第158話 セイラメントシティ会議(1)

 セイラメントシティ会議。


 旧州都の名前を冠した会議は日夜過酷な世界を生きる人々、その中でも旧連邦の人口密集地帯に存在する大規模コミュニティーの代表者を招いて行われる会議である。

 それ以前に大規模コミュニティーの首脳陣が一堂に集う事は過去に例が無い。

 だが様々な困難を乗り越えて漸く実現した大規模な催しであり、第一回目となる今回の会議は生き残った人類の団結を図る第一歩となる試みでもあった。


「ああ、どうする」


 人類の目の前に広がる大地は人類が足を踏み入れられない呪われた大地となってから既に二世紀にも及ぶ長い時間が過ぎていった。

 崩壊した世界に適応し進化した生物はミュータントと呼ばれる怪物と化し多種多様な恐るべきミュータントは人々を殺し食らう恐ろしい恐怖となった。

 汚染を逃れた土地は限られ耕作地の不足によって食料の安定供給が困難となり各コミュニティーでは食糧不足が常態化して日々多くの人が飢餓に苦しんでいる。

 核によって汚染された大地には放射能がこびり付き生物が生きる上で欠かす事が出来ない重要な資源である水を汚染している。

 土地が、食料が、水が何もかも足らない、不足する現状。

 安眠できる土地が不足し、誰もが腹を、喉を十分に満たす事が出来ない今の世界。


「どうするどうする」


 それでも生き残った人類が力を合わせれば困難を解決できる。

 絶望の中でも希望を生み出せることが出来るのだ。

 その様な未来を切り開く為に行われるのがセイラメントシティ会議であり、多くのコミュニティーは会議の試みに賛同して参加する事となった。

 そして、この知らせを聞かされた各コミュニティーの人々は娯楽が少ないこともあって何処もこの話題で持ちきりであった。

 特に議長役を務める市長の出身であるコミュニティーは大盛り上がりであり、困難な時代であってもより良い未来を諦めずに掴もうとする市長に人々は好意的な声援を送った。


 ──だが、これは会議の本当の目的を隠す偽りでしかない。


「ああ、私達の、市長の計画が全て、クソ、一体どうなっている!」


 力を合わせれば困難は解決出来る、希望は生み出せる。

 そんな言葉を頭から信じている為政者など何処にもいない。

 特にコミュニティーを代表する首脳陣は徹底的な現実主義であった。


 汚染された大地を浄化するには機材も人材も何もかもが不足していて実現不可能である。

 日々変化を続けるミュータントに対抗する為に必要なのは強力な武器を揃え、怪物達の矛先を自分達以外に誘導する事である。

 耕作地の不足は解決できる目途が立たないので対処療法として配給量を減らすか手段を択ばずに何処からか持ってくるしない。

 渇きを癒す水は新たな水源を探すか、高価で貴重な浄化設備を利用して汚染水を飲水可能な物に変えるしかない。


 誰も、何処も生き残ろうと考えて考えて考えて考え続けた。

 それでも解決できなかった問題に対して各コミュニティーの代表達が最終的に導き出した答えは一つ。


 ──他のコミュニティーから奪うしかない。


 そんな時に降って湧いたようなセイラメントシティ会議の参加の打診である。

 綺麗に綴られた言葉の裏に潜む本当の目的は生贄を選ぶ事。

 コミュニティーの首脳陣達は会議の本当の目的を、彼らは身綺麗な言葉で着飾った裏にある恐ろしく醜い目的を理解した。

 理解したうえで彼らは会議に参加する事にしたのだ。


「クソ! 今迄の下準備が全て無駄になった、なにもかもだ!」


 何処も他のコミュニティーを襲う事に問題はない、それしか手が無いのだ。

 既に各コミュニティーの首脳陣達は準備も覚悟も既に決め、その時が来れば動く出す事は可能だ。

 だからといって他所のコミュニティーを正当な理由なく襲撃する事は出来ない。

 何故なら襲撃の最中に自らの拠点を他所のコミュニティーに襲われてもしたら本末転倒になってしまうからだ。

 大義名分なく他のコミュニティーを襲えば被害を受けたコミュニティーは必死になって抵抗し反撃するのは間違いない。

 だが自力で対処が出来ない場合は何処か別のコミュニティーに救援を出すしか無く、その時の為に各コミュニティーは独自に交流を重ねて関係構築を積み重ねてきた。

 そして救援に応えれば大義名分を掲げて襲撃側のコミュニティーを鎮圧、支配する事が可能となる。

 誰にも咎められる事無く貴重な物資を接収出来る機会となるのだ。

 だからこそ何処のコミュニティーも単独で先走った行動を行えば救援という大義名分で袋叩きになる可能性を考えて今迄下手な行動は取れなかった。


 だが何処も目前に迫った破滅迄の時間は残されていなかった。

 何処のコミュニティーも懐事情は似たり寄ったりであり、今日まではコミュニティーの未来を失敗の可能性が高い博打に掛ける訳にはいかなかった。

 先送りし続けてきた問題に向き合わなくてはならなくなった。

 その為に会議は開催されるのだ、大義名分を作り上げる為に。

 大義名分さえあれば生贄となったコミュニティーの除いて最低限の足並みを揃えて行動する事が可能になる。


「どうする! 只でさえ新参者の対応に苦慮しているのに、今度はアンドロイドだと? ふざけるな!!」


 ──その筈だった


「頭が痛くなる。だが、立ち止まる事は出来ない、立ち止まる訳にはいかない」


 会議の開催場所であり開催を目前に控えたコミュニティー、その中枢である行政機関の一室で男は積もりに積もった感情を爆発させていた。

 だが男の叫びは山の様に積み上がった書類に遮られ、また職員が滅多に寄り付かない部屋であったため誰にも気付かれる事は無かった。

 それは会議を目前に控えた行政機関の中に不和を招かない様にする男の配慮であり、どうしても我慢できなかった怒りを発散させるために捻り出した悪足掻きであった。

 それでも怒りに苛まれながら考えを巡らせられる男は行政機関の中でも優秀だ。

 優秀であるからこそ所属するコミュニティーの中でも勝ち組と呼ばれる市長の秘書を務める事が出来たのだ。


「幸いにも新参者の『オーダー』はアンドロイドを目の敵にしている。これを利用して味方に引き込むしかない」


『オーダー』と『アンドロイド』、セイラメントシティ会議開催直前になって現れた二つの強大な武装勢力。

 男が新参者と言い捨てる『オーダー』の正式名称は< Establish and protect order >、『秩序を確立し、守護する存在』という酔狂な名前を掲げた武装勢力。

 これが小規模な自警団や野盗に留まる組織であれば男にとってどれ程良かったか。

 そうであれば男は笑顔で接する裏でコミュニティーの利益の為にこの小さな組織を利用し尽くしただろう。

 単なる野盗であれば特別な対応をする事も無く他のコミュニティーと共同して迅速かつ最小限の出費で潰していただろう。


 だが『オーダー』はどれでもなかった。

 コミュニティーの自警団とは比較にならない練度を持つ屈強な兵士、大量の銃火器、戦闘用に調整された外骨格と輸送用VTOL機を大量保有する正に軍隊であった。

 そして止めとなるのが彼らの拠点となる巨大な飛行戦艦、それが二隻。

 その強大な軍事力を前に彼等の進行上に点在したコミュニティーは即座に白旗を掲げて傘下に入った、入るしかなかったのだ。

 そして彼らは降伏したコミュニティーに対して秩序の維持という名目で生かさず殺さずの物資の徴発を繰り返した。

 それは厳格な支配と統制、反論を封じられ、彼らの持つ武器に怯えながら彼らの為に働き続ける人々の光景は侵略以外の何物でもなかった。


 そして『オーダー』の軍事力を背景とした横暴を目の当たりにした他のコミュニティーは危機感を抱き、水面下の秘密交渉を重ねて反オーダーとして纏まりつつあった。


 ──纏まりつつあったのだ


「ああくそ、時間が、情報が、何もかもが足らない。アンドロイドの目的は何だ、急激な拡大は、たった一人の人間を捜す為だと言うのか? そんな馬鹿な事があるか、これは何かしら暗号、或いは符丁なのか? まさか世界征服をするつもりなのか?」


 しかし今度は軍隊モドキの強大な武装勢力の登場に続いてアンドロイドの登場である。

 未だ手元に集まった情報は少ないが、それでも『オーダー』に比肩する軍事力があるのは既に判明している。

 判明しているからこそ何処のコミュニティーもアンドロイドを無視する事が出来ない。

 事ここに至ってはもはや男がどうにか出来る範囲を超えていた。

 何かをするにも時間が足りない、どの様に会議を進行していいのか、何を会議の目的に据えるのか、いっその事会議の開催を中断するべきか。

 暗中模索、全てが暗闇の中であった。


「無視は出来ない、無視するにはアンドロイドもまた強すぎる。──だが交渉材料は一つだけ手元にある」


 だが暗闇に差し込む一筋の光はあった。

 男が秘書として使える市長が何処からか連れて来た一人の若い男性。

 その身柄を交渉に役立てろと言い渡された秘書は当初は困惑したものの、窮地を脱する糸口であると理解した秘書は即座にアンドロイド対策に取り組んだ。

 少しでもコミュニティーに安全と利益を齎す為にどの様に男を利用するのか一番いいのか考え続け、──その時、ふと気になった。


「市長は一体何処で……。いや、私の知らない人脈があるからこそ市長なのだろう」


 市長としてコミュニティーを運営し、解決の目途が立たない問題に対して多大なストレスを感じていた日々だったのは間違いない。

 その頭皮は絶え間なく襲って来るストレスによって少しずつ薄くなり、抜け落ちる髪の毛を見てはため息を零していた市長。

 だがセイラメントシティ会議を提唱したその日から市長は変わった。

 あの疲れ切った表情は消え、機械の冷たさの様な鋭利な雰囲気を纏う様になった。

 その姿を見た秘書ですら本人なのかと一時は疑った時もあった。

 だが、そう遠くないコミュニティーの破滅を感じ取りいよいよ腹を括り、この会議が己の使命だと悟ったのだろうと秘書は考えた。

 そうだ、会議を主導するようになって市長は精神を持ち直した、それでいいのだ。


「諦めてなるものか、此処は私が生まれ育った場所。どの様な恨みを、憎しみを背負う事になろうと絶対に何とかして見せる」


 市長が何処で男性の身柄を抑える事が出来たのかは知らないが、余計な問答に時間を費やす時間などない。

 内心に芽生えた小さな疑問を摘み取った秘書は残された時間でアンドロイドと『オーダー』を相手にした対策を組み立ていく。

 優秀な男であっても怒りに呑まれる程にコミュニティーを取り巻く情勢の変化は急激であり現在も動き続けている。

 自分達を含めた周辺コミュニティーを容易く蹂躙できる武力を持った勢力が二つ。

 セイラメントシティ会議の開催まで残り僅かというタイミング

 このダブルパンチを受ければ誰であっても素面ではいられず、貧乏くじを引いたと誰もが考えるだろう。

 それは秘書である男も同じで逃げ出すか、或いは何処かの誰かに代わって欲しかった。

 だが、コミュニティーの存亡を掛けた修羅場から逃げ出す事は出来ない。

 そんな無責任な事は出来ないと、自分がやるしかないのだと秘書は己に言い聞かせた。


 それから秘書は自身と部下を酷使して事前協議を進めていった。

 市長からの要望に応え、参加者へ秘密裏に交渉を重ね、残り僅かな時間を一時も無駄にする事無く可能な限りの根回しを行った。


 そうして──。






 ◆






「これより第一回セイラメントシティ会議を開催します」


 コミュニティーの中でもひと際大きな建物、奇跡的に崩壊を免れた建物はコミュニティーの集会場でもありシンボルでもあった。

 その建物の中には多くの人が詰め掛け、壇上に登った会議の議長でありコミュニティーの市長である男の開催宣言に耳を傾けていた。

 様々な困難に見舞われ開催困難と言われていた会議は中断される事無く開催された。

 その裏にはコミュニティーに所属する職員達を始めとした多くの人々が奔走した結果であり、舞台裏に控えていた彼らは肩の荷が一つ降りた様な気がした。


 ──だが全員ではない、特に秘書とその周りの職員達だけ異様に顔色が悪かった。


 それでも確かに会議は実現したのだ。

 参加者も凄まじいものであり、周辺コミュニティーは全て参加し、実現困難と思われていた『オーダー』と『アンドロイド』も参加している。

 周辺一帯の首脳陣が勢揃いしている、それは確かに会議の成功と言っても過言ではない。

 だが会議はまだ始まったばかりであり本当の戦いはこれから始まるのだ。

 要求を突き付け、協力し、譲歩し、時に圧力を掛ける一瞬たりとも油断は出来ない言葉の戦争が始まる。

 今日一日だけでも不用意な発言で言質を取られない様に、逆に相手から上手く言葉を引き出す高度な駆け引きが繰り返されるだろう。


「此処に集った皆様は各コミュニティーの代表です。大地が汚染されミュータントが蔓延る苦難の時代に生まれた我々は日々生きるのに精一杯でした。それでもコミュニティーの垣根を越えて会議に参加したのは困難な時代を協力して生き延びる為です。その為に我々は──」


「議長、発言の途中であるが失礼する」


 開催宣言に引き続き、参加者を見渡して市長はこの場で行われる会議の目的を語った。

 誰もが自身が所属するコミュニティーの利益の為に会議に集った。

 協力して生きる事の意味を、その為に我々が何をするべきなのかを語ろうとし──、しかし市長の言葉は途中で遮られた。


「< Establish and protect order >代表、先程言いましたが此処に集ったのは各コミュニティーを代表する首脳陣です。その発言には責任が伴う事を──」


「議長の発言は十分に理解している。理解しているからこそ議長を始め此処にいる人々に言わねばならないのだ。今、この場で」


 それは台本にはない言葉、会議を妨げる発言であり言葉を放ったのは『オーダー』に所属し代表でもある一人の男。

 男の言葉には迷い無く、それどころか議長に対する言外の非難も含まれていた。

 そして男は会議に集った人々を軽く見まわし最後は目の前にいる参加者、『オーダー』と相対する位置にいるアンドロイドを強く睨みつけた。


「何故この場に人間ではない存在、アンドロイドがいる」


 男がアンドロイドに向ける視線には強い敵意が込められていた。

 隠す素振りは一切する事無く、誰の目にも明らかな程にアンドロイドに対して敵意を表していた。

 それは男だけに留まらず『オーダー』側の参加全員が親の仇を見る様な目をしていた。


「人間が我々を目の敵にするのは理解出来ます。ですが今回は議長の要請によって会議に参加したに過ぎません」


 しかし敵意を向けられたアンドロイド側は大きな反応を示す事は無かった。


 ──唯一人、アンドロイドの代表として参加を強要されたルナリア以外は。


「ひっ!?」


「ルナ、大丈夫です」


 ノヴァ以外の人間、その剝き出しの敵意はルナリアには恐ろしいものだった。

 だが傍にいたサリアが男の視線を遮る様にルナリアの前に立ち、サリアの服の袖をルナリアは強く握った。

 そしてサリアと同時に動き出していたマリナは男に言葉を返した。


「人間がアンドロイドに対して持つ過去の因縁は我々も理解しています。ですが、今この場で露骨に敵意を示すのはいかがなものかと。それともコレが< Establish and protect order >の流儀ですか?」


 冷静に、冷酷に、普段の陽気な表情ではなく感情を一切感じさせない、凍える様な表情を添えてマリナは言葉を放つ。


「何より会議の進行を妨げてまで我々に敵意を露にする、それは組織を代表する人間が取るべき行動ではないでしょう。それとも組織を代表している意識が貴方には欠如しているのですか?」


「どうやら高度な思考が可能な特注モデルらしい。だが機械風情が人間の真似事、家族ごっことは醜悪極まるな。大人しくスクラップになっていればよいものを」


 マリナと男、一体と一人の間で冷たく敵意以外の感情を一切排した視線だけが交わる。

 もはや平和的な話し合いという段取りを飛ばして互いの間にあるのは敵意のみ、最早協力する事は困難を通り越して不可能ではないのか。

 会議に集った他の参加者達の誰もが考え、開幕から敵意をぶつけ合う二者の視界の内に入らない様に声を抑えた。


「議長、先程機械、いやアンドロイドが言った事は本当なのですか?」


 そして男の抱く敵意の矛先はアンドロイドだけでなく議長にも向けられた。

 男が議長に向ける視線にはアンドロイドと同じ、或いは同じ人間であるからこそアンドロイド以上の敵意が込められていた。


「ええ、我々の新たなる隣人となるかもしれない方達ですから」


 だがそれ程の敵意を向けられてなお議長の様子は変わらず、言葉を聞いた男は更に目を険しくした。

 その敵意、或いは計り知れない程の憎しみが込められた視線は強烈だ。

 議長に傍に控えていた秘書は視線を直接は向けられていない筈なのに男の声に、纏う雰囲気に気圧され冷汗が幾つも浮かんだ。

 それなのに直接目を向けられる筈の議長は男に気圧される事無く普段通りの、それどころか酷く冷たさを感じさせる口調で返事をした。

 その姿に秘書は密かに頼もしさを感じていた──、感じていたが胸中には言語が出来ない不安、違和感を覚えた。

 一体何が原因なのか秘書が市長を横目で観察するも姿形に変わった所はなく、秘書が知る市長の姿そのものであった。

 そんな事を秘書が考えている間にも議長の言葉は続いていた。


「一方的に敵と見なして排除する、そんな事を続けた先には私達の将来はありません。私達がこの過酷な時代を生き抜く為には対話を通じ、協力関係を結んで──」


「議長、貴方は正気なのですか! こいつ等は血の通った人間ではない、それを理解しているのか!」


 だが議長の言葉は男に届かなかった。

 それどころか議長の言葉を遮り男の声はさらに大きく、会議室に集った他の代表者にも言い聞かせるように語り始めた。


「アンドロイドとは人の真似事をする殺人機械だ! アンドロイドによって多くの人間が害虫駆除の様に殺された歴史を忘れたのか! 議長だけではない、此処に集った皆様もアンドロイドが引き起こした虐殺の歴史を忘れたのか!」


 議長の言葉を男は否定する、アンドロイドは交渉相手ではなく人類の敵であると。

 それは自らの信条を信じているから、或いは強固な思想を持つが故の言葉だ。

 だからこそ男は敵と見なしている存在と対話する、協力関係を築こうとする議長の言葉を受け入れられない。

 男にとって議長の行為は人類への裏切り行為に他ならないのだ。


「──いい加減にその口を閉じなさい、人間」


 そしてアンドロイド側から聞こえて来た言葉を聞いた誰もが──< Establish and protect order >に属する人々以外は──耳を疑い、言葉の意味を理解した瞬間に顔を青ざめた。


「ほう、遂に本性を現したな」


「本性等という以前の問題です」


 初めから上手くいくとは思っていなかった。

 それでも二者の言葉が会議室に飛び交う度に秘書の内臓は不可視の力によって捩じ切られる様な感覚に襲われた。

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