第11話 バカなブタも可愛いもの?

『ギラギラ太陽みたいになれないけど


 月のように優しくみんなを導きたい』


『『『『『『りお!』』』』』』


『みんなみたいに上手く笑えないけど


心の中ではちゃんと笑っているからね』


『『『『『『ゆめか!』』』』』』


『いつもニコニコしているけど


 みんなへのイタズラやめられないよ♪』


『『『『『『こころ!』』』』』』


『そろそろぶちかますぜ


 あたいの黄金の右ストレート!』


『『『『『『みちる!』』』』』』


『乱暴なことはダメよ


 ちゃんと良い子にしてね』


『『『『『『りゅうこ!』』』』』』


『もっとわたしを見て欲しいけど


 やっぱりすごく恥ずかしい』


『『『『『『らん!』』』』』』


『うちのことを見つけてみなよ


 簡単には見せてあげないんだから』


『『『『『『さりな!』』』』』』


『全員そろってラブッショ!』


『『『『『『『フォウ!』』』』』』』


『1人でも欠けたらダメなの』


『『『『『『『ダメ!』』』』』』』


『みんなで昇るこのスターダム!』


『『『『『『『イエイ♪』』』』』』』


『栄光の道をひた走る』


『『『『『『『ルンルン♪』』』』』』』


『ファンのみんなも一緒に』


『『『『『『『一緒に!』』』』』』』


『どこまでも未来すすもう』


『『『『『『『すすもう!』』』』』』』


『これからもどうぞよろしく』


『『『『『『『よろしく!』』』』』』』


『それが私たちのミッショネス!』




      ◇




 大手動画サイトで公開されているこの曲。


『これがラブッショ!』


 もう擦り切れるくらい、何度も再生している。


「はぁ~、たまらん」


 普通、こういう代表曲というか、メンバー紹介の曲って、明るくポップな感じが多いと思うけど。


 絶対リーダー、理央からしっとり始まる。


 そして、夢叶もその流れを継いで……


 申し訳ないけど、序盤にいきなり推しが来るものだから、それ以降のメンバーのことは半ば上の空で見てしまっている。


 もちろん、推し以外のメンバーも、ファンとしてちゃんと把握はしているけど。


 やっぱり、僕の心の中心には、夢叶がいる。


 ずっと、憧れていたアイドル。


 画面の向こうにいて。


 いざ、勇気を出して、ようやく握手会というイベントで数秒ほど対面できる。


 そう、それくらい、遠く離れた存在だったはずなのに……


 ピロン♪


『また、2人でカラオケに行かない?』


『いや、カラオケは……』


『何よ、嫌なの?』


『嫌というか……ちょっと、落ち着かないというか……』


『ふぅ~ん? じゃあ、どこなら落ち着くの?』


『いや、夢叶ちゃんといて、落ち着く時なんて……ないから』


『……それはけなしている?』


『いやいや、そうじゃないから』


『ごめん、分かっているよ』


『あはは……じゃあ、やっぱり、また前みたいにカフェあたりが無難かな?』


『そうね……でも、今回は……もっと静かな喫茶店にしましょう』


『えっ?』


『1軒、良いお店を知っているの。奏太くん、オタクだから、あまり賑やかなところ好きじゃないでしょ?』


『ま、まあ、否定はしませんが……』


『ちなみに、私もそうだから』


『え、夢叶ちゃんもオタクなの?』


『あのねぇ……まあ、否定はしないけど』


『なにオタクなの?』


『……まあ、オタクってほどじゃないかもだけど。元々、アイドル好きだったから』


『へぇ~、そうなんだ。じゃあ、そこから憧れて……って感じ?』


『えぇ、そうね。この業界、そういう子はそれなりに多いと思うわ。単に有名になりたかったり、チヤホヤされたいだけの子もいるけど』


『そっかぁ』


『私はむしろ、チヤホヤされたくない。そっとしておいてほしい』


『えっと、それはアイドルをしていたら、難しいというか、アイドル道に背くような感じかと……』


『分かっているわよ……大丈夫、男はキライだけど、ファンは大切にしようっと思っているから』


『うん、分かっているよ。曲にもあるもんね。塩対応だけど、本当は……』


『奏太くん?』


『ご、ごめん。ちょっと、調子に乗って……』


『……あまり、私をいじめないでちょうだい』


『えっ? いや、その……ごめんなさい』


『あまりひどいと、お返ししちゃうわよ?』


『た、例えば?』


『……変態』


『ご、ごめんなさい……』


『とりあえず、今回は……メッ』


『…………』


『ちょっと?』


『……マジでこれもう、100万円くらい払わないと、他のファンたちに申し訳ないわ』


『あなたにそんな経済力はないでしょ?』


『そりゃそうだけど……』


『良いわよ、あなたはちゃんと、他のファンのためにもなること、している訳だし』


『と、言いますと?』


『私のご機嫌取り』


『ご、ご機嫌取りって……僕なんかと話して、本当に機嫌良くなるの?』


『そうね……ぶっちゃけ、半分くらいはムカつくわ』


『何ですと!?』


『だって、奏太くんって……おバカさんだから』


『うっ……ま、まあ、決して有名大学に通っている訳じゃないし、ロクに金もないのにドルオタやっている愚か者ですけど』


『そういうことじゃないわよ、バーカ』


『おふっ……』


『何よ、そのリアクションは?』


『……夢叶ちゃんのファンにドMが多い理由がちょっと分かったよ』


『…………』


『わっ、ご、ごめんなさい!』


『……Mの人たちって、俗称でブタって言うのよね?』


『はっ?』


『ブタも調教できるのかしら? 私のファンとして恥ずかしくないように、ね?』


『……間違ってもその発言、公にしないでね?』


『する訳ないじゃない。本当にバカねぇ』


『うぅ、夢叶ちゃんこそ、ひどい』


『ふふ、奏太くんの方が、ひどいわよ』


『どういうこと?』


『さあね? で、今度また、会ってくれるの?』


『……僕のこと、いじめないでくれるなら』


『……ちょっと無理かも』


『なぬっ!?』


『うふふ、冗談よ。じゃあ、またね』


『あ、うん。お仕事、がんばって』


 やり取りを終えると、僕はスマホを置き、ため息を吐く。


「……ヤバすぎだろ」


 色々な意味で。




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