6


「母さん、これが見えてる!?」

「やあね。もう今は見えないわよ。紡久を産んだ時には薄っすらと消えかかっていたし、この子を産んだ時には綺麗サッパリ見えなくなったわ」


 妹を指さした母さんが、少し寂しそうに笑った。

 バッサリと切られて落胆しそうになったけど、その発言だと昔は見えていたということだ。

 暗闇の中に一筋の光が差し込んだ気がする。


「不思議だったわあ。私と縁が出来た相手のだけ突然見えるようになってね」

「たしかに……」


 俺の友達と、俺の小指に結ばれた赤い糸だけ見えていた気がする。

 そうじゃなければ、きっと廊下は赤い糸の海になっていただろうし、俺の気も狂っていただろうから、ホッとした。


「これって、俺にしか見えないのか」

「正確には紡久と紡久の運命の相手以外にはね」

「は!?」


 また爆弾発言が飛び出してきたせいで、自分でも驚くほどの大きな声が出た。

 妹が驚いた顔をしたから、慌てて小さな頭を撫でて作り笑いを浮かべる。


「俺のうんめ……糸の先のやつには見えてなかったみたいなんだけど」

「最初は私もそうだったわよ。だけど、ある日突然……そうね。お父さんと手を繋いだ次の日には見えてた気がするわ」


 やっぱり、母さんの赤い糸の相手は父さんなのか。

 この糸が運命の赤い糸という線が再び濃くなってきて、つい頭を抱える。

 さっきまで見えていた一筋の光が、暗闇にかき消されていった。


「それで、紡久の運命の相手はどんなこだったの? 可愛かった?」


 母さんの一言がとどめとなって、力なく床に倒れ伏せば、母さんと妹が不思議そうに首を傾げた。

 可愛いとか可愛くないとか、それ以前の問題で、男だったなんて言える筈がない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る