第15話 あざとねす

 平日の午前中にも関わらず、そのカフェは多くの客で席が埋まっている。


 ちなみに、7、8割方が女子だ。


 これが地方なら、(そもそも、地方にこんなオシャレなカフェなど存在しないが)、平日のこんな時間からカフェでまったりしている人なんて、だいたいニート扱いされる。


 けれども、彼女たちはニートのように野暮ったい雰囲気など一切ない。


 とにかく、キラキラと輝いている。


 楽しく談笑をする子たちもいるけど。


 中には、これまたオシャレなパソコンと向き合っている人もいて。


 都会は時代の先端を行くから。


 それはファッションに限らず、仕事面においてもそう。


 地方よりもずっと、先進的な働き方改革が進んでいるのだろう。


 なんて、呑気な都会分析をしている場合ではない……


「……んぅ~♪ 朝から濃いめのドリンク注入するの、こころゾクゾクしちゃう~♪」


 いま、僕の目の前に、周りのキラキラ女子さえも軽く凌駕してしまうほどの。


 スーパーあざとねす様がいらっしゃる。


「んっ? どした、かなたん? てか、いまこころのこと、エロい目で見てなかった~?」


「い、いや、そんなことは……」


「まあ、かなたん結構イケメンだけど、童貞っぽいもんね~」


「イ、イケメンじゃない……ですよ」


「敬語じゃなくても良いし。ていうか、寂しいからタメ語で話して?」


 小首をかしげて言う。


 いま、当然ながら、トップアイドルとして変装をなさっている。


 けれども、その障壁がありつつも、恐ろしいまでのアイドルオーラが迸った。


 全くもって、末恐ろしい……


「……あの、心ちゃん……って、呼んでも良いですか?」


「うん。けど、正体バレると面倒だから、小声でね?」


「あ、はい……あの、それで僕に……どんなご用件ですか?」


 僕がおずおずと尋ねると、彼女はこちらを見つめつつ、ドリンクを口にする。


 まるで、値踏みされるかのような……


「……ゆめっちとは、いつから仲良しなの?」


「な、仲良しというか……」


「2人でカフェやカラオケに行っておきながら、何を言っているの?」


 ギクリ!


「て、ていうか、何でそのことを……そもそも、僕のアパートの場所だって……」


「そこは、ほら……心ちゃんだから♪」


 その一言で説明がついてしまうのがすごい。


「……って、ぜんぜん答えになっていないから」


「もう、うるさいなぁ。ちょっと尾行しただけじゃない」


「ストーキング……ってこと?」


「きみ、お耳が悪いの?」


 ニコッとされる。


 ゾクっとした。


「……ごめんなさい」


「ふふ、かーわいい♪」


 よしよし、と頭を撫でるような仕草をされる。


 この小悪魔あざとねすめ……


「で、ゆめっちとはいつから?」


「そ、それは……」


「この前の、握手会での一件……だけじゃないよね? あの親密ぶりは」


「親密ってほどでは……」


「その前から、関係があったんじゃないの?」


「……僕は知らなかったんだ。たまたま、電車で痴漢から助けた子が、まさか愛乃夢叶だったなんて……」


「何それ、詳しく聞かせて」


 前のめりになる甘味心に対して、僕はところどころ詰まりつつも、ことのあらましを話した。


「きみってさ……ラブコメ主人公?」


「な、何か恥ずかしいから、言わないで下さい……」


「いや、それどんな運命よ。全ゆめっちオタが、臓器をいくつ売ってでも手に入れたいポジションだよ」


「例えがこわっ」


「ほぉ~ん、でもそっかぁ~、なるほどね~」


「あの、心ちゃん。このことは、どうか内密に……」


「うん、そうだね。こころ達としても、スキャンダルはご法度だからさ」


「あ、ありがとう」


「ただし、1つ条件があるよ」


「条件……?」


「今度の握手会、ゆめっちじゃなくて……こころの列に並んでよ」


「えっ……?」




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