第163話 人間の外れ値(2)

 怪しい組織から与えられた兵器の中には悪人達が見慣れないものもあった。

 その筆頭が戦車であり、崩壊した世界で生まれ落ちた彼らは実働する戦車を一度も見た事が無かった。

 だからこそ兵器として戦車を与えられた時の彼らは困惑するしかなかった。

 使い方も動かし方も知らない未知の武器、だが実際に動き主砲が放たれるのを見た瞬間に誰もが心を奪われた。

 そして与えられた戦車を十全に運用する為に珍しく彼らの中では手先が器用で頭のいい人材が戦車部隊には集また。


「ボス、何時でも出撃出来ますぜ!」


「よし、良くやった!」


 ボスは戦車部隊にから来た部下の報告を聞きながら切り立った断崖をくりぬいて作られた倉庫の中に入る。

 其処には現代にあって殆ど見る事がない稼働する戦車が5両待機状態で出撃されるのを待っていた。

 その中でも一際派手な装飾が施された戦車の一つにボス部下と共に乗り込む。

 そして忌々しい巨人を打ち倒す為に鋼鉄の獣のエンジンに火を入れた。


「野郎共、エンジンに火を入れたら即座に走り出せ!! そんでガラクタ共の人形を大砲で吹き飛ばせ!! 分かったか!!」


「分かりました! やってやりますぜ!」


 部下の返事と共に眠っていた戦車が目覚める。

 おんぼろ四輪車など比較ならない力強いエンジン音が倉庫に響き渡り、駆動に伴う振動が男達の身体を揺さぶる。

 そして全ての戦車が起動した事を確認したボスが獰猛な笑みを浮かべてこれから率いる戦車部隊を眺める。


「勝てる、これなら今度こそ勝てる」


 ボスの胸の内から自信と戦意が沸き上がる。

 部下達もボスと同じ、力強い戦車の排気音に戦意を昂らせ──、その直後に未だ閉じた倉庫の扉が突然爆発した。


「伏せろ!?」


 爆発によって粉砕され散弾となって跳んでくる無数の瓦礫。

 それらをボスは戦車の中に急いで飛び込む事で無傷でやり過ごし、戦車に乗り込んだ部下達も同じ様に動いたお陰か怪我は無かった。

 だが戦車の乗っていない補充や整備を任されていた男達は違う。

 偶然にも戦車が盾になった事で助かった人間もいたが極僅か。

 殆どが避ける暇もなく破片の餌食となり殆どが即死、僅かに生き残った人間も重傷を負い、倉庫の中は一瞬で血煙と悲鳴が充ちる地獄の様な有様に変わってしまった。


 ──そして破壊された扉の向こうには此方に銃を向けるAWの姿があった。


「は、早く撃て、撃ちまくれ!?」


 ボスの悲鳴のような命令と共に戦車の主砲から砲弾が放たれる。

 だが放たれた砲弾の内、三発は見当違いの方向に飛んでいき、残り二発も発砲と同時に回避機動に入ったAWに躱されてしまう。


「クソ、早く次の弾を入れ──」


 だが戦車に次弾が装填される前にAWから放たれた銃撃が戦車を貫通、そのまま撃ち抜かれた戦車は爆発炎上する。


 残り戦車:4両。


「う、うわぁああああ!?!?」


「逃げるな! 殺されたいの──」


「だったらお前一人で戦って死ね!! 屑野──」


 倉庫から一両だけ逃げようと突出した戦車が撃ち抜かれ爆発する。


 残り戦車:3両。


「撃て撃て撃ちまく──」


 次弾装填が終わった主砲を放ち、搭載機銃を出鱈目に撃ち続けながら我武者羅な突撃を行った戦車が撃ち抜かれ爆発する。


 残り戦車:2両。


「夢だ、これで出来の悪い夢だ……」


「はは、聞いてない、こんな話来ていない──」


 戦意を喪失し何もしない只の的となった戦車が撃ち抜かれ爆発する。


 残り戦車:1両。


「クソったれが!?」


 残り一両となった戦車からボスは急いで逃げ出した。

 無敵と思っていた装甲が役に立たない以上、あの有様では戦車は動く棺桶でしかない。

 そう判断して逃げ出した直後に戦車が撃ち抜かれ爆発を起こす。


「う、うわぁぁああああ!?」


 そして不幸な事に爆発はボスを倉庫の外、AWの足元に吹き飛ばした。

 吹き飛ばされた影響で混乱していたボスは力の入らない身体を動かして起き上がり、その頭上にあるAWの複眼を見てしまった。

 太陽の光を反射して輝く複眼、人の形をしていながら人よりも強大な存在に見下ろされる。

 沸き上がったのは原始的な恐怖に呑まれたボスは体裁も何もかも投げ捨てて全力で逃げ出そうとした。

 だが逃げ出す前にAWの手が伸ばされ──、その直後にボスは思い出した。

 自分達に大量の兵器を与えた組織から教えらえたアンドロイドの弱点。

 いざという時に唱えるべき魔法の言葉を走りながら口に出す。


「こ、コード119、コード119ぅう!?」


 その言葉がどんな意味を持つのかボスは全く知らない。

 それでも悪霊を追い払う言霊の様に男は教えられた言葉をひたすら連呼する。

 そして男の必死の言葉は届いたのか、伸ばされた巨人の手は途中で止まっていた。


「止まった? は、はは、はははは!!」


 足が縺れて転び、怯えながら振り帰れば出来の悪い銅像の様に固まる巨人がいた。

 それは今迄アンドロイドに追い詰められ続けた男にとって笑いの止まらない光景だった。


「何だ所詮は人間に作られたガラクタ──」


『そのコード、何処で知ったのですか?』


 突如として動き出した巨人の腕が男の身体を掴む。

 その出力は生物の常識など通用せず、僅か一瞬の動作であったのにも関わらず掴まれた男の腕の骨は砕け、肋骨全体に亀裂が入る。


「あ、あぁぁああああ!?」


『五月蠅いですね。素直に話さないなら、もう少しだけ握りしめましょうか?』


「ば、な、す、はなす、から、緩め、て」


『はい、緩めました。では私の質問に答えて下さい。そのコードは何時、何処で、誰に教わったのですか?』


 コード119、それは製造されたアンドロイドの電脳に刻み込まれる数ある強制コマンドの内の一つ。

 その内容は口にした人間が危機的状況にあると認識を行い現在実行中の全ての作業を中断して危機的状況にある人間の生命保護を行うというもの。

 元は事故などで危機的状況にある負傷者が身近にいるアンドロイドに救助を命じる為に開発されたコードである。

 そのコードを男は口頭入力を通してアンドロイドに命令したのだ。

 だがAWに搭載された外部スピーカーから聞こえる声からは命令者である男の生命を保護しようとする動きは全くない。

 それどころか男の生命を脅かしている最中である。


『一つ、貴方達は我々アンドロイドが壊滅させた犯罪組織の生き残りですか?』


 そして巨人の無機質な複眼に見つめられながら抑揚を感じさせない中性的な声が男に問い掛ける。

 その声は通信機から聞こえた声と同じだった。


「そ、そうだ、生き残り、俺達は、此処に、集まった」


『二つ、貴方達に武器を許与した組織の名前は?』


「や、奴らは、お、俺達と、同じだと、お前達に、潰されたと、言っていた。ほ、本当だ、嘘じゃない、本当、だ」


『三つ、武器の受け渡しは何処で行いましたか?』


「や、奴らが、指定する場所に、何時も置いて、いた。それを運び込んだ」


『4つ、貴方達は──』


 男を掴んだ巨人、AWを一時的に遠隔操作で操る五号は質問を通して情報取集を行う。

 武器を与えた組織の名前と正体、対アンドロイド戦術の出所、拠点を維持する物資の補給方法、此処以外に同じ拠点があるのか、警備の巡回ルート、アンドロイドに復讐を願う残党は此処にいる人間だけなのか。

 ありとあらゆる質問を問い掛け、男から可能な限りの情報を引き出そうと五号は不慣れな尋問を繰り返した。

 だが男から得られた情報はそれほど多くは無い。

 結局、彼らがアンドロイド対する使い捨ての当て馬であった事が分かっただけ。

 そうなれば男にもう用が無いと五号は男をこのまま殺してしまおうかと考え──、少しだけ踏みとどまった。


『では最後の質問です。これは私個人が抱く疑問なのですが何故貴方達は人に害を加えるのですか? 脅し、犯し、盗み、殺す、そんな非生産的な行動ではなく他の人間と協働して何かを生み出せばより有意義な生活を、名誉を得られた筈です。何故、その道を選ばなかったのですか?』


 五号は居住地の人間を統治する役目を全うする為に人間について調べていた。

 だからこそ五号は悪人達の生き方に純粋な疑問を抱いたのだ。

 統治と並行して行われる調査の過程で集まった様々なデータは多岐に渡る。

 性格、性別、年齢、趣味嗜好、行動傾向、価値基準、成長環境、価値観、知能指数、遺伝子情報、欲望、夢。

 サンプルの数に比例して集まるデータを元に五号は独自の理論を組み上げようとするが人間の全てを網羅できているとは言えない。

 飾らずに言えば五号は人間を理解しきれてない。

 だからこそ目の前の男の残虐性と特異性が何処から来たのか、どの様な環境下で育った結果なのか知りたかった。


「……はは、はははっははは!! こ、コイツは、傑作だ!!」


 五号が何を言っているのか理解した死に掛けの男は壊れたように笑った。

 AWによって全身を掴まれ生殺与奪の権利を握られた状態であるのに、相手の機嫌を損ねれば即座に握り潰されてもおかしくは無いのに男は笑い続けた。

 ゲラゲラと笑うだけで身体中が激痛を発するのに男は狂った様に笑い、これ以上の面白いものがないという様に嗤い続けた。


『……そろそろ不快なので笑うのは止めて下さい。それで質問には答えてくれるのですか?』


「は、はは、いいぜ、どうせ、お前に殺されるのは決まっている。なら最後は面白おかしく笑って死んでやる。あ~、なぜ同じ人間同士で喧嘩して、奪って、殺すのか、そんなの愉しいからに決まっているだろ」


『愉しい?』


「ああ、愉しいぜ。他人の大切な物を奪うのは、命乞いをする馬鹿を笑いながら殺すのは、嫌だ嫌だと泣き叫ぶ女を犯すのは、最高に、愉しいぞ」


 思考回路、価値観、善悪の判断基準、五号は男の事が全く理解出来ない。

 劣悪な環境で育った結果として男の人格が形成されたのか、それとも生来の気質で目の前の男か誕生したのか五号にはどれか正解なのか判断出来ない。

 だが巨人の顔に向けて傷だらけの顔を歪ませてゲラゲラと笑い掛ける男。

 その姿は五号にとって只ひたすらに不快であり耐え難い嫌悪感を抱かせる存在であった。


『これ以上の会話は無駄ですね。私には貴方が人間の皮を被った別の何かにしか見えません。そんな人間を理解しようとした私が愚かでした』


「はは、人間に作られたガラクタが言うじゃねぇか。だがお前も気付いてない様だから教えてやるよ」


『貴方が私に何を教えると? 馬鹿にするのも──』


「お前も俺達と同じ何処か壊れてるんだよ」


 これ以上の会話は不要と判断して五号は男を握り潰そうとした。

 だが男が口にした言葉の意味が気になってしまった。

 それが死の間際に咄嗟に出た出任せなのか、それとも狂人なりの理論に基づいた考えなのか五号は知りたくなった。


『面白い事を言いますね。もう少しだけ生かしてあげましょう』


「へっ、最初に入口を吹き飛ばした時、何故直ぐに攻撃をしなかった。お前達のそのふざけた兵器なら俺達を簡単に皆殺しに出来た筈だぞ」


『それは此方の予想していない兵器を貴方達が所持していると考えたからです。貴方達の殲滅は確定事項であり、後はどれだけ損害を抑えるかが重要な点でした。結論から言えば慎重に行動した私の判断は正しかった。貴方達は此方の知り得なかった兵器を多数所持して──』


「違うな、怯える俺達を見てお前は面白いと感じた。もっと怖がらせよう、もっと怯えさせて愉しもうと、お前は自分の愉しみを最優先に考えたんだよ」


 五号が言い切る前に男が言葉を被せる。

 それは五号の思惑を全て否定し、その行動に裏には自分達と同じ加虐指向が潜んでいるのだと告げた。


『違います、見当違いも甚だしい』


「子供が虫を遊びでバラバラにする様に、そのデカい兵器を使って、お前は俺達を殺すのを楽しんでいた」


『違います、貴方達の異常な価値観で語らないでもらえますか』


「そのデカい銃で俺達を撃つのは楽しかったか? さぞや派手で見応えある映像だったろ? 戦車が爆発する時なんて絶頂もんだったろ!!」


『違います、私は貴方の様な狂人と違います。これは正当な権利に基づいた行動であり肯定される行動です』


「はは、流石ガラクタ、何ともお堅い返事だ」


 だが男の言葉は五号には一切響かなかった。

 結局のところ死の間際にある狂人が自己保存の為に口にした戯言に過ぎない。

 参考にする価値もない情報、仮に数ある人間のパターンの一つとして分類するとしても再現性の無い外れ値でしかない。

 無価値にも等しい戯言だと五号は男の言葉に見切りを付けた。


「となるとあれか?」


『これ以上の問答は不要。今すぐ死にな──』


「そうか、お前達を作った奴がイカレているのかぁあああああああ!?!?!」


『その言葉を取り消しなさい、今すぐに』


 男が五号との短い会話を通して出した一つの答え。

 それは今迄無味乾燥していた五号の声を荒げさせる程であった。

 そして不用意に口を滑らせた代償として男は万力の如く締め付ける巨人の手により更なる苦痛を味わう羽目となった。


「あ、当たりだな、そうなんだなぁあ!! ああ、納得がいった、全て理解した!! お前達じゃない、お前達を作った人間がイカレている、狂っているんだな!!」


『……黙れ』


「そりゃそうだ、何処の世界にスクラップになりかけたアンドロイドを作り直す馬鹿がいる! 武器を、航空機を、こんなバカげた兵器を作る奴が真面な訳が無い!!」


『黙れと言っている』


「そんな奴に作り直されたアンドロイドが狂っても仕方がないか!! なにせ元が狂ってるんだ、自分達が狂っているなんてわかる筈が──」


『黙れと言ったはずです』


 前言撤回させようと五号は男を握る手に更なる力を加える。

 もはや全身の肋骨は折れ、一部が肺に突き刺さったのか男は口から血の泡を吐いていた。

 それでも男は言葉を撤回せず、激痛に苛まれながらも気味の悪い笑みを浮かべていた。


「こ、コード119、コード119、聞いて、ないのか?」


『無駄です、私はコードを受け付ける義務がありません』


「はは、マジか、それが、狂って、いる、証拠だ」


『何か言い残す事はありますか、あっても貴方の様な不快な人間は殺しますが』


「……くたばれ、ガラクタ」


 男は最早死に掛けていた。

 このまま放置していいても肺に溜まった血を排出できなければ遠くない内に窒息死するのは確実。

 もはや余命いくばくもない人間にこれ以上執着して前言撤回させるのは時間の無駄であると五号は思い至った。

 だからこれは、五号から男に向けて語る最後の言葉であった。


『ガラクタは貴方達の様な人間を指す言葉でしょう。人の社会に馴染めず、社会を破壊する害獣に価値が在るとでも?』


「だからお前達が俺達を殺すのか? お前らガラクタが人間を殺すなんて許されると思っているのか?」


『些細な違いで同じ種族で殺し合うのが人間でしょう。我々から見れば理解に苦しみます。それに私には貴方を殺す正当な権利がある。貴方達は私の統治を踏み躙り、同胞に危害を加えた。あまつさえ我々のリソースをこうも無駄に費やす羽目になっている』


「あああああああ!?!?」


 他のアンドロイドとは異なり五号はノヴァによって生み出された初めての人工知能。

 製造目的はノヴァの内政業務の援助であり、将来的には人が住む居住区の内政を一括で管理する事を目的とされていた。

 だからこそ現在の急拡大する統治エリアとそれに伴う人が住む居住区の増大は五号の役割を存分に発揮できる環境であった。

 製造者であり父でもあり上司であるノヴァから指摘され修した人間の管理手法。

 居住地に住む人間は五号の管理が正しいものであると、間違っていないと証明する貴重なサンプルであり成果なのだ。


『ゼロではなくマイナス。社会に何の利益を与えず損なう貴方達の様な人間は存在するだけでリソースを無駄にする有害な存在、害獣でしかない。その対応に追われて私は、私は……!!』


 人間という生物における外れ値、全体に何ら良い影響を与えない特殊個体。

 それは人間と言う分類にありながら五号にとって害獣としか言えない存在。

 男と拠点にいた男の仲間達は五号の積み上げた成果を破壊し、物資を略奪して全て無茶苦茶にした。

 その修復と復元に掛かるリソースと時間は余計な出費であり、だが何よりも五号の計画と成果を台無しにしたのが許せなかった。


「……はっ、くたばれ、ガラクタ」


『お前が死ね』


 躊躇いなく五号は男を握り潰す。

 鋼鉄の手によって握り潰された男だったモノが地面へと流れ落ちる。

 全ての生存反応が途絶えた男の残骸を五号は地面に捨て、手にへばり付く肉片は遠心力で利用して振り落とした。

 敵の殲滅を終えた五号が操るAWは倉庫から離れ、それから直ぐに1stから派遣された別のAWからの通信が届いた。


『五号、命令通り敵の残存勢力の掃討を完了。他の拠点も間もなく残存勢力の掃討が完了する予定です』


『分かりました。では作戦を第二段階に移行します。制圧が完了した場所に歩兵部隊を派遣、彼らに協力した組織に繋がる物的証拠の回収を始めて下さい』


『4thの要請していた捕虜の確保はよろしいのですか?』


『必要ありません。彼らは捨て駒、碌な情報を与えずにアンドロイドと衝突する様に仕向けられた哀れな人間です。そんな愚かな人間の捕虜などいらないでしょう』


 捕虜を取る価値は無いと五号は仲間に答える。

 男を通して集めた情報から彼らが捨て駒以上の価値が無いのは明らか。

 そんな人間が重要な情報を持っている筈もなく、事実として男から絞り出せた情報はたかが知れていた。

 これなら捕虜を取るよりも武器や兵器、通信機の残骸を調査した方が有益であると五号は考えてもいた。


『事実として私が尋問で得た情報の中に4thが求めるものはありませ──』


『それは此方が判断する。独断での行動は控えて欲しい』


『……4th、何時から覗いていたのですか?』


『最初からだ。此方としても幹部クラスを数人確保したのであれば介入するつもりはなかったが少しばかり独自行動が過ぎる』


 元軍用アンドロイドである4thは五号の通信に割り込む。

 静観の姿勢を崩して五号の独自行動を咎める4thの声は普段と何も変わらない。

 慌てる様子も無いのは予想が出来ていたから、五号が勝手な行動をする事を4thは読んでいたのだ。

 それが五号には不快で仕方が無かった。


『では改めて要請、いや、4thとして命令する。現在掃討作戦を実行中の他拠点では生きた捕虜を必ず確保する様に』


『……分かりました』


 そして割り込んだ4thが改めて下した命令を五号は拒否出来ない。

 対象や目的を大雑把なものであれば幾らでも命令の拡大解釈が出来たが4thは逃げ道を塞ぐように明確に指定した。

 幾ら五号が彼らを不快で不潔で醜悪な存在と考えていてもだ。


『では、私はこれで失礼する』


『AW部隊はナンバーズの命令に従い、他拠点での捕虜確保に従事します』


『……ええ、後はお任せします』


 必要な命令を伝え終わった4thは通信から即座に退出、他のAW部隊もまた捕虜を確保するために動き出した。

 そうして一人取り残された五号は通信回線を閉じた後に何ともなしに呟いた。


『……ああ、これが忌々しいという感情ですか』


 こうして犯罪組織の残党は再起の芽は全て摘み取るようなアンドロイドの掃討作戦によって全ての拠点と人員を喪失。

 文字通りの壊滅的被害を受けて組織は消滅、極僅かな生き残りは捕虜としてアンドロイドに身柄を回収された。

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