第154話 アーカイブ入手作戦(2)

 命を救って貰った傭兵団に報いる為に我が身を差し出した女。

 それがアランと示し合わせた芝居によってサリアが得た都合の良い設定であり、そのお陰でサリアは変に怪しまれる事無く居住地の中に足を踏み入れる事が出来た。

 本来であれば居住地内部に穏便に入り込むのに必要であっただろう長々とした過程を省略出来たのはアンドロイド達にとって幸運であった。

 そうして人混みの中を慣れた足取りで進んで行く男の後姿を追うようにサリアは喧騒に満ちた居住地の中を歩く。


 居住地に入ったサリアの背後には逃亡阻止と見張りを兼ねた二人の男が背後に張り付いていた。

 その目的は商品となったサリアの逃亡阻止の為であり──、だが先程からサリアの身体に男達は欲情した視線を向けるだけであり監視役としてはお粗末な物であった。

 これが人間の女性であれば身の危険を感じて怯えるしかなかったがサリアは男達の視線に対して何かを感じる事は無い。

 それは自らがアンドロイドであり強靱な金属骨格と人工筋肉を疑似生体スキンで覆った人間と見間違う程の身体を持つ特異な存在であり、何より今の姿が精巧に造られた人の擬態でしかないとサリア自身が考えているからだ。

 だからこそサリアは男達に必要以上の警戒を示す事無く、居住地内部の情報収集を最優先目標と定めて行動していた。

 身体を休める家屋、居住地内部の経済活動、住民達の健康状態、食料供給の割合、保持する戦力、戦闘可能と思われる人員の把握等々。

 調査項目は多岐にわたり情報収集を得意とする人間であっても大変な労力を必要とした作業だがサリアは人間ではない。

 視覚、聴覚モジュールで得られた映像、音声等の情報は余す事無く本作戦のサポートを任されているアラン率いる偽装傭兵部隊に常に共有され居住地を事細かに解析する参考資料として現在進行形で利用されている。

 そうしたサポート部隊の分析によって居住地の全容は明らかになりつつあった。


「酷い場所ですね」


 だがアラン達による分析結果を送られる迄も無く、今いる居住地が犯罪者の巣窟とでも言うべき碌でもない場所であるとサリアは判断していた。


「は、何お高く留まってんだ。今や此処がお前の一生過ごす事になる場所だ」


 サリアに呟きを聞いた先頭を歩く男が人を見下したような表情で反論し、それと同時に背後にいた監視役の男達が品性のカケラさえない嗤い声を出した。

 その不快な音声を聞き流しながらサリアは情報収集を続けるが、居住地内部に巣食った悪徳しか見付ける事が出来なかった。

 縄で括られた人々は誰もが死んだような目で幽鬼の様に引き摺られていく人々がいる。

 殴る蹴るの集団暴行を受けて地面に蹲る人間がいる。

 出所の怪しい薬品──、まず間違いなく麻薬の類であろう白い錠剤を砕いて摂取する身形の悪い男達がいる。

 サリアが得られた情報は怒声と悲鳴、気味の悪い嗤い声で満ちており、其処にはノヴァが嘗てサリアに語っていた安全安心は何処にも無い。

 人の悪意が積み重なって生まれた業が居住地に深く根を張っていたのだ。


『4th、映像解析の進捗はどの程度進んでいますか』


『航空偵察の画像と合わせて解析しているが居住地内部に限れば29%程だ。それと作戦立案時は住民の30%程度が戦闘可能要員だと見積もっていたが想定より多いと予想される』


『それに関しては私も同意します。最悪の場合は居住地内にいる全てが戦闘要員となる可能性もあり得るでしょう』


『その通り、だからこそ行動には気を付けて欲しい。仮に戦闘になったとしても私の部隊であれば此処を制圧出来るだろう。だが、そうなれば此処に根付いている人脈を利用する事が出来なくなる。2nd、我々の目的を考えればそれは不利益である筈だ』


『理解しています。だからこそ私は交易を通して財を成した一族の女にみえる様に一芝居打っているのです。この容姿を利用すれば彼らの中枢になっている施設内部に連れ込まれるのは確実でしょう』


『そうだ、そして内部に侵入した際には事を荒立てずに活動する様に。此方は居住地に逗留してアーカイブ入手後の脱出準備に取り掛かる。定時連絡を欠かさず暫くの間施設内部で上手く立ち回ってくれ』


『ええ、分かりました。内部にいる間は無力で美しいだけの女性を演じていましょう』


『それで間違っていないが……、いや、元々接待等を担う民生用アンドロイド、この手の仕事は専門分野だったな』


『ええ、ですから心配は無用です』


 暗号通信を介してサリアとアランは居住地の人間に気付かれる事無く情報交換を行う。

 そして現状は悪いものではなく、それどころか潜入調査する事になったサリアはアランの予想を超えた成果を出していた。

 航空偵察では不十分であった居住地内部の情勢、権力構造、経済活動を始めとした様々な情報を提示されれば流石にアレンもサリアに文句を付ける事出来ない。

 諜報分野を任されているアランとしては今後の潜入工作員として保護した孤児の利用が既定プランとして既に存在していた。

 だが今回の作戦の結果によっては第四世代の機体を与えられた民間用アンドロイドを積極的に採用する事も視野に入れ始めていた。

 そんな事を密かに考えていたアランだが、思考を遮る様にサリアの聴覚モジュールを通して男が話しかけてきたのを感知した。


「お前は何処から来た? その身形からして贅沢な暮らしをしてきたんだろ?」


「ええ、交易で財を成した一族です」


「へぇ、じゃあ傭兵達と一緒にいたのは何故だ? 隠さず話せ、全てだ」


「……交易品の護衛として彼らを雇用しただけです。私達の間では信用できる数少ない傭兵団ですから」


「成程、奴らにも使い道がありそうだな。それでお前の一族の名前は?」


「……」


「だんまりか、いいだろう。素直に話すばかりじゃつまらない。多少の反抗心もあった方が好みの奴もいるからな」


 アンドロイド達によって居住地を詳細に分析されているとは露にも思っていない男は馴れ馴れしくサリアに話しかけては更なる情報を引き出そうとしていた。

 それが叶わずともサリアが男達に見せる表情(時点でも最も男達に望まれるだろうとサリアが作った表情:この先待ち受ける自らの未来を考えて深く思い詰め、怯えた表情)を見るだけで男達は愉悦に浸っていた。

 だが男達の自尊心を満たしたのはサリアの表情だけではない。

 居住地を歩くだけで男達はサリアの容姿に目を奪われ、その次に美女を引き連れている男には妬みの籠った視線が幾つも向けられている。

 その妬みの裏にある感情を感じ取った男は優越感に包まれて鼻高々になっていた。

 だが居住地の騒ぎを掻き分ける様にして別の集団が男達の前に現れた。


「おい、さっきの音は何だ!」


「お、ズーラ。そんなに慌ててどうした」


 現れた集団の中からリーダー格であろう男が進み出ると同時に険しい顔を先頭に立つ男に向ける。

 本来であれば険悪な雰囲気に包まれる筈の睨み合い、だがサリアを連れている男は余裕の表情を崩すことなかった。

 その様子から何かを感じ取った男は背後にいるサリアに気付き、それが何を意味しているのか理解すると同時に更に顔を険しくした。


「てめぇ……」


「俺は運が良かっただけだから怒るなよ。お前も待ち続けていればきっと幸運が舞い込んでくる。だからまぁ、気長に待っていろよ」


 男達が睨み合う剣呑な様子をサリアの視覚を通して観察していたアランは男が所属する組織の権力闘争の一端を垣間見る事が出来た。

 二人の男達は居住地内で権力闘争を行っている間柄であり敵対する派閥なのだろう。

 見ての通り仲は悪く今回の出来事によってサリアを引き連れた男は組織内部で一歩リードしている、可能性としてはそんなものだろう。

 であればアランが行うべきは対抗馬であるもう一人の男との間に信頼関係を築く事。

 そうすればサリアとは別ルートでの情報収集が可能になり想定よりも早く任務を終える事が出来るだろうとアランは考えた。


「俺はこれからボスに大事な報告がある。細々とした事は任せたよ」


「……寝首を掻かれない様に気を付ける事だな」


「おお、怖い怖い」


 そう言って男達の睨み合いは険悪な雰囲気のまま終わり、サリアを引き連れている男は再び居住地を歩き出した。

 そして男の足はアンドロイドの目的地でもある建物を前にして止まり、男は後ろを着いて来たサリアに振り返った。


「さ~て、此処に入ったらもう二度と出る事は出来ない。死ぬまでな、どうだ、怖いか? 今更泣いても無駄だけどな」


「……いいえ」


「チッ、いい度胸だ。さっさと中に入れ」


 不安と恐怖で泣かなかったサリアの表情が気に食わなかったのか男は見短い舌打ちの後に建物の中に入る。

 その後を付いて行く様にサリアも建物の中に足を踏み入れ、その直後に急激に電波状況が悪化すると同時にアランとの通信回線に異常が生じた。


『4th、通信に障害が見られますが何か問題が起きましたか?』


『此方には問題はない。恐らく建物自──備わった防諜機能のせい──う。劣化はしている───が其処は準軍事施──、通信が困難な場合は何とか外に出てくれ。それと──……』


『4th、聞こえていますか?』


 男に従う振りをしなければならないサリアは下手に足を止める事が出来ず通信状態が悪いまま建物の中を進み続けた。

 そしてサリアとアランの通信は建物内部を進んで行く途中で完全に途切れた。

 サリアからアランに向けて何度も通信を試みるが返事は一切返って来ない。

 それはバックアップとの連絡が完全途絶えた事を意味しており、アランからの協力、助言を得る事が不可能になった事をサリアは理解した。


「お前、嫌に大人しいが何か考えているのか」


「そんな事はありません。それにしても……此処は酷いですね」


「はっ、お前も直ぐに奴らの仲間になるんだよ。まぁ、お前ほどの見てくれの良さならボスのお気に入りになるのは確実だがな」


 此処から先はアドリブで進むしかないと判断したサリアは継続して建物内部を調査した。

 結論から言えば建物内部も外と同じ様に多くの人間が捕らわれ男達の慰み者になっているのは同じだ。

 だが、特筆すべきは支配者である男達の身形が整っていた一点に尽きる。

 どうやら建物に踏み入る事が許されるのは一定の資産か或いは武力を持った組織に限定され拠点を構えられることが一緒のステータスになっているのだろう。

 建物の外で提供されていた食事とは比較にならに程に手間暇を掛けて調理されただろう料理や飲料が提供されている。

 そして男達に給仕する女性も見目麗しい者ばかりであるが、その顔にはぎこちない笑みが張り付いていた。


 そうした分析を行いながらサリアを男の後ろを追うように建物の更に奥へ進んで行くと大声と共に売られた人を競り落とす声が幾つも聞こえていた。

 此処は競売所であり商品として競りに出されている人間の境遇は様々であった。

 人攫いに捕まった者、口減らしとして売られた人、略奪によって捕らわれた人。

 様々な場所から連れ去られた人々は全ての権利を奪われ、此処では人では無く物として扱われていた。


 もしこの光景を見たのがノヴァであれば何かしらの行動を起こしただろう。

 だが此処に捕らわれた人間達の境遇に対してサリアが思う事は何一つ無かった。

 今のサリアにとって大切なのは行方不明となったノヴァを見つけ出す事であり、その為にこの建物の何処かにあるだろうアーカイブを発見して回収するのが使命なのだから。

 何より作戦中に見知らぬ人間が不幸な境遇に捕らわれていようとサリアには手を差し伸べる義理もなければ義務もない。

 視界に映る幾つもの悲劇を無視してサリアは男に付き従い建物の奥へ進んで行く。

 そしてサリアの目の前を歩く男は一際大きな扉の前で一度立ち止まった。


『網膜・指紋認証を確認。ゲートを開放します』


 備え付けられたスピーカーからノイズの混じった人工音声が承認を告げると同時に金属製の重い扉が開く。

 開かれた扉の内部には中央にある制御盤を中心に幾つもの檻が並べられていた。

 檻の中には人間が閉じこめられており、施設のセキュリティーが部分的にまだ稼働している部屋は商品である人間の保管庫として利用されているようであった。

 部屋の中には今も稼働する監視カメラが幾つも商品を見張り、武器を持った男達が檻に入った人間を監視していた。


「おい、お前はこっちに来るんだよ!」


 此処までサリアを連れて来た男が一つの檻の前で大きな声を出す。

 サリアは目の前にある檻の中に一時的に捕らわれるのであろうと予測した。

 作戦に従うのであれば此処は大人しく捕らわれて情報収集に努めるべきと考えたサリアは男の言う通りに自ら檻の中に捕らわれようとした。


「いや、離して! 娘を離してよ!」


「ママ、ママ!」


 だがサリアの脚は檻の中に入る途中で止まった。

 部屋の中に幾つもの怒声が飛び交い、人であれば何処から聞こえて来たのか見当もつかない程に騒がしい部屋の中であったがアンドロイドであるサリアには問題がなかった。

 論理的な思考を置き去りにして急ぎ向かった先にいたのは小さな子供と女性、引き裂かれる寸前の親子がいた。


「あ、なんだ──」


「その手を放しなさい」


 子供の髪を遠慮なく掴む男の片腕をサリアは掴んでいた。


「おい、商品が勝手に──」


 突然走り出したサリアを追い掛けて来た男達は息を切らせながら怒りの表情をしていた。

 だが勝手に走り出したサリアが立ち止まり何を見ているのか気付いた男達は怒りを通り越して困惑した。


「お前はアレを気にしているのか? こんな光景は此処では有り触れたものだ。気にしていたら身が持たないぞ」


「貴方達は親子を引き離して何も感じないのですか?」


「それがどうした? セットだと売れないからばら売りしているだけだ」


 男達はサリアが何を言っているのか理解出来ずに頭を悩ませた。

 それはサリアが腕を掴んでいる男も同じであり不思議そうな顔をしてサリアを見た。

 その表情を見てサリアは理解した、この様な所業がこの場所に置いての普通であり常識であるのだと。

 だが男達の常識にサリアが従う道理はなかった。


「その手を放しなさい」


「お前、捕まって頭がおかしくなったのか?」


「三度目です。放しなさい」


 サリアは声を荒げる事無く告げるが、男は掴んだ子供の髪を離す事はなかった。


「離す訳ないだろ。さっさとお前も檻に入れ」


 それどころか鬱陶しいとばかりに腕を掴んだサリアを殴り飛ばそうと反対の腕を振り上げて殴り掛かり──その拳はあっさりとサリアの片手によって止められた。

 見下していた女に己の拳を簡単に受け止められた、その現実を理解しきれていない男は信じられない物を見る様な目でサリアを見た。

 対するサリアは先程の攻撃を以て目の前にいる男が明確な敵であると認識すると同時に男の拳と子供を掴んだ腕を容赦なく握り潰した。


「あ?」


 最初に男が感じたのは違和感だった。

 肉と骨が潰れると生々しい音と同時に腕と拳の感覚が無くなり、一体何が起こったのか男は理解出来なかった男は一拍置いて潰された自らの拳と腕を見た。

 そうして露になった骨と肉を見ると同時に激痛が走り、反射的に叫ぼうと口を開き──その無防備な顔面にサリアの拳が突き刺ささる。

 男から解放された子供を抱き寄せた状態で放たれたサリアの拳は態勢の不利を物ともせず男の下顎を砕き、その威力を余す事無く伝えられた男は殴り飛ばされた。

 体躯のいい成人男性が錐もみ回転をしながら宙を飛び、雑に積み上がられたガラクタの山に勢いよく突き刺さった。


「お前、一体何を──」


 それは只の人間では実現不可能な芸当であった。

 そんな光景を間近で見せ付けられた男は何かを呟こうとした。

 だが男が最後まで言葉を言い切る前に放たれたサリアの貫手が男の胸を貫いた。


「おい、嘘……だろ」


 一体何が起こったのか、自分がどうなっているのか理解が追いつかない男にサリアは冷めた視線を向けた。

 そして胴体を貫いた手を引き戻したサリアの細腕は真っ赤に染まっていた。

 肺と心臓といった重要臓器を破壊された男はぽっかりとあいた胸の穴から大量の血を噴き出しながら倒れた。


「……おい、笑えないぞ。なんで倒れて──」


 ありえない光景を前にして先程死んだ男の取り巻きが口を開く。

 本人も何を言っているのか理解していないのか口調は混乱しており顔は引き攣ったままであった。

 そして男が晒す無防備な姿はサリアにしてみれば大きな隙でしかなかった。

 抱き留めていた子供を離すと同時にサリアの右腕は背中に隠し持っていた片刃の直剣を握り男達に振るう。

 抵抗は無かった、小型化に成功した高周波ブレードは甲高い音を響かせながら男達の肉と骨を容易く切り裂き、首を刎ねた。

 斬られた男達は最後までサリアが持っていた剣が只の刃物ではないと気付くことなく此の世を去った。

 転げ落ちた頭部は何が起こったのか理解出来ないまま驚愕の表情に塗り固められ、立ち続ける事が出来なくなった男達の身体が床に勢いよく倒れ込んだ。


「大丈夫ですか」


「う、うん」


「良かった、なら早くママの所に行きなさい」


 サリアは男に掴まれて乱れた子供の髪を整えると母親の所まで手を引いてあげた。

 そして子供の母親を拘束していた男は近付くサリアに言い知れない恐怖を抱き、拘束していた母親を放りだして脱兎の如く逃げていった。


「あ、ありがとうございます、ありがとうございます」


 拘束から解放された母親は戻って来た我が子を強く抱きしめた。

 そして子供を助けたサリアに感謝の言葉を何度も繰り返し──、だがその眼にはサリアに対する恐怖がありありと浮かんでいた。

 だがサリアは何も言わずに親子から視線を外すと貫手によって殺した男の下に近付いた。


「おい、一体クソ女何をして──」


 その時になって漸く異常を感知したのかサリアを囲むように商品の監視を任されている男達が集まり、各々の武器をサリアに突き付けた。

 だがサリアは男達の威嚇に怯える事無く剣を振るい男の片腕を切り落とし、死後硬直を起こし掛けた男の顔から眼球を抜き取った。

 その猟奇的な行動に男達は誰もが怯え、歩き出したサリアを避ける様に包囲を解いてしまった。


 ──それが施設に集った男達の命運を決めた。


「此処のシステム認証は指紋と網膜認証の二つだけ、簡単なシステムで助かりました」


『システムの認証を確認、職員番号1121-5698には権限は──、ガガ、ガガガ──、不正なアクセ──、正規コードの入力を──、権限更新──、本システ──電子攻撃を──』


 部屋の中央に設置された制御盤の前に立ったサリアは片腕と眼球を使って正規の手段でセキュリティーを突破する。

 そして露になったシステムに対してハッキングを実行しサリアがセキュリティーの全てを掌握するのに時間は掛からなかった。


『システム権限を更新、最上位権限保持個体『サリア』によるを非常事態コードを受信、これより施設は情報保護の為に自閉モードに入ります』


 不気味な人工音声のアナウンスが終わると同時に施設が動き出す。

 今迄利用されていなかった施設防衛用プログラムが作動、施設の至る所で隔壁が持ち上がり享楽に浸っていた男達を寸断し閉じ込める。

 そして格納されていた侵入者迎撃用の機銃が天井から現れ、長年に渡り犯罪者の巣窟として利用されてきた施設が新たな主人の下で動き出す。


「な、何を──」


 現状を全く理解出来ていない何処かの誰かが口を開き──その瞬間に機銃から放たれた弾丸が男達の全身を貫く。

 一瞬にして犯罪者の楽園であった場所は積み重ねた罪を清算する処刑場へと姿を変えた。


「貴方達親子は暫く何処かに隠れていなさい」


 サリアの言葉を聞いた母親は何も言わずに何度も頷き、サリアの前から遠ざかっていく。

 それを掌握した監視カメラで見届けたサリアは高周波ブレードを構え直した。


「仕方がありません、作戦プランを変更しましょう」


 そう呟いたサリアは悲鳴と叫びが行き交う処刑場の只中に軽やかな足取りで踏み入れた。

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