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 希輝の教室に来て早々、思った通りの嫌な展開になっていたことに気づいて血の気が引いた。

 前に来た時とは違い、男女ともに希輝との距離が少し遠い。

 男子は「何故自分が恋愛対象になると思った」と聞きたくなるぐらい、希輝へ警戒の視線を向けている。一部の男子は、希輝が相手なら良いとでも言いたげな顔をしていたけれど。

 女子は女子で、熱っぽい視線を向けながらもヒソヒソと噂話に花を咲かせていた。


「あの……希輝を呼んでもらえますか」

「え……っ、あ、はい!」


 教室の入り口付近に立っていた女子に話しかければ、驚いた顔をしつつも駆けていった。

 あの人が噂のとでも言いたげに、四方八方から視線が飛んできて居心地が悪い。


「ほら、あの子が希輝くんが好きな男」

「うそー! 希輝くんを落とすぐらいだから、女子より可愛い男子を想像してたのに。趣味悪……」

「あの子が離席してる時で良かったね……。ただでさえ告白事件から荒れてるってのに、本人を前にしたら何するか」

「あれ? あの子、昨日はふられてなかった?」


 色々と気になる会話があったけど、その中に悪口もあった気がするぞ。

 視線をバッと勢いよく横にずらせば、化粧をバッチリときめた女子数人と目が合った。

 この学校では化粧は校則違反だった気がするけど、気にも留めてないのだろう。イケメンが近くにいるんだ、そうなるのも当然か。


「あの……その噂についてなんだけど」

「きゃっ! な、なによ」


 気の強そうな見た目とは裏腹に、急に近づいた俺にビビった女子が後退る。

 まさか話しかけただけで身を縮こまらせ、敵を見るような目で見られるとは思っていなかった。

 正直ショックがでかいけど、勇気を出すために唾をグッと飲み込む。


「希輝が俺に告白したって噂。あれ、逆なんだ」

「え……? 逆?」

「俺が希輝に告白して振られたんだ。じゃ、そういうことだから」


 驚きに目を瞠った女子を置いて、さっさと元の位置に戻る。

 彼女たちは噂話が好きみたいだから、きっと明日までには、この話を広め直してくれるだろう。

 何もなかったと弁明しても絶対に信じないだろうし、それだとつまらないと思われて何もしないに違いない。

 グッバイ、俺の青春。俺のせいでこうなったようなもんだし、せめてイケメンの人柱ぐらいにはなろう。


「紡久」

「お、希輝! 突然呼び出して悪いな」


 早足で駆けつけた希輝の表情が、心なしかげんなりとしていて、罪悪感を抱く。

 とりあえず、周りの好奇の視線から逃すために、希輝の手首を掴んで引っ張った。

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