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「な……な……!」

「……本当に大丈夫か?」


 震える指先で、イケメン君の小指を差した俺を、訝し気に眉を顰め見てくる顔すら格好良い。

 そんなことを思っている場合じゃないんだろうけど。


「希輝サン」

「え。なんで俺の名前」

「俺の……運命の相手」

「──は?」


 イケメン君の右手を両手で握りしめて、まじまじと見つめる。

 やっぱりそうだ。俺の小指から伸びた赤い糸が、希輝さんの小指に繋がっている。


(嘘だろ。最悪だ)


 相手が女子じゃなかっただけでも絶望的なのに、まさか相手がモテモテ美男子くんだとは。

 俺が同性すら落とす美貌の持ち主だったら、まあそんなこともあるかと考えたかもしれないけど。残念ながら、女子に見惚れられたことが一度もない顔をしている。

 なにがどうなったら、そんな俺とモテ男がそんな関係になるのかが、全く理解できない。


「……あの、急いでるから」

「え」


 包み込んだ俺の手を、さっと振り払ったイケメン君が、早足で立ち去っていく。

 最後に一瞬だけ目が合ったけど、視線が完全に不審者を見る目つきだった。

 何故そんな目で見られなきゃならないのかと一瞬腹も立ったけど、すぐに怒りは萎んでいく。


(そういや俺、かなりまずいことをしたかも)


 出会ってすぐに手を握り、名前を呼んで「俺の運命の相手」と呟いたような。


「さ……最悪だ」


 俺だって、初対面の男にいきなり同じことをされたら、すぐに要注意人物として扱うだろう。

 頭を抱えて教室の前から去る俺の背に、イケメン君のクラスメイトが、憐みの目を向けていただなんて知る由もなかった。

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