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「……紡久のことは、今は嫌いじゃない」


 言った直後に照れくさくなったのか、希輝の白い頬に、薄っすらと赤色が差した。

 協力して貰えるだけでも万々歳だって言うのに、まさかこんなにも嬉しくなる言葉まで頂けるとは。

 喜びで口元が波打ちそうになりながら、希輝の背中をパシパシと軽く叩く。


「そっか! それなら安心した」


 希輝の泳ぐ視線を追いかけるように、目の前に立って、ニッと笑いかけた。


「紡久って……本当、変なヤツ」


 戸惑いを含みつつも、ホッとしたような希輝の声が何だか心地よくて、心の中がポカポカと温かくなる。


「それで、どうしよっか」


 冷えた机の上に腰をかけ、足をぶらぶらと揺らせば、希輝の瞳も俺の足元を追うようにして揺れた。

 何故かその視線に居心地の悪さを感じて、意識を逸らそうとワザと少しだけ大きめの声をあげる。


「俺が一番最初に考えた案は、ハサミで切ってみる……なんだけど」

「は!?」


 俺の足から顔へと驚愕の表情を向けた希輝が、勢いよく首を左右に振った。


「それは駄目だ!!」

「え」


 距離を詰めてきた希輝の勢いにおされて、机ごとひっくり返りそうになった。

 俺的には結構良い案だと思ったのに、希輝の必死すぎる形相に、なんと言えばいいのか分からない。


「で、でもさ。これで切れたら手っ取り早く解放されるかもしれないんだぞ?」

「恋愛云々は置いておいて、友情の縁とか……他のモノまで切れたらどうするんだよ!」

「……は?」


 まさか、そんな心配をされるとは思いもしなかった。

 口をぽかんと開けて希輝を凝視すれば、自分が口走った言葉の破壊力に気づいたのか、顔から湯気が出そうになっている。


「お、お前のことは初めて嫌じゃないって思えたから」

「あ……そ、そうか」


 釣られるようにして、赤く染まっていく頬を手のひらでさすれば、なんだか熱を持っているような気がした。

 突然しんと静まり返ったせいで、何だか居心地も悪くて逃げ出したい。


「まさか、人嫌いの希輝に好いてもらえるなんてな……わはは」


 変な空気を壊そうと、わざとらしく笑い声をあげてみた。


「好きとまでは言ってない」


 赤く染まった頬のまま、ひと睨みをしてきた希輝に、無理やり上げた片頬が硬直する。

 一体、俺にどうしろと言うんだ。

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