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「紡久ー! おまえにお客さん!」

「……は?」


 学校に来て早々、机に顔を伏せて悪夢みたいな現実から逃げようとしたのに。

 肩をゆさぶられ、強制的に現実へと連れ戻されて、不機嫌丸出しの声が漏れてしまった。


「校内一、有名な人気者に呼び出されるとか、一体どんな徳を積んだらそうなるわけ?」

「今日から注目の的だろうなあ」


 友人の言葉に嫌な予感がして、そろそろと視線を扉の方へと向ける。

 出入り口から飛んでくる視線の持ち主は昨日の男で、遠くから見ても爽やかな風を感じた。

 昨日は危険人物を見るような冷たい目で見てきたくせに、なぜ会いに来たのだろう。

 きっと、二度と俺とは関わらないように生きていくだろうと思っていたのに。


「まさか」


 手を繋いだ次の日に、父さんも見えるようになったと母さんが話していたけど。

 昨日イケメン君の小指に繋がった赤い糸に驚いて、手を握った気がする。


「……いやいや、まさかな」


 頭をふって、重い腰をあげてイケメン君の元まで歩み寄った。


「えっと……昨日はどうも。希輝サン」

「……希輝でいい」

「あ……じゃあ、俺も紡久で」


 ペコリと会釈をすれば、希輝という男が口端をあげた。

 よく見ればヒクヒクと引き攣っていて、作り笑いだと気づいたけど、作り笑いでも爽やかな風は吹くらしい。

 どこかで人が倒れる音がした。多分、希輝の爽やかスマイルにやられたのだろう。


「えーっと……希輝、一体何の御用で」


 最後まで聞く必要はなかった。

 俺の小指に注がれた希輝の嫌そうな視線のせいで、希輝にも見えるようになったのだと確信する。

 俺の昨日の行動のせいだと分かっていても、運命の糸が繋がっていることを、このイケメンにだけは知られたくなかった。


「とりあえず空き教室に行くか」


 目線で人が気になると伝えてきた希輝に、コクリと小さく頷き返す。

 希輝と運命の糸について熱く語り合う姿を、他人に見られるのは俺も絶対に避けたい。

 清潔な香りを漂わせて急ぎ足で去る背中に置いていかれないよう、早足で追いかけた。

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