第22話 決意
最近の若者はビール離れが進んでいるの例に漏れず、僕もビールはそんなに飲まない。
飲んでも、あまり美味しいと感じないし、悪酔いする確率が高かった。
けれども、今朝の目覚めはとてもスッキリしている。
そういえば、良いお酒は翌日に残らないらしい。
正に、その通りだ。
紳士的なガチオタ、てるりんさんと交わすビールはとても美味しくて。
最初の1杯だけのつもりが、2杯、3杯と。
まるで、推しである夢叶ちゃんのCDを積むがごとく、止まらなくて。
これはもう、絶対に二日酔いになる覚悟だったのに……
「……楽しかったな」
てるりんさんは、ドルオタとしての造詣が深いだけでなく、佇まいや振る舞いも素晴らしい人だ。
まあ、トップオブトップのオタゆえに、案外友達は少なかったりするみたいだけど。
僕はもう、てるりんさんと友達になったから。
こんなに嬉しく光栄なことはない。
てるりんさんは、推しである絶対リーダーの理央ちゃんを、ラブッショを愛している。
そう、だから僕もイチファンとして、あるケジメをつけないといけない。
ピロン♪
ちょうど、メッセが届いた。
『おはよう、
『うん、すごく良かったよ』
『そっか。今度の握手会も、来てくれる?』
僕はふっと自然に優しく微笑んで、返事をする。
『
『えっ、どうしたの?』
『僕、CDはちゃんと買うよ。でも……握手会はしばらく行かないことにするよ』
『……どうして?』
『実はきのうのライブで、てるりんさんっていう、理央ちゃん推しのトップオタの方とお友達になったんだ』
『へぇ……』
『で、僕が知らなかったラブッショのことを知って……てるりんさんのように、本気でグループを応援している人のためにも、僕が余計な真似をするのはダメだって思ったんだ』
『余計な真似って……』
『きのうのライブで少しトラブったの、自惚れかもしれないけど……僕が原因の一端だったりする?』
『……ごめんなさい、否定はできない』
『そっか……ごめん』
『ううん、奏太くんが謝ることじゃないわ。あれはアイドルとして……私が未熟だっただけ。次からはちゃんとするから、奏太くんは遠慮せずに握手会に来てくれて良いんだよ?』
『ありがとう、嬉しいよ。でも……やっぱり、当面は自重しておく』
『そんな……』
『あと、こうしてアイドルと個人的に連絡を取るのもまずいから……それも自重しておこうと思う』
『……私、いっぱいメッセ送っちゃったから……もしかして、ウザかった? 重かった?』
『いやいや、そんな……でも、君は天下のアイドルさまで、僕は所詮は一般人だからさ』
『でも、奏太くんは私にとって、
『たまたま、そういう形になっただけだよ。僕がいなくても、他の誰かが助けたと思う』
『ううん、そんなことない。あんな勇気を出してくれる人、奏太くんしかいないの』
『夢叶ちゃん……ちゃんと、応援するから。てるりんさんを見習って、ラブッショを、君のことを』
『奏太くん……』
そこで、彼女とのやりとりは途絶えた。
けど、これで良かったのだ。
「……さて、当面は『現場』を離れて『在宅』で推し活しますか~」
僕は腕まくりをした。
塩対応で有名なアイドルがなぜか僕にだけ優しいのは気のせいだろうか? 三葉 空 @mitsuba_sora
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