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「俺だって、突然他人から『今から嫌いな奴を好きになれ』って言われても無理ってなるだろうし。無理する必要はないよ」

「……そんなこと初めて言われた」

「はは。それよりイカ墨って旨そうで俺は好きだよ」


 気の抜けた表情になった希輝に、にこりと笑みを向ける。


「……おまえって変なヤツだな」

「少しは株が上がったか?」

「今の一言で変化なし、かな」


 言葉とは裏腹に俺を見るまなざしが柔らかくなっていて、なんだかむず痒い。

 その瞳から逃れるように希輝の顔から視線を外して、軽く笑いかけた。


「ま、そういうことなら俺もこれ以上は希輝に関わらないよ」

「え」

「人嫌いなのに悪かったな。変なことに巻き込んじゃって」


 希輝の小指に繋がった赤い糸を目線で指して、教室を出るために背中を向ける。


「この糸も、自分一人でもなんとかできるかもしれないし」


 勘違いしそうになる、少し寂し気な表情を浮かべた希輝に、後ろ髪をひかれながらも教室を出た。

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