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◇
「やっぱり、どう考えてもあり得ないだろ」
自宅のベッドに寝転がり、赤い糸が結ばれた手を掲げながら吐息を漏らす。
抱きたい女優ランキング一位も落ちそうなレベルのイケメンが、そこらへんにわんさかいるような男と、一生を添い遂げる仲になるとは到底思えない。
俺だって、いくらイケメンだとしても男と恋愛だなんて絶対にお断りだ。
相手からしたら第一印象も最悪だっただろうし、俺と奴が恋仲になるだなんて、何が起ころうともあり得ないだろう。
「もしかして、運命の赤い糸じゃないのかも」
ギシリと音を立てながら起き上がって、ベッドから足をおろす。
だったらこれは何の糸なんだっていう新たな問題とぶつかるけど、そんなものはどうでも良い。
「これが赤い糸じゃなかったってだけでもハッピーだ!」
鼻歌を歌い、弾む足取りで部屋を出て階段をおりる。
「紡久、ただいま」
「母さん! おかえり」
仕事から帰って来た母さんが、幼い妹を抱きかかえながら帰って来た。
玄関で靴を脱いだ母さんに駆け寄れば、短めの髪をツインテールにした妹と目が合う。
「にいに、ただいま」
「おう。おかえり」
俺を映すくりくりの可愛い瞳を見ているだけで、頬がゆるりと上を向く。
頭をくしゃくしゃと撫で回せば、妹が嬉しげに目尻を下げて笑った。
この愛らしい笑みを見ているだけで、小指に結ばれた赤い糸の件がどうでも良くなってくる。
そう、どうでも──。
「母さん!? なにその赤い糸!」
「えっ」
妹を床におろした母さんの小指にも赤い糸が見えて、一瞬で血の気が引く。
青ざめた顔で指を差した俺を、母さんが驚いた顔をしつつも頬を薄紅色に染めた。
「やだ……。もしかして、紡久にも見えてるの?」
「紡久にもって……え!?」
「やっぱり家系かしらねえ」
頬に手を当てて、うふふと柔らかな笑みを浮かべた母さんに開いた口が塞がらなくなる。
この反応、間違いない。
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