へと進んでいく。

 希輝の顔はよく見ると強張っていて、本当に人が苦手なんだと分かってしまった。


「希輝、こっち」

「は?」


 俺の腕を引っ張っていた希輝の手を逆に掴み、人気のない隅へと連れ込む。

 誰もついてきていないことを確認してから、希輝の手を離せば、希輝が戸惑いの色を濃く浮かべた。


「ここで待ってて」

「……な、ここで待っててって。どうする気だよ」

「俺が、それっぽい本がないか探してくるから」


 慌てた表情を浮かべた希輝に、くるりと背を向け本の海へと足を向けた。

 正直赤い糸について書かれた本が、この狭い図書室の中にあるとは思えないけれど、あるとしたら歴史コーナーの気がする。


「これは違う。……これも、これも人物だな」


 適当に少しボロボロになった本を手に取り、ぱらぱらと捲ってみるも赤い糸について書かれた本は見つかりそうにない。

 ふうと溜息を吐いて、六冊目の本を手に取ろうとした瞬間、横から伸びてきた手によって本が奪われた。


「え……希輝!?」


 隅へと避難させた筈の希輝が、いつの間にか俺の横に立っていて、目を見開く。

 再度、人の視線を浴びることになったせいか、希輝の顔から血の気が引いている。

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