第21話 ライブ後

 控室にて……


「おうおう、テメエら! やってくれたな、こんちくしょー!」


「みっちゃん、落ち着いて」


「け、けんかはだめですぅ」


「でも、ちゃんとお灸は据えないと」


 ラブッショメンバーの視線は、ある2人に注がれている。


 いつも気丈な2人であるが、さすがに今回は引け目を感じているようで、うつむき加減だ。


 そんな2人に、スッと歩み寄ったのは……


「りおさま! 今回こそ、ガツンと言ってやってよ!」


「ええ、そうね」


 理央は頷く。


「夢叶、心」


 リーダーの彼女に呼ばれて、2人はかすかに震えた。


 自分たちよりも年上で、このラブッショの土台、絶対リーダー。


 いつもは穏やかだけど、さすがに大事なライブでの失態。


 しかも、フォローまでさせてしまって。


 さすがに、今回は温厚なリーダー様もキレて……


「……めっ♪」


 ズザザー!


「って、りおさま! またかよ!」


「えっ?」


「えっ? じゃなくてさ~、もっとこう、『ざけんじゃねえ、テメエらこの野郎ぉ~!』……とか言ってよ!」


「美千留、私たちはアイドルよ。それに、今の時代はそうじゃないの」


「まあ、おっしゃる通りだけど……」


「ただ、あなたの言うことも正しいわ……夢叶、心」


「「……はい」」


「グループ内でも、お互いに張り合うのは結構。でもその結果として、ファンのみんなを不安にさせて、ガッカリさせるようなことだけは、して欲しくないな」


「……ごめんなさい」


「ごめん……元はと言えば、ゆめっちが悪いとはいえ、こころも悪かったです」


「って、ちょっと待ちなさい」


「ほえっ?」


「元はと言えば、私にちょっかいを出して来たのは、あなたの方でしょ?」


「別に~? こころがちょっかいを出したのは、ゆめっちと言うよりもか……」


「わあああああああああぁ!」


「って、ビックリしたぁ! ゆめーんがライブ以外で絶叫するなんて、初めて見たし」


「ご、ごめんなさい」


「全く、良い歳して恥ずかしい女ですね~」


「心、あなたね~」


「2人とも」


 理央の静かな声が響くと、調子に乗っていた心も、ヒス気味だった夢叶も、それ以外のメンバーも、サッと青ざめる。


「分かっているわよね?」


「「「「「「申し訳ございませんでした」」」」」」


 夢叶と心以外の、何も悪くないメンバーまでもが一切にお辞儀をしていた。


「よろしい」


 理央はニコリと微笑んだ。




      ◇




「理央は元々、あくまでも、平凡な女の子だったんです。もちろん、アイドルを目指すくらいだから、平均よりは可愛くて、歌って踊れるけど、理央よりも可愛く、歌って踊れるアイドルの卵なんて、ゴロゴロといた訳であって」


「ふんふん」


「同年代の子が、どんどんメジャーデビューして行く中で、地下アイドルとしての下積みが長くて……でも、その間も、腐らずに、淡々と落ち着いて、己を磨いて来たんです」


「メンタルが、強いんですね」


「ええ。強く、しなやかで、粘り強い。それはアイドルだけでなく、人として何よりも素晴らしい資質です。他のメンバーが長い地下生活に嫌気が差して脱退をして行く中で、理央だけはずっと続けて……とうとう、グループが解散した時、それまでずっと、彼女を密かに見ていた大手プロダクションに声をかけられて、理央を中心に才能ある子を集めて、グループが結成されたんです」


「それが、ラブッショ……ですか」


「はい。先ほども言った通り、理央は才能と言う観点で言うと、凡人かもしれません。歌と美貌は夢叶、ダンスと愛嬌は心。他のメンバーも、素晴らしい才能を持っています。ちなみに、理央以外のメンバーは、最初の時こそ、地下劇場でライブをしたものの、すぐに人気が出てメジャーデビューをしたので、下積みはほぼないんです」


「そうだったんですね」


「それはそれで、良いことかもしれませんが……やはり、精神的支柱として、理央は絶対に必要なんです。ラブッショの土台であり、心臓。彼女なくして、ラブッショはあり得ない。ファン層も地下時代からの筋金入りが多くて、1番密度が濃いですし」


「てるりんさんも、その1人ですよね?」


「ふふ、誇りです。だから、どれだけ理央より才能のある子が現れたとしても、彼女がリーダーであることは揺るがない。だからこそ、絶対リーダーなんです」


「なるほど……僕、てるりんさんと知り合わなければ、そんな話は知らずにのうのうと、ラブッショのファンをしていたかもしれません。にわか、ライト勢として」


「既に申しましたが、楽しみ方は人それぞれですから、お気になさらず。ただ、そうしたバックボーンを知ると、もっとグループが魅力的に見えて、応援したくなるかなと」


「ええ、そうですね……僕は夢叶ちゃん推しですけど、今度は理央ちゃんのことも、よく見るようにします」


「何なら、推し変しても良いんですよ?」


「いや、それは……ていうか、てるりんさんは、僕が理央ちゃんに推し変しても良いんですか?」


「もちろん、歓迎しますよ。僕が大好きな理央のことを、他の人も大好きと言ってくれる。こんな幸せなことはありません」


「そっか……ごめんなさい。やっぱり、てるりんさんは、筋金というか、本物のドルオタで尊敬します」


「いえいえ、そんな」


「だって、僕はもし、夢叶ちゃんが、僕以外の誰かに微笑みかけていたらと思うと……それはアイドルとして、ファンとして、素晴らしいことだと思うけど……僕個人としては……何か、モヤモヤするかもなって……」


「まあ、ガチ恋勢は一定数いますからね。否定はしませんけど、あまり沼らないようにお気を付けください」


「ガチ恋……でも、僕はまだそんな、夢叶ちゃんのことを知らないし……って、何を言っているんだ、僕は」


「あっはっは! まあ、しんみりした話はここまでにしましょう。今宵は、ラブッショのライブお疲れ会ということで、盛り上がりましょう」


「は、はい」


「まあ、僕と天道くん、2人だけですけど」


「そ、そうですね。てるりんさん、トップオブトップで、みんなから一目置かれているから、もっとお仲間でワイワイするものかと……」


「ふふ、それゆえに、距離を置かれたりもして……案外、友達が少ないんです」


「な、なるほど……」


「ですから、天道くんはこれから、仲良くしてくれると嬉しいです」


「も、もちろん。僕で良ければ、これからもよろしくお願いします」


「嬉しいですね~。あ、すみません、生2つ……って、すみません。天道くん、お酒というか、ビール大丈夫ですか?」


「はい、もう20歳なので。ビールは、普段そこまで飲まないですけど……今日は記念に飲みます」


「ありがたい。じゃあ、生2つで」


「かしこまりました~♪」


 こうして、ライトオタの僕は、ガチオタのてるりんさんと仲良くなった。




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