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◇
「お、あの教室で曲がってる」
俺のクラスの二つ隣の教室に赤い糸が入っていて、口端がゆるりと上を向く。
まさか、こんなにも近い場所に俺の運命の相手が存在していたとは。
先輩でも後輩でもなく、同年代だったのも話が合いそうで嬉しい。
弾む足取りのまま教室に近づけば、きゃあきゃあと騒ぐ甲高い女子の声が耳をつんざいた。
「なんだ……? 騒がしいな」
浮かれた気分が困惑の色に一瞬で塗りつぶされる。
俺の運命の人がいる筈の教室で、一体何が起きているのだろう。
そろそろと入り口から顔を覗かせれば、爽やかな風が目の前を通り抜けた。
「
「帰りにカラオケいこうよ」
「おまえばっか女子にモテんのムカツクんだけど」
女子に群がられることに慣れているのか、周りに目を留めず通学鞄を肩にかけた男。
テレビの中でしか見た事がないような整いすぎた顔立ちに、感嘆の吐息が漏れた。
少し銀色がかった髪が、こんなにも似合うと思った男は初めてかもしれない。
「ごめん。今日は先約があるから」
「またかよ! それ絶対嘘だろ」
「見た目爽やかだけど、結構素っ気ないよなあ」
周りの男子が騒ぐ中、両頬を上げ、片手を顔の前に上げて謝罪のポーズをとった男。
一つ一つの仕草が全てさまになっていて、男の俺ですら見惚れてしまった。
これだけカッコイイんだ。きっと女に困ったことがないに違いない。
(羨ましい)
こういう男が、女の心を全て独り占めしていくのだろう。
このレベルのイケメンが近くにいたんじゃ、女子が俺を含めた他の男に見向きもしないのも納得だ。
「あ、悪い」
ボーッと眺めていたせいか、いつの間にか目の前まで男が来ていたのに気づかなかった。
入り口から顔を出す俺に、危うくぶつかりそうになった爽やかイケメン君が、軽く頭を下げる。
石鹸のような清潔な香りが、ふわりと鼻をくすぐってドキリとした。
匂いまで完璧とか、非の打ち所がなさすぎる。
「いや、こちらこ……そ」
軽く頭を下げた瞬間、イケメン君の小指に絡まった赤い糸に目が釘付けになる。
イケメン君に運命の相手がいるのは当然だと思うし、それには驚かない。
そう、糸の先をたどりさえしなければ驚かなかったんだ。
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