8
◇
「ここならいいだろ」
人通りが少ない廊下を通り、滅多に使われることのない空き教室に入る。
ガラリと扉をしめた瞬間、勢いよく希輝が振り返って心臓が止まるかと思った。
「一体俺に何の呪いをかけたんだ?」
「は?」
強張った顔つきのまま自分の小指を指した希輝に、動揺しか生まれない。
まさか俺が希輝に呪いをかけたとでも思っているのか?
「そんなわけないだろ!」
「昨日紡久に手を握られるまでは、こんな物はなかった筈だ」
「ぐっ……」
赤い糸の相手をたどる前に母さんの話を聞いていれば、安易に手を握ったりしなかったのに。
「いくら俺が好きだからって、こういうのは正直迷惑だ」
「は!?」
予想外の展開に話が飛躍しすぎて、声が裏返った。
昨日は俺も変なことを口走ったし、誤解されても仕方ないと思ってはいたけど。
「あの、俺は別に希輝のことが好きなわけじゃ」
「だったら、この赤い糸は何だって言うんだ? ただの赤い糸だって?」
「……う」
腕を組み、嫌そうな表情を浮かべた希輝に釣られて、俺まで口端がヒクリと引き攣る。
母さんの発言で、運命の赤い糸という線が濃厚になっているのは確かだ。
昨夜遅くに帰ってきた父親の小指に結ばれた赤い糸は、しっかりと母さんの小指に繋がっていたし。
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