第168話 仕組まれた戦い(1)

『結論から言えば友好も、不可侵の取り決めも< Establish and protect order >との間に結ぶのは不可能だと私は考えています』


『では、何故この様な回りくどいことをするのですか?』


『2nd、今の私達に必要なのは正当な理由と姿勢です。我々アンドロイドは友好の手を伸ばし、しかし振り払われた。そればかりか一方的に宣戦宣告された被害者であると他のコミュニティーに印象付ける為にです』


『これでアンドロイド寄りの姿勢にはならずとも中立に変化させれば十分な成果です。その為に私が各地のコミュニティーに秘密裏に接触を試みましたけど、……本当に大変でしたよ』


『隠れ蓑として私の部隊も協力した。また各地のコミュニティーに関する戦力、防備も調査する事が出来たが、何処もギリギリの綱渡りを強いられていた』


『3rd、4thの働きもあって各コミュニティーの内情も判明しました。彼らにとって大切な物は理想ではなく明日を生きる為の物資です。この時点で< Establish and protect order >との相性は最悪と言えるでしょう』


『彼らの懐具合に目を付けて、成り代わりを主導したシェルターを裁くと同時に新たなパイとして差し出す。そうして各コミュニティーの足並みを崩すと同時に取り込みを行います。ですが1stの協議で積極的な寝返り工作は行いません。あくまで状況を整えるだけに留めます』


『はい。彼らが内に抱える不満と恐怖を解消すると共に懐を温める。この取引が齎す利益を彼らは無視することは出来ません。そんな都合のいい夢を見させますが、何処かの誰かのせいで夢が幻となって消える。その喪失感は耐え難いでしょう』


『其処に< Establish and protect order >を噛ませる事で不満の矛先を彼らに向けます。それにしても1stも中々腹黒い事を考えますね!』


『確かに、見習う点が多い策です。<木星機関>が提案しても他のコミュニティーは隣人を窺って参加を渋りますが、< Establish and protect order >が旗振りをすれば仕方なく参加する事が出来ます。しかし、旗振り役の< Establish and protect order >が提案を拒否すれば全てが白紙。得られたであろう利益は< Establish and protect order >によって台無しになったと印象付けられます』


『元量産型のアンドロイドとは思えない策だ。五号は1stの行動を参考資料として学習しておけ。それと、行き当たりばったりの判断を下す奴は反面教師としていけ』


『4th、何か言いたいことがあるのですか?』


『特定の個体を指定した覚えはない。2nd、一部の偏った情報と判断基準で判断して謂れの無い敵意を向けるのは、……止めろ! 変なシステムを遠隔で起動させるな!』


『じゃれ合いは其処までにしてくださいよ』


『さて、得られる筈だった巨大なパイを失ったコミュニティーの敵意は< Establish and protect order >に一本化され、<木星機関>は各地のコミュニティーから同情を誘い、最低でも中立化を促します。此処までが第一段階』


『続く第二段階は< Establish and protect order >の無力化を行います。ですが組織の完全壊滅は避けます。これは帰属組織を無くした彼らが野盗化するのを防ぐためです。しかし、彼らの旺盛な敵意は圧し折る必要があります』


『難しい問題ですね』


『ですが必要な事です。彼らの信条は別にしても纏まった武装と組織を持つ彼らは各地のコミュニティーにとって価値があります。何より我々が来る前から活動を行い、曲がりなりにも治安を向上させた功績があります』


『そんな厄介な組織は潰すよりも有効活用した方がいいと私は考えました。端的に言えば“伸びた鼻っ柱を圧し折って首輪を付けよう”と言う事です!』


『……不憫な』


『何ですか4th、文句でもあるのですか?』


『何も含む事は無い。ホントだぞ3rd』


『戦闘における勝率は? 例の飛行戦艦はかなりの脅威ではありませんか?』


『確かに脅威ですか、たったの二隻です。シミュレーションではAWによる波状攻撃によって撃沈が可能だと出ています』


『此方も小隊を向かわせて可能な限りの情報を集めて来た。戦闘シミュレーションの結果は信頼してもらっていい』


『また、戦闘開始と同時に現存していた有線通信回線を利用、各地のコミュニティーに向けて戦闘映像の配信を行います。<木星機関>に対して邪な考えを抱かせない為のデモンストレーションとして徹底的に利用します』


『皆さん、これを最後の戦闘とします。この戦いにおける勝利を以て<木星機関>の生存圏を確立。その後に我々はルナリア様の下で新体制に移行します。あの子が戦いを厭う事は知っています。ですから戦闘が避けられないのであれば最小限の犠牲と最大限の成果を以てして全てを終わらせます』


『『『『了解』』』』






 ◆






< Establish and protect order >は<木星機関>の口車に乗せられた。

 それは一方的な先制攻撃を受けた< Establish and protect order >の属する隊員達の総意であり、臨時代表の偽りの無い本音であった。


 ──だが、気付くのが遅すぎた、遅すぎたのだ。


 それだけ協力関係にあったコミュニティーの裏切り──実体は圧倒的な戦力を前面に出した半強制的な恭順であったとしても──は衝撃的だった。

 アンドロイドとの交渉が決裂した瞬間を狙った裏切りに留まらず、駐留部隊を拘束して中立を宣言、交渉内容に不満を表明するといった手抜かりの無い行動。

 間違いなく各コミュニティーは< Establish and protect order >に嗅ぎ付けられない様に秘密裏に<木星機関>と接触して一連の行動を企てていた。

 昨日までの協力相手との関係を断ち切り、中立を宣言して両勢力とは距離を取る。

 そして、この戦いの勝者に擦り寄る算段を企てているのだろう。

 いや、一連の行動からして<木星機関>の勝利を見越した行動である可能性が高い。


「被害状況を報告せよ!」


「配置されていた対空機銃が破壊されました! 無事な物は数える程しかありません!」


「駐機場にあった車両の多くが破壊!」


「弾薬庫で火災が発生! 当直に当たっていた隊員が怪我を負いました!」


「現時点を以て臨戦態勢を通達する! 各自、完全武装で対応に当れ!」


 通信回線を制圧され、コミュニティーには裏切られた。

 周りに味方は存在しない孤立した軍団が< Establish and protect order >の現状だ。


「やってくれたな!」


『先に宣戦布告を行ったのは貴方達です。我々は自衛のために武器を取っただけに過ぎません』


「物は言いようだな。だが、この程度の攻撃で我々が臆すると思ったか?」


『……』


「はっ! 所詮、お前達は屑鉄に過ぎない! この程度の損害で我々の戦意を挫こうと侮辱にも程がある!」


 既に火蓋は切られ、拠点には開戦の狼煙となった爆発が産み出した黒煙が立ち昇る。

 燃え上がる炎を鎮めようと灰に塗れながら多くの人々が走り回っている。

 屈強な戦闘集団である筈の< Establish and protect order >が晒す無様な有様。

 これを見てアンドロイドは嘲笑っているだろう。


 ──だからこそ、< Establish and protect order >は<木星機関>との戦いに負ける訳にはいかないのだ。


「だが、お前達お得意の計算は間違った答えを導き出した。例え地上にある駐屯地や拠点が幾ら破壊されようと飛行戦艦を持つ我々が負ける事は無い!」


 反抗の主力を担う飛行戦艦の被害は確認されていない。

 つまり、戦いはまだ終わっていないのだ!

 そして圧倒的な不利を覆しアンドロイドとの戦いに勝利すれば全てがひっくり返る。

 アンドロイドが持つ技術、物資を全て接収して糧とし、これまでの温情を捨て去り反旗を翻したコミュニティーを完全制圧して制御下に置く。

 それが実現されれば地上の何処にも< Establish and protect order >に比肩する勢力は存在せず、彼らは真の意味で地上を統べる事が可能になるのだ。


『成程、それが貴方達の掲げる信仰の寄る辺なのですね』


 そんな臨時代表の熱弁とは正反対にアンドロイドの言葉は冷めきっていた。

 そして、アンドロイドの攻撃もまた始まったばかりなのだと告げる様に、本部に新たな警報が鳴り響く。


「再びレーダーに反応! 此方に向けて多数の飛行物体が接近中!」


 拠点に設置され、破壊を免れた索敵レーダーが捉えた飛行物体。

 その数は1発、2発と片手で収まる数ではない。

 索敵画面を取り囲む様に30発は下らない数の飛行物体がモニターに映されている。

 非常に速い速度と一糸乱れない飛行からオペレーター達は< Establish and protect order >においても貴重品である誘導ミサイルであると判断。

 だが、押し寄せるミサイルを迎撃しようにも防空兵器の大半がアンドロイドの攻撃によって物言わぬ鉄屑と化していた。

 このまま何もしなければ飛行戦艦はミサイルの波状攻撃によって破壊され、炎に包まれるだろう。


 ──だが臨時代表は差し迫る危機を前に慌てることはなかった。


「<ジェネラル・ガルガ>の防空システムを稼働! 接近するミサイルを全て撃ち落せ!」


<ジェネラル・ガルガ>と呼ばれる飛行戦艦の1隻から幾筋ものレーザーが放たれる。

 それは崩壊した世界において< Establish and protect order >の飛行戦艦が最強の兵器と呼ばれる所以。

 飛行戦艦に搭載されたコンピューターによって完全制御された対空火器から放たれるレーザーは正に百発百中。

 レーザーが内包する熱量によって一瞬の内に溶断されたミサイルは制御を失い、僅かな間をおいて搭載された爆薬が起爆。

 飛行戦艦に押し寄せたミサイルは一つの例外もなく迎撃され、道半ばで無意味な爆発の華を咲かせるだけであった。

 その様子を見た< Establish and protect order >の隊員達は歓声を挙げ、戦闘中にも関わらず守護神である<ジェネラル・ガルガ>に惜しみない声援を送り始めた。


「第三波、出現しました!」


 だが、彼らの声援を遮るように再び本部に警報が鳴り響く。

 警報の正体は考えるまでもなく、アンドロイドによる攻撃であった。


「一切の出し惜しみをするな! 近寄る物は全て撃ち落せ!」


 索敵レーダーが捉えたミサイルの数は57発。

 第一波の時よりも数を二倍近く増やしたミサイルの群れが必殺の意思を以て飛行戦艦に押し寄せる。

 だが<ジェネラル・ガルガ>が構築する防空網は強固であり、放たれたレーザーは目標を外す事なくミサイルを撃ち落とす。

 一本たりともミサイルの突破を許す事はなく、空中では幾つも爆発の花が咲き乱れた。


「チッ、馬鹿の一つ覚えの様に!」


 だがアンドロイドは第二波が全て迎撃されようと攻撃を止める事は無い。

 間を置かずに再び放たれた第三波のミサイルの数は100を超え、圧倒的な投射量によって<ジェネラル・ガルガ>の防空網を突破しようとしていた。


「迎撃レーザーの熱量負荷が限界間近! このままだとオーバーヒートを起こします!」


「<ジェネラル・ガルガ>だけに迎撃をさせるな! <ジェネラル・ホロウェイ>にも迎撃させろ!」


<木星機関>の物量、その生産能力を過小評価していたつもりはない。

 だがアンドロイドは< Establish and protect order >の想定を超えた物量を以て圧し潰そうとしてきた。

 その物量を捌くために姉妹艦でもある<ジェネラル・ホロウェイ>が迎撃に加わる。

 二隻目の飛行戦艦は<ジェネラル・ガルガ>と同等の迎撃システムを搭載しており、単純計算で防空能力は2倍となる。

 そして、密度を増したレーザーが空気中に浮かぶ塵を悉く焼き尽くし、ミサイルを切り裂いていく。


「迎撃率83%! 残り僅かです!」


「一発たりともミサイルを近寄せるな!」


 貴重品とされるミサイルが湯水のように消費される。

 物量による波状攻撃は正に恐怖であり、並の武装組織であれば破壊し尽くす攻撃の嵐が襲い掛かって来た。

 だが二隻の飛行戦艦が構築する防空網は押し寄せたミサイルを全て迎撃。

< Establish and protect order >は嵐を跳ね除け、最後のミサイルが迎撃され何もない空中で爆発を起こす。


「し、凌いだのか?」


 本部にいる隊員達が冷汗を浮かべてモニターを見つめるが、索敵レーダーは飛行物体を補足せず、ミサイルを示す光点は何処にも映っていない。

 現時点では、これ以上の攻撃は無いと誰もが緊張を解き、──しかし、直後に臨時代表の声が本部に響き渡る。


「油断するな! 直ぐに迎撃レーザーの整備に取り掛かれ! これ程手の込んだ事をしたアンドロイドの攻撃がこれで終わる筈がない!」


 臨時代表は組織の緩み掛けていた気を引き締め直す。

 確かにレーダーは沈黙を続け、警報も鳴ってはいないが、それを臨時代表は嵐の前の静けさでしかないと考えた。


「敵を見つけ出し、敵を倒さなければ我々に勝利はない!」


 現状は一切の反撃を許されず防戦一方に追い込まれていただけなのだ。

 アンドロイドからの攻撃を防ぎ続けるだけでは戦いに勝つ事は出来ず、敵を見つけ出して倒さなければ勝利を掴む事は出来ないのだ。

 その事を改めて突き付けられた隊員達は臨時代表の指示によって再び動き出す。

 誰もが自分の役割を通して< Establish and protect order >の理想を実現しようとする光景を臨時代表は視界に収めながらモニターに映るアンドロイドに向き直る。


『確かに、戦艦の名に恥じない強固な防空システムでした』


「自らの計算が間違っていた事を理解したか。これが我々だけが持つ事を許された飛行戦艦の力! 鉄屑が幾らミサイルを撃ち込もうと無駄だ!」


< Establish and protect order >の反撃は此処から始まる。

 その意気を込めて臨時代表はアンドロイドに向って勇ましく啖呵をきる。

 だがモニター映るアンドロイドは啖呵に怯える事無く、無機質な視線のまま臨時代表を見つめ続ける。

 そして今度はアンドロイドから口を開いた。


『ですが貴方達が用いる通常兵器と飛行戦艦に使われる技術は余りにも不釣り合いです。加えて整備状況も良いとは言えない』


「なにが言いた──」


『飛行戦艦は貴方達が建造した物ではありませんね』


 アンドロイドは臨時代表に、その背後で動き続ける人々に向けて語り掛けていた。


『先程の迎撃においても稼働していない兵装が幾つかありました。整備が行き届いていないのは明らかであり、貴方達は飛行戦艦を完璧に整備する事が出来ない。飛行戦艦が二隻あるのではなく、二隻しか建造できなかった。そして飛行戦艦の母体となったのはエイリアンが建造した未完成の船体、違いますか?』


 第三波に及ぶ攻撃は拠点と飛行戦艦の破壊を目的にした行動ではなかった。

 その本当の目的は< Establish and protect order >の指揮下で稼働する飛行戦艦の状態を正確に確認する為。

 それだけに留まらず、アンドロイドは飛行戦艦の正体についても探りを入れていた。


「……お前達は何処まで知っている?」


『それは自ら答えを自白しているようなものですよ』


 飛行戦艦がエイリアンから接収した兵器を元にして建造された事は最高級幹部しか知らない機密情報である。

 だがアンドロイドは飛行戦艦の母体を正確に予測していた。

 そればかりか第一級の機密情報であるエイリアンという存在を知っていた。


『戦術兵器としての能力を持っているのは二隻だけ。整備も満足にされていない兵器であるなら対応する術は此方にあります』


「何!」


 幾ら強力な兵器であろうと2隻しかないのであれば対抗策は幾らでもある。

 アンドロイドの言葉を証明するかのように再び本部に警報が響き渡る。


「被害状況は!」


「攻撃を受けました! <ジェネラル・ホロウェイ>の4番、6番迎撃装置が大破! <ジェネラル・ガルガ>は無事です! ですが攻撃が多すぎます!」


「攻撃は何処から来た!」


「多方面から継続的に攻撃を受けています!? 攻撃地点は……市街地!?」


 索敵レーダーと高所からの観測、監視カメラによって迅速に攻撃地点を割り出した場所は人が消え、ミュータントの巣窟と化している筈の市街地。

 そんな危険地帯からの攻撃など誰も信じなかったが、事実として今も市街地からの攻撃は続いている。

 ならば次の問題は攻撃の手段であるが、答えは直ぐに判明した。


「市街地方面に向けられた監視カメラが敵を捉えました!」


「戦車ではない!? アレはなんだ!?」


 監視カメラに映っていたのは巨大な砲が搭載された多脚戦車。

 瓦礫に塗れた悪路を物ともせず、その四つ足で地面を踏みしめ砲撃を行っていた。


「恐らく連邦が設計した多脚戦車を元にしたアンドロイドの兵器です! 自走砲として運用しています!」


「クソ! 無人兵器の本領発揮か!」


 多脚兵器の亜種であろうアンドロイドの兵器。

 確かに無人であり、無限軌道ではない四つの脚はミュータントと瓦礫に溢れた市街地でも展開可能な兵器である。

 何より動かない大きな物体を破壊するだけであれば高価なミサイルは必要ない。

 安価で大量生産が可能な砲弾を使った砲撃が有効であるのは自明の理である。


「方法は何でもいい! 忌々しい四つ足を破壊しろ!」


「敵兵器は廃墟を活用して射線から逃れています! 我々は曲射可能な兵器を保有しておらず、破壊は困難です!」


「クソ!」


 瓦礫を間に挟んだ多脚戦車を攻撃する兵器を< Establish and protect order >は保有していなかった。

 戦車の破壊に有効な兵器がないのであれば、残された方法は輸送ヘリに乗せた歩兵部隊による対戦車攻撃しかない。

 だがアンドロイドもこれ見よがしに姿を晒した多脚戦車に護衛戦力を配置していない訳が無い。


「クソ!」


 数に限りのある貴重なミサイルから安い砲弾による砲撃の切り替えは確実に< Establish and protect order >を追い詰めていた。

 そして、多脚戦車は遠距離からの砲撃に留まらず歩兵部隊を吊りだす囮としても機能している。

 なんとも嫌らしい兵器と策であるが、対抗策を講じなければ先に待つのは嬲り殺し。

 飛行戦艦による迎撃も何時までも継続する事は出来ない。

 迎撃レーザーの絶え間ない連続使用は装置の消耗も招き、何れ予期しない停止を招く。

 そんな最悪な状態を打開する為には大胆な決断を下すしかなかった。


「現時点を以て拠点を放棄、本部機能を<ジェネラル・ガルガ>に移す! 可能な限りの物資と兵器を積み込んで飛行船を全機緊急発進させろ!」


 最早、拠点に留まる利点は無い。

 それどころか飛行戦艦の利点である飛行能力を有効活用出来ないと判断した臨時代表は拠点を放棄する事を選択した。


「了解!」


 拠点を放棄して砲撃から逃れるには飛行戦艦を飛ばすしかない。

 その意味を理解した幹部達は必要とされる作業に急いで取り掛かり始める。

 臨時代表も急いで装備を身に着けると護衛を引き連れて急いで飛行戦艦に向かう。


 ──だが本部を去る前に最悪の考えが頭を過る。


 その考えが只の妄想が或いは……、その答え合わせをする為に臨時代表は背を向けた筈のモニターに振り返り、口を開いた。


「……お前、砲撃を意図的に制限しているな」


『はい』


 答え合わせは一瞬で終わった。

 アンドロイドが行っている砲撃の目的は飛行戦艦を破壊する為ではない。

 拠点への絶え間ない砲撃は< Establish and protect order >から選択肢を奪い、飛行戦艦への搭乗を誘導していたのだ。


「その驕りの代償は高く付くぞ」


『いいえ、我々が敗北する事はありません』


「大きく出たな! いいだろう、いまから全軍を率いてお前達の本拠地を全て焼き払う! 降伏は一切受け付けない、全てのアンドロイドを鉄屑にしてやる!」


 臨時代表の予想が間違っていなかったと証明された。

 そして最悪の答え合わせを通して、一連の戦闘の全てがアンドロイドによって計画され誘導されていたものであると理解してしまった。

 このまま飛行戦艦を飛ばす事も、本拠地への侵攻もアンドロイドの計画の内なのだろう。


「舐めるなよ。最後に勝つのは人間だ」


 臨時代表はアンドロイドへ短く吐き捨てると護衛を伴って本部から出て行く。

 その後を追うように他の人員も出て行き、僅かな時間で本部に人はいなくなった。

 本部だった部屋にはアンドロイドによって汚染され、積み込めないと判断された各種通信機器が放置された。


『いいえ、それは不可能な事です』


 誰もいなくなった本部にデイヴは呟く。


『貴方達が紡いできた戦場伝説は此処で終わりです』


 その言葉を聞く人は誰もいない。

 そして< Establish and protect order >が飛行戦艦の発艦を進めると同時に<木星機関>も作戦を次の段階に進めていた。


『作戦を第二段階に進めます』


 そう言ってモニターの電源が落ちる。

 こうして本部には人間もアンドロイドもいなくなった。

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