第10話 ラブッショの面々

 とある劇場の控室にて。


「ふふふふ~ん♪」


 鼻歌を歌うことくらい、誰だってある。


 それが、歌がお仕事のアイドルなら、なおのこと。


 なのだけど……


「……夢叶が鼻歌を歌っているわ」


 ラブッショのリーダー、理央が言ったことをきっかけに、


「ゆめーん、どした?」


「ゆめちゃん、どうしたの?」


「夢叶ちゃん、どうしたんですぅ?」


「アイちゃん、どした?」


 と、メンバーが次々に言う。


「べ、別に何でもないわよ」


 夢叶はそっぽを向く。


 と、その背後から忍び寄る小さな影が……


「とりゃッ!」


「ひゃうッ!?」


 夢叶は上ずった声が漏れてしまう。


 けど、それも仕方のないこと。


 なぜなら、いま彼女は……


「……う~ん、これはなかなかに良いパイオティー♪」


「ちょ、ちょっと、心!?」


「これ、Dカップくらい? まあ、こころはその上を行くEカップだけど♪」


「だから……離しなさいってば!」


「こら、心。その辺にしておきなさい」


 理央がため息交じりにそう言って、心を引き離す。


「ちなみに、りおりおは形の良いCカポー♪」


 むにゅッ。


「あんっ」


「エッロ。ほいでもって、1番の巨乳ちゃんは~?」


「みっちゃん、この蘭こそがナンバーワンおっぱいです」


「って、さりな!? ひどい、わたしを売らないで~!」


 セミロングヘアのふんわりボディちゃんが暴れると、確かに豊かな乳がブルンバルンと揺れる。


 背後で押さえるメカクレ女子は、ニヤリと笑う。


 これがラブッショのおっぱい担当、花村蘭はなむららんと、陰キャ担当の芹澤せりざわさりなの役回りである(果たして、そうなのか?)


「あっはは~、良いね~、百合営業。じゃあ、あたいは姉さんとやろうかな~」


「あら、本当に?」


「まあ、おばちゃんだけど」


「って、あたしまだ24歳だから!」


「この面子の中じゃ、十分におばちゃんだっての」


 ツインテールのメガネ女子、ラブッショのメガネ担当、高崎美千留たかさきみちるは豪快に罵り、ショートポニテの女性、ラブッショのおばちゃん担当、星野竜子ほしのりゅうこは、涙目になる。


「でも、百合営業するとなると~、こころたち、7人組だから~、1人あぶれちゃうよね~?」


「そんなの私は結構だから。どうぞ、ご自由に。ほら、これで6人、偶数じゃない」


「あら、私は3人でも構わないわよ?」


「って、理央!? あなたまで……」


「良いね~、さすがリーダー!」


「うふふ」


 ラブッショの絶対リーダー、弓月理央ゆづきりおは微笑み。


 ラブッショの小悪魔担当、スーパーあざとねす、かつショートヘアで小柄ながらEカップの甘味心かんみこころはニタリと笑う。


「サイアクだわ……」


 そして、ラブッショの塩対応担当の愛乃夢叶あいのゆめかは、うなだれるのだった。


「そういえば、夢叶。例の彼、大丈夫だった?」


 理央が言う。


「えっ?」


「ほら、この前の握手会で、あなたを助けてくれた……」


「あ、ああ……だ、大丈夫だと思うわ。一応、ちゃんとお礼は言っておいたし」


「本当かなぁ~? もっともっと、ちゃんとお礼をした方が良いんじゃないの?」


「な、何よ、心?」


「こころなら~、この魅惑のロリ巨乳を使って~、たっぷりご奉仕しちゃう♪」


「心ちゃん、ハレンチですぅ~!」


「うるさいよ、こころよりデカいエロ乳しているくせにさ!」


 ベシッ!


 ばるるん!


「ひゃわ~!?」


「ちょっと、みっちゃんやめてよ」


 さりなが心を睨む。


「さ、さりな。わたしのこと、守ってくれて……」


「蘭のお乳は、うちだけのものだから」


 もにゅもにゅ。


「ひぃ~ん! 変態さんばかりだよぉ~!」


「変態と言えば、姉さん。女は歳を重ねるほど、エロくなるって本当? 特にアラサー、アラフォーともなると、エッロエロなんでしょ?」


「だから、あたしはまだ24歳だってば」


「いやいや、42歳でしょ?」


「ねえ、あたしってそんなに老けて見える!? ちゃんと毎日、お顔のパックしているのに~!」


「美千留、竜子さんをいじめるのはやめなさい」


「りおさま、これがあたいらのコミュだって。なあ、姉さん?」


「今度そのツインテール掴んで振り回してやるんだから」


「おーおー、良いね。じゃあ、お返しは覚悟しとけよ?」


「もうやだ、この子ぉ~!」


「全く、最年長がうるさいな~」


 心が悪態をつく。


「あなたは最年少のくせに、態度がデカいのよ」


 夢叶がとがめる。


「あら、ごめんあそばせ~? おっぱいも大きいしね~。ゆめっち、悔しい?」


「別に、胸が全てじゃ……あっ」


「んっ?」


「……いえ、何でもないわ」


「……ていうか、ゆめっち」


「な、何よ?」


「何かちょっと、ふわっとしているみたいだけどさ~……気を付けなよ?」


 心がボソッと言う。


「あんたの実力は認めているけど……油断していると、足元すくわれちゃうよ? あと、たぶんメンヘラ気質だろうし」


 面と向かって、随分と失礼なことを言う。


 夢叶は苛立ち、言い返したくなるけど……


 ふと、彼の顔を思い出す。


『夢叶ちゃん、好きです』


 ボンッ……


 途端に、頬が熱くなって来た。


「……気を付けるわ」


「おやん?」


 心はショートヘアをさらっとさせながら首をかしげる。


「何かゆめっち、ちょっと……丸くなった?」


「えっ? いえ、そんなことは……」


「みっちゃん、ちなみに蘭は、また一段と丸くなったよ。何せ、体重が5キロも……」


「さ、さりな、やめてぇ~! ていうか、5キロも増えていないから! 2.5キロだもん! 半分だもん!」


「蘭……育ちざかりなのは良いけど、もう少し抑えましょうね。マネージャーにも言われているでしょう?」


 理央が苦笑しつつ言う。


「ご、ごめんなさい……でも、さりなが悪いんですぅ。この前だって、わたしのこと、色々な美味しいごはん屋さんに連れ回して……」


「だって、蘭はアホみたいに食べるから。見ていて面白いんだ」


「ひどい~!」


 蘭はぽかぽかとさりなを叩く。


 さりなは痛がるどころか、気持ち良さそうだ。


「はいはい、みんな。おふざけの時間はここまで。そろそろ、リハーサルの時間よ」


 理央が手を叩くと、


「「「「「はーい!」」」」」


 メンバーは一様に頷く。


 一方で……


「…………」


「夢叶、本当に大丈夫?」


「え、ええ……ごめんなさい」


「確かに、ちょっと浮ついている……けど、顔色は悪くないわね」


「へっ?」


「もし、何かあったら、相談してね?」


「あ、ありがとう……」


 理央に優しい微笑みを向けられ、夢叶は何となしに後ろめたく、うつむいてしまう。


 言いたくても、言えないよ、こんなこと。


 だって、私は……


「……はぁ~」


 集中しないと。


 夢叶はパチン、と自分の頬を叩く。


 そもそも、ちゃんと魅力的なアイドルでいないと。


 彼にちゃんと、見てもらえないから。


「……奏太くん」


「んっ? どした~、ゆめっち?」


「ひゃッ! ま、まだいたの?」


「はぁ~? そのD乳もみしだくぞ~?」


「や、やめなさい。私、先に行くから」


 夢叶は胸を押さえながら、そそくさと控室を後にする。


「……ふむ」


 その背後で、心は何やらいつも以上に興味深く、夢叶のことを観察していた。








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