第156話 報告会(1)
──衝撃ニュース! なんとウルクザルトにいた巨大レイダー集団壊滅!?
我らノーマンズランドの住民にとっては頭の痛い問題だった巨大レイダー集団、集落を襲い、人を連れ去り、危険でハッピーになれる薬を売る憎たらしい奴らがここ最近姿を見なくなったのは皆も知っているだろう。
あいつ等のせいで首を吊った奴も沢山いる、その中には俺の友達の友達の友達もいた。え、それは知り合いだとか野暮な事は言わないでくれ。
まぁ、姿が見えなくなったのでミュータントに殺されたと信じた俺は奴らの拠点を盗み見に行ったのさ、そしたら予想以上の光景が広がっていたぜ。
俺も最初は信じられなかったが奴らは一人残さず死んでいた。
だがミュータントにやられた訳じゃない、アイツらは一人残さず銃で撃ち殺されていた、中には奇麗に真っ二つにされた死体もあった。
一体誰が憎たらしいアイツ等を殺したのか、俺は気になって正体を探っていたら命を助けられたという奴らに出会った。
そんで彼らから聞き込みをしてみたら、なんと途轍もない美女に率いられた正体不明の奴らに助けられたと誰もが口を揃えて言ったんだ。
正直に言って信じられない、だから────
──おい、お前、南に向かうつもりなのか?
悪いことは言わない、今は止めておけ。
あそこには最近になってミュータントの集団が住み着き始めた。
しかも奴らは強い、交易の邪魔になるからと編成した討伐隊が何度も壊滅させられた。
いいかよく聞け、戦う以前に俺達の持つ銃じゃ空飛ぶ奴らを叩き落とすのは不可能だ。
射程も威力も足りない、あのクソデーモンに見つかって餌になるしかない。
悪いことは言わない、遠回りになるのは避けられないが迂回路を──、なに、お前、南から来たのか!?
ミュータント、デーモンはどうした!?
え、始末した、一匹残らず!?
馬鹿言うな、誰がそんな事を────、おい、デーモンの皮膜、本物か?
おい、これだけの数を一体何処で──、雇われの傭兵団?
そいつらは一体何者だ、教えてくれ!
──クソ、最近になってから売り上げが悪い、一体どうなっている!
何度も言わせるな! 此処で無駄に騒いでいないで、今すぐ原因を突き詰めて来い!
調べ回っているが情報が集まっていない?
それはお前の努力不足だ! 使える駒を全部使って探らせ──、おい、どうした、誰にやられた!?
何、奴らがいる? お前、見て来い、ぼさっとするな!
外には誰もいないだと、ならコイツは誰にやられた?
おい、死ぬ前に誰にやられたか言え! 一体誰にやられた!
そ、ら、そら、空に、飛んで、いる?
何を馬鹿な事を言っている?
くそ、手掛かりは無──、どうした?
空に何かが飛んでいる? そんなもん鳥に決まって────。
──クソ、何だ! 一体何が起こった!
おい誰か居ないのか! 誰か────。
──有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない!
こんな事は有り得ない、あってはいけない事です!
貴方は結社の一員でありながらコレが何か分からないのですか!?
よく見なさい!
この様な高精度部品が此処に、この世界に我々以外が持っていること自体が在り得ないのです!
一体誰か、何の目的で、これ以外にも沢山の部品を──、これは量産を諦めていた高性能バッテリー!?
馬鹿な、劣化はしていない、見るからに新品、そんな馬鹿な!?
こっちはパワードスーツ用のアクチュエータ、これ程の潤滑剤を何処で手に入れた!?
……ふう、一旦落ち着きましょう。
きっとこれらは運よく保管されていた戦前の品々に違いない、そうに決まっています。
ええ、ですから注視すべきは──、いや、違う、最近になってから作られた物!?
貴方達はこれを何処で手に入れたのですか、答えなさい!
我々以外に戦前の部品を開発可能な組織があるとは──。
──お、おお、久しぶりだな、嬢ちゃん。
生きていたようでおじさんも嬉しい──、まてまて、悪かった、だが仕方なかった。
俺も命は惜しい、店の周りを囲まれたら答えるしかなかった。
だから──、え、恨んでないのか?
あ、いや、嬢ちゃんがそれでいいなら俺は何も言わない。
それで今日はどういった目的で──、戦前の大規模シェルターの位置情報、全部?
ああ、知らない事はないが全部となると──、これは、抗生物質、本物か?
こっちの医薬品も、待て待て、分かった、全部教える、ああ、抜けもあるかもしれないから他の奴にも声を掛けるがいいか?
よし、分かった、この仕事引き受けよう。
それと……、今のお前のバックにいる奴らは誰だ?
え、女神様?
──最近になってから出回り出した品々の出所は掴めたか?
こっちはお前の言う通り高い金を払っている、それなりの情報はあるんだろうな?
……此処では話せない?
チッ、分かった、場所を変えよう。
おい、何処まで行くつもりだ!
ここらはミュータント共が──、いない、どうゆう事だ?
おい、アンタは誰だ、一体何処から!?
待て待て殺すな!
俺は敵じゃない、取引だ、取引の為にアンタ達を探していただけだ!
決して損はさせない、お前らが欲しがるものに用意できる!
良かった、ああ、先ずは俺の話を聞いてくれ──
──我々はもはや過去の人間、所属する政府も軍も部隊も何処にも無い。
そして我々がこの崩壊した世界では生きていく事は至難を通り越し、不可能と言う他ないのは皆も理解しているだろう。
今我々が生きているのは彼ら、アンドロイドの気紛れによるものが大きい。
諸君の中にはアンドロイドが敵であると考えている者もいるだろうが今すぐ認識を改める様に、決して彼らに対して敵対行動をしない様に通達を出してくれ。
……分かっている、私にもアンドロイド達が何を考えているか分からない。
それでも今は嘗ての仲間達に再会できた事を喜ぼう
──違う、アレは人間じゃない、人間であってたまるか!
そうだ、アレは機械だ、機械、アンドロイドなんだ!
俺は酔っていない、いいからよく聞け!
アイツらが、アンドロイドが攻めて来たんだ!!
人間を滅ぼしに、奴らは俺達を皆殺しにするつもりなんだ!!
──此処に集った我々は知っている。
嘗ての連邦が起こした災いを、人の手によって起こされた惨劇を知っている
我々は人が産み出された災禍によって傷付けられた大地の上で生きて来た。
我々は少ない資源を取り合い、殺し合い、それでも此処まで生き残ってきた。
だが崩壊した世界は我々に生きる事を許さず、それでも我々は生きる為に新たな新天地を求めて此処に来た。
だが新天地となる大地にも我々の敵が、脅威はいたのだ。
諸君、我々は未だかつて遭遇したことがない強敵に、人類の敵に遭遇した!
人の姿を偽り、しかし皮の下にあるのは鋼鉄の身体を持つアンドロイド!
人に成りすました恐ろしきアンドロイド共が我が物顔で大地の上を歩いている!
奴らは人間によって作られたのにも関わらず、創造主である人間に牙を剥き人々を殺戮した恐るべき殺人機械だ。
そして今は無力な人々を支配し、奴隷のように扱っているのだ!
諸君、我々はこの様な暴挙を見過ごす事は出来ない!
何故なら此処に集った我々は誇りを持つ人間であるからだ!
故に、この地に生きる人々がアンドロイド達に支配され、人々がその誇りと権利を永久に喪失する未来は絶対に防がねばならない!
諸君、団結せよ!
戦いの時は近い、だが我々は負けない!
この戦いに勝ち人類が遺した災禍を我々の手で倒すのだ!
◆
「エリア1周辺環境の完全制圧完了。計画に従い資源回収と並行して整地を進め基地機能の拡充に取り掛かります。また基地拡張に伴い追加配置する防衛戦力を順次移送します。全作業の完了は240時間を予定しています」
「五号、エリア1に追加建設中の探索基地に対して更なる拡充を提案します。詳細なデータは此方になります」
「2ndの提案を却下します。当エリアで現在進行中は再開発計画であればこれ以上の拡張は不要、既に当面の探索計画に照らし合わせれば十分な機能を有していると判断します」
「いいえ、再度提案します。ノヴァ様探索作戦に置いてエリア1に求められる役割は大きい。今後起こりうる不確定要素は我々の予想を超える可能性がある以上、万全に対応する為にも更なる機能拡充を──」
アンドロイド達の本拠地であるガリレオ。
其処ではナンバーズと呼ばれる上級権限を持つ特別なアンドロイド達とノヴァの代理を務めているルナリアが定期的に集まって報告会を行っている。
アンドロイド達だけであれば生身の人間の様に顔を合わせる必要は無く、常に情報共有を行い最新情報も更新されて続けているため不必要な行為でもある。
そんなアンドロイド達が定期的に本拠地に戻り報告会を行うのはノヴァ不在という非常事態によって急遽機関を率いる事になったルナリアの為である。
最新情報と同時に現場の雰囲気といった言語化が難しい事柄をルナリアと共有、アンドロイド達から齎された情報を基にルナリアは今後の活動方針を決定する。
これが本拠地で行われる報告会の主な目的であった。
「再度提案を却下する。その起こりうる可能性についても考慮した再開発計画を現在進行中です。これ以上のエリア1の基地機能の拡充は機関にとっても大きな負担になる可能性が──」
「五号、現在の再開発計画を一部見直して更なる基地機能の拡充を行う事は可能です。追加物資の投入も大きな問題はありません」
「……1st、流石に物資の投入が多過ぎませんか? これ以上基地機能の拡充を行えばエリア1は要塞になります。本当に無理をしていませんか?」
「無理はしていません。現在ノヴァ様不在によって多くの計画が凍結され、活用されないまま保管されている物資が溜まっているのです。現状でも本拠地の拡張、改修に物資を割り振っていますが活用しきれない物資が倉庫を圧迫しています。これ以上の保存が困難なので何処かで吐き出す必要があり、エリア1の再開発計画は此方としても都合が良いのです」
「本拠地の生産量が過剰になっているのであれば生産を一時的に停止、若しくは減産出来ないのですか?」
「生産ラインを止める事は困難です。現状の生産工程は複雑に絡み合っているので特定の物資だけを減産すると他の物資の生産にも影響が出ます。その結果として現在取引を持っている各地のコミュニティーとの取引に悪影響が出る可能性があります。それは避けるべきでしょう」
「でしたら基地の拡張は問題ありませんね。五号、任せましたよ」
「2nd、貴方も本来の計画通りであれば基地機能の更なる拡充を提案する必要はありませんでした。答えなさい、何をしたのですか?」
だが報告会は回数を重なる毎に様相を変えた。
今や上級アンドロイド達による独立行動のしわ寄せを吐き出す場所になってしまった。
その中でも特に大きな問題を起こしているのが1st以下のアンドロイド達であった。
「……現場において高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に活動した結果で──」
「2nd、それは世間一般では行き当たりばったりと言うのです。聞かれた事に正直に答えなさい」
「……犯罪組織を3つ潰しました」
「──4th」
「言っておくが今回は関与していない。情報共有しただけで戦力を出していない」
「2nd、調査先での戦闘は禁じられていません。ですがもう少し加減は出来ないのですか?」
「それは不可能です。調査先にいるのは人間ではなく、人の形をした害獣。アレを放置する事は出来ません。何より最優先調査施設に拠点を構えているのです。彼らのせいで手掛かりが失われる可能性を考えれば即時制圧が──」
「そうした判断の元、独自行動によって壊滅させた組織は大小合わせて23件になります。現状でも情報統制を行っていますが限界が来ます。これ以上の表立った人間に対する敵対行動は我々アンドロイドに対する心証悪化に拍車をかける可能性があります。控えて下さい」
「分かっています。ですが──」
「いいえ、今回は擁護しません。1stの権限に基づいて2ndの活動を一時停止します」
「……分かりました」
「暫くは拠点に留まって下さい。心配しなくても壊滅させた犯罪組織に捕らわれた人々の面倒も最低限見てから各々の居住地に送ります。それで4thの方は何か報告、要望はありますか?」
「此方からは部隊の武器弾薬の補充と機体の整備。それと現地勢力との交渉用に余剰の武器があれば幾つか回して欲しい」
「これ以上の機関製武器の流通は地域間の戦力バランスを崩しかねません。控える事は出来ないのですか?」
「1st、それは無理だ。現地のコミュニティーで製造された粗悪な銃火器では周辺ミュータントに対応は出来ない。だからこそ機関製の武器が交渉材料になり、武器売買を通した情報ネットワークの構築が出来たのだ」
「──分かりました。廃棄予定の装備と弾薬を回します。それで交渉を行って下さい」
「感謝する。それと新たな干渉可能地域だが──」
「またですか! またエリアが増えたのですか!?」
「そうです、3rd、仕事が増えました。ですが現状では統治する必要はありません。ですから──」
「そう言って、また私の仕事が増えるんだ! 治安最悪、食糧事情最悪、衛生最悪、おまけにアンドロイドに対して不信感を持っているエリアなんてもう嫌です! それでも現地住民の協力が必要だから干渉するしかないのでしょうけど! ええ、やりますよ、やってやりますよ!」
会議室に3rd──マリナのやけっぱちな悲鳴が響き、不条理に対して叫んだ。
そんな彼女は人間ではなくアンドロイドであるがそれでも先が見通せず積み上がるばかりの仕事は大きな負担とストレスになっていた。
だがマリナは機関において3rdの権限を与えられ、役割は機関に関わる交渉の全てを統括しているのだ。
更に遡れば己の能力が一番活用出来るポストをノヴァに求め、任された事から始まっている。
それは一種の自業自得であり、だからこそマリナはどれ程の苦労が降りかかろうと仕事を投げ出さないし、投げ出せない。
増加した仕事量にストレスを感じながらもマリナは色々と気を引き締め直してから新たな仕事に取り掛かろうとし──。
「……パパは何処にいるの?」
今にも消えてしまいそうな小さな言葉が出た。
ルナリアが口にした言葉は小さく、何より誰かに聞かせるものでは無かった。
だが少女の周りにいるアンドロイド達の聴覚は小さな少女の呟きを聞き逃す事は無かった。
「大丈夫です、ノヴァ様は生きています、ですから──」
「でも何処にも、何処にもパパは居ないよ!」
少女の傍らにいた1stは励ましの言葉をルナリアに掛けようとし──、だが椅子に立ち上がった少女の涙ながらの叫びを前にして口を噤んだ。
少女は、ルナリアは小さな目からポロポロと涙を流して泣いていた。
その姿を前にして1st──、デイヴはルナリアに何と声を掛ければいいのか分からなくなってしまった。
「皆でパパを一生懸命探して、悪い人達の所も、大きなミュータントが一杯居る所も、地面の下に隠れていた人達の所も、パパを連れて行った生物達の所を調べてもパパはいなかった! ねぇ、パパは何時帰って来るの!」
アンドロイド達は決して無能ではない。
彼らはエリア1で回収したアーカイブから得られた情報を基に疑わしき施設は直接乗り込んで調査を行い、それは今も続いている。
犯罪者達に拠点として利用されていれば圧倒的な戦力で彼らを殲滅した。
日々を綱渡りで過ごしている人々が住み着いていれば調査の為の対価を渡した。
廃墟と化しミュータントが棲み付いていれば一匹残さず駆除した。
そうして機関とアンドロイドが持つ能力を最大限に活用し、利用可能な全てのリソースを投入して彼らは消えたノヴァを探し続けていた。
──だが。それでもノヴァは見つからなかった。
ノヴァが失踪してから30日が過ぎた段階でアンドロイド達は何処かに見落としがあるのではないかと考えた。
それから少なくない時間を費やした会議の後でアンドロイド達は泥縄である事を理解しながら現地住民も協力者として活用する方針を新たに採用した。
行商人、流れの傭兵、現地の情報屋、居住地の住民、対象となる人は多く情報と引き換えにアンドロイド達は水や食料、機械部品や医薬品等の物資を提供した。
そうして当初の計画外の遣り取りを経て見つかったのは二種類。
アーカイブにも機密事項として記録されていなかった極秘シェルターとノヴァを攫ったエイリアン達の住処だ。
そしてアンドロイド達は人であれば交渉を通じて、エイリアンであれば有無を言わせずに殲滅して情報を集めた。
「…………」
「何か、言ってよ。パパは、もう直ぐ帰って来るって、言ってよぉ」
これが八つ当たりにしかすぎない事はルナリアにも分かっている。
それでも未だに幼い少女の心は辛く苦しい現実を受けとめる事が出来なかった。
そして幾らアンドロイド達が優れていようと、強大な戦力を保持していても嘗て連邦と呼ばれた大地はそれ以上に広大であっただけなのだ。
「私は、私はパパに会いたいだけなのに……」
ルナリアは再び椅子に座ると膝を抱えて小さく呟いた。
アーカイブに記録されていた転送設備保有施設:173カ所
記録対象外施設:46カ所
調査完了施設:82/219カ所
壊滅させた犯罪組織:23件
駆除したミュータント:3,492体
暫定的干渉エリア:1~12(内エリア1~4は探索橋頭保として重点整備)
作戦途中に発見・制圧したエイリアン施設:13件
エイリアン施設から回収したコールドスリープポット:3459個
投入物資一覧:医薬品、飲料水、武器弾薬、エトセトラ……。
ノヴァ失踪から72日以上が経過。
アンドロイド達の懸命の捜索にも関わらず未だにノヴァは見つかっていない。
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