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「母さん、これが見えてる!?」

「やあね。もう今は見えないわよ。紡久を産んだ時には薄っすらと消えかかっていたし、この子を産んだ時には綺麗サッパリ見えなくなったわ」


 妹を指さした母さんが、少し寂しそうに笑った。

 バッサリと切られて落胆しそうになったけど、その発言だと昔は見えていたということだ。

 暗闇の中に一筋の光が差し込んだ気がする。


「不思議だったわあ。私と縁が出来た相手のだけ突然見えるようになってね」

「たしかに……」


 俺の友達と、俺の小指に結ばれた赤い糸だけ見えていた気がする。

 そうじゃなければ、きっと廊下は赤い糸の海になっていただろうし、俺の気も狂っていただろうから、ホッとした。


「これって、俺にしか見えないのか」

「正確には紡久と紡久の運命の相手以外にはね」

「は!?」


 また爆弾発言が飛び出してきたせいで、自分でも驚くほどの大きな声が出た。

 妹が驚いた顔をしたから、慌てて小さな頭を撫でて作り笑いを浮かべる。


「俺のうんめ……糸の先のやつには見えてなかったみたいなんだけど」

「最初は私もそうだったわよ。だけど、ある日突然……そうね。お父さんと手を繋いだ次の日には見えてた気がするわ」


 やっぱり、母さんの赤い糸の相手は父さんなのか。

 この糸が運命の赤い糸という線が再び濃くなってきて、つい頭を抱える。

 さっきまで見えていた一筋の光が、暗闇にかき消されていった。


「それで、紡久の運命の相手はどんなこだったの? 可愛かった?」


 母さんの一言がとどめとなって、力なく床に倒れ伏せば、母さんと妹が不思議そうに首を傾げた。

 可愛いとか可愛くないとか、それ以前の問題で、男だったなんて言える筈がない。

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