8


「ここならいいだろ」


 人通りが少ない廊下を通り、滅多に使われることのない空き教室に入る。

 ガラリと扉をしめた瞬間、勢いよく希輝が振り返って心臓が止まるかと思った。


「一体俺に何の呪いをかけたんだ?」

「は?」


 強張った顔つきのまま自分の小指を指した希輝に、動揺しか生まれない。

 まさか俺が希輝に呪いをかけたとでも思っているのか?


「そんなわけないだろ!」

「昨日紡久に手を握られるまでは、こんな物はなかった筈だ」

「ぐっ……」


 赤い糸の相手をたどる前に母さんの話を聞いていれば、安易に手を握ったりしなかったのに。


「いくら俺が好きだからって、こういうのは正直迷惑だ」

「は!?」


 予想外の展開に話が飛躍しすぎて、声が裏返った。

 昨日は俺も変なことを口走ったし、誤解されても仕方ないと思ってはいたけど。


「あの、俺は別に希輝のことが好きなわけじゃ」

「だったら、この赤い糸は何だって言うんだ? ただの赤い糸だって?」

「……う」


 腕を組み、嫌そうな表情を浮かべた希輝に釣られて、俺まで口端がヒクリと引き攣る。

 母さんの発言で、運命の赤い糸という線が濃厚になっているのは確かだ。

 昨夜遅くに帰ってきた父親の小指に結ばれた赤い糸は、しっかりと母さんの小指に繋がっていたし。

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