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「注目の的だったな、紡久つむぐ


 俺の名を呼んだ友人の友樹ともきが、小さな瞳をさらに細めて笑った。

 恥をかいた俺を見て面白がる姿に、内心イラつきながらも友樹の小指を見る。


「……ある」

「は?」


 友樹の指に絡まっているのは、俺と同じ赤い糸だった。

 もちろん俺の赤い糸とは繋がっていないけど、その糸は長く伸び、窓から外へと飛び出ている。

 糸の先を視線でたどってみるも果てが見えず、諦めて視線を友樹の冴えない顔に戻した。

 もしこれが運命の赤い糸というロマンチックな物だとしたら、現実とは時に残酷だ。


「友樹、高校生の間は彼女が出来ないみたいだぞ」

「はあ!? なんだおまえ。いきなり失礼なヤツだな!」


 友樹が机の上に置いていた教科書を掴み、思いきり角で殴られた。

 目の前で星が散り、視界が揺れながらも涙目で友樹を睨みつける。

 角はダメだろ、一番やっちゃダメだろ。


「俺が毎日彼女欲しいって言ってるのを知っていて、よくもそんな酷いことを……」

「……友樹には、やっぱり見えていないのか」


 変な人を見るような目で見られたけど、友樹の視線を気にする余裕はない。

 震える指先で赤い糸を掴もうとしたけど、すり抜けてしまい掴めそうになかった。


「まじかよ」

「あのな、何に絶望してるのか知らないけど、お前と違って俺は彼女が出来るからな」

「……そうだ。彼女!」


 何故見えるようになったのかは分からないけど、これが運命の赤い糸なら俺にも運命の相手がいるということだ。

 不満げな顔をした友樹には悪いけど、今は構っている場合じゃない。

 友樹の運命の相手は学校にはいないみたいだけど、俺の場合は違う。

 俺の小指に結ばれた赤い糸は廊下に続いていて、同じ校内にいることを示していた。


「紡久……?」

「悪いな。俺のが先に彼女が出来るかも!」


 浮かれた声を出しながら、勢いよく教室を飛び出る。

 友樹の呆然とした顔が見えたけど、振り返らずに俺の小指から伸びる糸の先を追った。

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