第148話 決着

 大型貨物輸送路は大型シェルター<ザヴォルシスク>を建造する際に発生する採掘土砂や必要となる建設資材等を大量に輸送する為に縦横共に非常に大きく建造された。

 その大きさはノヴァが設計製造したAWが余裕をもって通過できる程である。

 しかしシェルターが帝都と呼ばれるようになってからは崩壊の危険性があるとして大型貨物輸送路は厳重に封鎖された。

 だが崩壊の危険性は全く嘘であり真実は帝都上層部が大型貨物輸送路を利用してクリーチャーの母体となる大型個体を配置する為であった。

 その結果として広大な通路を贅沢に使用した産卵場所には数多くのクリーチャーの幼体が収まった卵が溢れかえった。

 そしてクリーチャーの個体数がメトロ全体で一定値を下回った時に羽化する様に調整を施されていた卵から生まれた幼体はメトロの闇に溶け込み、帝都が密かに使役した。


 だが大型貨物輸送路にあったクリーチャーの母体である大型個体もクリーチャーの幼体が収まった無数の卵も今は存在しない。

 ノヴァの救出の際に障害になると判断されAWによって根こそぎ処分された結果、踏み潰され、焼け焦げ、粉砕された幼体に加え母体となる大型クリーチャーのバラバラにされた無残な死体が散乱している。

 大型貨物輸送路の中は惨憺たる有様へと成り果て、それは三本ある大型貨物輸送路全てに共通していた。

 結論から言えばクリーチャーはAWによって文字通り全滅させられた。


 そんな惨劇の場と化した大型貨物輸送路の中をノヴァの搭乗するAWが高速で飛行している。

 それは融合体とその他大勢いる取り巻きと戦う戦場を帝都から地上へ移す為でありノヴァが突貫工事で立案した作戦に基づいた行動である。

 そして作戦は今の所順調に進行していた──融合体の変化を除けば。


「うわぁぁああ!?!? 更にグロテスクになっているぅぅうう!?!?」


「通路に散乱している死骸を一つ残らず食い尽くそうとするとは凄まじい食欲ですね」


「冷静に分析──するのは間違っていないけど急いでぇぇええ!」


 大型貨物輸送路に逃げ込んだ時点で既に赤黒い肉の繭に歪な手足が何本も生えるというある意味で冒涜的な姿をしていた融合体。

 それだけでも全身に鳥肌が立つ程に恐ろしく狂気に呑まれそうなるのに融合体の変化は止まらなかった。

 大型貨物輸送路に散乱しているクリーチャーの死骸を餌と見なして見境なく吸収して肉体が増殖。

 通路という縦横の制限がある中で融合体は身体を伸ばす方向に変化した姿は細部に目を瞑れば蛇──いや、百足の様にしか見えない。

 長大な肉塊から歪な手足が幾つも生えながら蛇行して移動する。

 虫にある程度の耐性があったノヴァの許容範囲すら軽くぶち抜いた異形の姿を見てしまってから生理的嫌悪と恐怖が綯交ぜになったノヴァの悲鳴がコックピットから鳴り止む事は無かった。


「エドゥアルドォオオ!! これは一体どういう事だぁあ!」


 最早取り繕う余裕すら無くなったノヴァは通信で拘束され移送中のエドゥアルドに呼びかける。

 現状で一番融合体に詳しい科学者の知識によって何とか現状を変えようとノヴァは画策し──たが実態としては現実逃避を兼ねた泣き言であった。

 その事実にノヴァ自身が気付く事もなく、また通信相手であるエドゥアルドもノヴァの精神状態を放置してAWから送られる映像を興味深そうに観察していた。


『これは……、私にしても予想外です。エイリアンの細胞は一定の範囲内で環境に適応する事は判明していましたが……、これほどの変化は想像していませんでした』


「じゃあアレはエイリアンではなくて男が保有していた特殊な細胞によるものか!? そうなのか!?」


『長命化施術に用いた細胞は其処まで特異なものではありません、ですが治癒能力と身体能力を向上させるために埋め込んだ細胞とも違う。他にクソ野郎に仕込んだのは……テレパシー関係か?』


「該当するものはあったのか!? なかったのか!?」


『……そうですね。該当する細胞に心当たりがありませんが現状を分析する限りだとその融合体に起こっている現象は──』


「つまり何だ!?」


『────さっぱりわかりません』


「勿体ぶって話すなぶっ殺すぞ、クソマッド!!」


 通信相手であるエドゥアルドをノヴァは本気で殺そうと思った。

 だがノヴァの殺意がエドゥアルドに届くよりも先に融合体が動き出す。


「融合体より高熱源反応」


「ああもうまたか! ミサイル信管設定! 高熱源反応を示した部位!」


 現在ノヴァの登場するAWは大型貨物輸送路内を飛行している。

 だがそれはアンドロイドの演算能力によって可能になった物であり僅かでも制御を誤れば機体のバランスが崩れ衝突する危険な行動でもある。

 その為移動中はなるべく戦闘行為を行いたくないのだが融合体にしてみればノヴァの事情など知った事ではない。

 そして機体の後部カメラとセンサーを通して融合体の攻撃準備を察したノヴァは対抗策としてミサイルの信管を設定し直し、発射権限をサリアに引き渡す。


「目標設定完了、ミサイル発射」


 サリアの声と共に機体のバックパックから放たれたミサイルが後方へ向かって飛ぶ。

 融合体との間にある距離をミサイルは一瞬で縮め、反応を示した部位に突き刺さり食い込んだ弾頭がノヴァの設定に従って爆発する。

 ミサイルの弾頭に仕込まれた爆薬と熱源が合わさり融合体の身体が勢いよく爆ぜる。

 肉片と共に取り込んだエイリアン製の銃器が鱗の様に通路に落ちていき融合体のミサイル命中部位の攻撃が中断される。

 しかし全て反応があった場所を破壊出来た訳ではなく、ミサイルから逃れた部位の肉が勢いよく盛り上がる。

 そして盛り上がった肉を突き破って中からエイリアン製の銃器が束となって姿を現す。

 銃器を掴むのは歪な出来損ないの手、それが銃の引き金を引き光弾の弾幕射撃がAWに向って放たれる。


「機体の姿勢を変更、盾による防御を行います」


 広範囲に散らばる光弾の一発の威力自体は低く、数によって補う攻撃は理に適っている。

 全弾回避は困難な程に散らばった攻撃全てを回避するには通路は狭く、仮に避け損なえば飛行中のAWにとって命綱である背部バックパックが損傷する。

 僅かな損傷であれ飛行能力に悪影響が出る可能性があり、そうなれば今の様な逃避行は続けられず融合体に追いつかれノヴァが搭乗するAWが破壊される可能性がある。

 それを防ぐためにサリアは危険を承知の上で機体を操作して融合体と相対、放たれた光弾の弾幕を盾によって防いだ。


 着弾した幾つも光弾が盾の表面で弾け装甲を鑢の様に削り落としていく。

 だが融合体の方も無限に射撃が可能なわけではなく、弾倉を使い切った銃器から次々と射撃が止まっていく。

 そして射撃が止まった僅かな瞬間を狙ってサリアは盾に内蔵されたバルカン砲を融合体に向けて放つ。

 多連装銃身により放たれる砲弾の雨が融合体に向って突き進み、攻撃を行った部位をズタズタに引き裂き無力化する。

 それを見届けたサリアは再び機体を反転させると飛行を再開した。


「ノヴァ様、ミサイルが尽きました」


「チクショウ、ミサイルコンテナをパージ。嫌がらせとしてぶつけてやれ。それと護衛のAWにも射撃に加える! だが背面走行は速度が落ちるから短時間に留めろ!」


「了解」


 融合体による攻撃を凌いだノヴァであるが旗色は悪い。

 振り返らずに撃てるミサイルは底を尽き、残る攻撃手段は盾に仕込んだバルカン砲と電磁砲のみ。

 威力はあるものの一度に投射できる火力には限りがあり次の攻撃を防ぐのは困難になる事は簡単に予想できた。

 火力を補うためにも先行させている護衛機体も迎撃に参加させるが通路の広さと咄嗟の回避行動の為の空間を確保するなら一機が限界である。


 ────だが悪い知らせばかりでも無い。


「地上まで残りは!」


「34,000、残り僅かです」


「よし! タチアナ、そっちはどうだ!」


『キャンプの避難は完了! 他のコミュニティーにも可能な限り通達しましたが詳細までは分かりません!』


「それで十分! 義理は通したから文句は言わせない!」


 大型貨物輸送路で繰り広げた逃走劇も終わりが近い。

 人間であれば34,000mは遠すぎるが飛行するAWの速力からすれば短い距離でしかない。

 それでも残り時間と融合体の今迄の攻撃パターンから考えて地上に出るまでに後一回攻撃されるのは確実。

 だが逆に言えばあと一回だけ凌げれば時間十分なのだ。

 そして脱出まで残り僅かな時間を残してAWのセンサーは融合体が攻撃態勢に入った事をノヴァに知らせる。


「再び高熱源反応」


「出だしを潰せ!」


 ノヴァの言葉と同時に二機のAWが機体を反転させ熱源反応がある箇所全てに攻撃を叩きこむ。

 融合体の身体に突き刺さった弾丸とミサイルによる爆発と衝撃によって幾つもの肉片と中に埋まっていた銃器が通路に撒き散らされる。


「よしこれで──」


「高熱源反応、消滅していません」


「嘘でしょ!」


 短時間の攻撃ではあったが懸念された融合体の攻撃を事前に防ぐ事に成功。

 これで後は移動に専念できると考えた矢先にサリアによって報告された情報にノヴァは目を疑った。

 しかしAWのセンサーは確かに体内の奥深くで非常に高い熱源を検知している。


「本当、いやこれ、自爆覚悟の攻撃か!?」


 体表付近に観測された熱源とは違う、体内の奥深くに貯め込まれた熱量からして火砲クラスの熱源が複数あるのは間違いない。

 だが融合体の肉体には砲口らしき部位を生成するといった肉体変化は観測されていない。

 それが意味するのは一つ、自傷を織り込んだ攻撃を融合体は企んでいるのだ。

 ギリギリまで体内に格納して攻撃時は周りの肉体を吹き飛ばしてまでノヴァを堕としたいのだ。

 その殺意に肝を冷やしながらもノヴァは残された僅かな時間で打開策を見出さなければならない。

 だが観測結果からして発射までの時間は極僅か、機体を反転する時間は残されていない。


「ああもう! 全護衛機体にあるありったけのミサイルを撃ち出す! サリア、当たらない様に機体を操作してくれ!」


「了解」


 ノヴァは付与された権限に基づいて護衛機体に搭載されている残りのミサイル全てを即座に発射、先行する護衛機体から発射された大量のミサイルが前方から押し寄せる。

 それらのミサイルの機動をサリアに共有させて回避させると同時にノヴァはミサイルの信管を設定し直す。

 そして回避したミサイル群が背後にいる融合体に突き刺ささる直前で体内に温存していた火砲が放たれる。

 自身の肉体を勢いよく吹き飛ばしながら放たれた幾つものエネルギーの砲弾がノヴァに迫る。

 だがノヴァの設定によって融合体の直前で起爆したミサイル群の爆発により砲弾は誘爆を強制的に引き起こされる。

 誘爆による局所的な爆発は大型貨物輸送路内を埋め尽くす程の炎を生み出し融合体の身体を燃やし、剥き出しになった内部組織を炙った。

 しかし炎自体は即座に消えた事で融合体が負ったダメージは少なく、それどころか有り余る程にある再生能力の力押しで自傷すら即座に回復して見せた。


「大型貨物輸送路の出口です」


 だが発生した局所的な爆発は融合体にダメージを与えるだけでなく飛行するAWの最後の後押しとなった。

 爆発によって押し出されたAWは最後の加速を経て大型貨物輸送路の出口を突き抜ける。

 生憎、雪が降り注ぐ曇天の空模様であったが先程までいた通路とは違いは天井が存在しない空は広く果てが無い。

 そんな空を見た事で張り詰めていた緊張が解けたノヴァはコックピットに深く凭れ掛かりながら大きく息を吐いた。


「うう、漸く地上に出られた……。もうアレと顔を突き合わせなくて済むんだ……」


「お疲れ様です。目標地点に向けて移動しますが誘導の為の攻撃は継続しますか?」


「継続してくれ、機動に制限はかけないから融合体とは程々の距離を保っておちょくってやれ」


「了解です」


 機動に制限が掛けられた通路とは違う、地上に出た事でAWの本来の機動が可能になり融合体の攻撃を事前に止める必要は無くなった。

 弾幕射撃や幾ら高威力の砲撃を撃ち出そうと障害物にない上空であれば余裕を以て回避を行えるのだ。

 そうして比較的安全な上空に逃げ出せた事で余裕を取り戻せたノヴァであったが脱出してから暫くすると別動隊である『サイサリス』からの通信が届いた。


『報告、偵察機が地上に出現する敵の集団を確認。現在の集団は4つ、それぞれが融合体を目指して移動を開始』


『サイサリス』からは報告と共に地上を移動する敵集団の映像が送信される。

 偵察機から送られた映像は上空から撮影されたものでありノヴァの目にも地上を移動する黒いシミの様なモノが良く見えた。

 そして黒いシミを拡大してみれば数えるのが馬鹿らしくなる程のクリーチャーやエイリアンが其処にはいた。

 百鬼夜行、或いは地獄の黙示録とでも言うべき怪物達の行進は融合体を目指しており、その集団が映像によれば4つもあるのだ。


「うわぁ……、釣れたけど、やっぱり多いな」


『攻撃を行いますか?』


「戦闘可能地域に入るまでは監視に留めて。入ったら即攻撃開始するよ」


『了解』


 ノヴァが命じれば『サイサリス』は即座に攻撃をするだろうが場所が悪い。

 それ程までに『サイサリス』が搭載している兵装は凶悪であり、廃墟しかないとはいえザヴォルシスクの中で攻撃させた場合にメトロに想定外の被害が出る恐れがある。

 それを防ぐためにも攻撃開始地点の選定は大事であり、問題が生じないであろう場所に辿り着くまでは攻撃を控えるつもりでいた。

 そして地下から脱出した後に始まったのは今迄と比べたら微温湯にしか感じられない逃走劇である。

 サリアと護衛機体が適度に融合体に攻撃を加えてヘイトを稼ぎ、反撃として放たれた攻撃は逃げ場の多い上空にいる事もあって余裕をもって回避し続けた。

 そんな怒り狂う融合体と余裕を感じるノヴァ側のAWとの戯曲化染みた逃走劇が終わりを告げたのは融合体を追っていた敵集団が戦闘可能地域に侵入した瞬間であった。


『敵集団、戦闘可能地域に侵入しました』


「了解、『サイサリス』は攻撃を開始せよ」


『了解』


 ノヴァの命令を受領した『サイサリス』は僅かな時間を置いてから攻撃を開始。

 放たれた弾頭が敵集団を目指して飛翔し──そして全てを薙ぎ払った。


「シミュレーションでしか見た事がなかったけど……、我ながらヤバい物を作ったな」


 コードネーム『サイサリス』、第二世代AWをベースにして特殊装備である燃料気化爆弾を装備・運用する為に開発されたAW。

 搭載する燃料気化爆弾が産み出す衝撃と高熱に耐える為に装甲は強化され重量増加した機体を動かすために装備された大型スラスター。

 文字通り機体の正面で高熱と衝撃に耐える盾は機体を覆う程に巨大化し内部に循環する冷却材が盾の溶解を防ぐ。

 そして開発目的である特殊弾頭が内蔵された弾頭を背部のバックパックに格納し分割された専用発射機を組み立てる事で撃ち出す。

 正に特化機体とも言うべきAWであるが完成を見届ける前に帝国に飛ばされたノヴァは今日初めてその活躍を目にした。


『敵集団Aの約83%消滅、敵集団Bの約76%消滅を確認。再度攻撃に移行』


 再度行われた攻撃によって生まれた火球がその下にある全ての生命を蹂躙する。

 空気中に存在する酸素を根こそぎ奪われての窒息死、発生した衝撃波による圧死、発生した高熱によって燃焼を通り越して全身が炭化し、免れたとしても蒸し焼きになって殺され、一帯の真空化によって肺が破裂した。

 其処には慈悲も情けも一欠けらも存在しない。

 キノコ雲が立ち昇る遥か下には死体しか残らなかった。


「本来想定した運用方法とは違うが……、問題はない。『サイサリス』は攻撃を継続して敵集団を殲滅せよ」


『了解』


 ノヴァの命令に従い遠くで再びキノコ雲が立ち上る

 常識に従うのであれば燃料気化爆弾は大型ミサイル等の誘導体に搭載し遠距離から投射するべきである。

 だが大型ミュータントの対空性能に加え全容が解明されていない上空からの攻撃を避ける為にAWに搭載して運用する事になった必要に迫られて生まれたのが『サイサリス』である。

 そして本来の『サイサリス』は大型ミュータントの取り巻きを即座に排除して対大型ミュータントに特化した後続部隊に引き継ぐ運用になる予定であった。

 だが現状において大量の敵を殲滅するのに適した装備をしているのは『サイサリス』のみであり、その目論見は減り続ける敵集団を目にすれば正しかった。


「これで融合体の補給は文字通り途絶えた。全機、全力攻撃開始」


 そして融合体との戦いも最終段階に突入、ノヴァの命令によって融合体を中心に12機のAWが取り囲み攻撃を開始する。


『GYAAAA!?!?』


 12機のAWによる攻撃が絶え間なく放たれ巨大化した融合体の肉体を引き裂く。

 回避しようにも何処にも逃げ場が無く、戦場から離脱しようとした融合体の手足は容易く吹き飛ばされた。

 それは戦いとは呼べない一方的な攻撃、或いは融合体の解体とも言うべき作業染みた攻撃である。

 少しずつ少しずつ融合体の肉体は削られ小さくなる、流された血で雪は赤く染まりながら融けていく。

 反撃も逃走も許されない、此処に至って融合体は怨敵に死地に誘われたのだと理解した。

 このままでは己は殺される、滅ぼされると考えた融合体は打開策を考え肉体の一部を変化させ始めた。


「敵の肉体変化を確認、変異しようとしています」


「該当場所に集中攻撃」


 融合体の肉体で盛り上がった場所に向けて幾つもの攻撃が放たれ命中する。

 肉を吹き飛ばし血を撒き散らし、だが損傷を上回る再生によって変異を行う場所は固く守られた。


「肉が分厚いな、それに加えて外皮を強化しているのか」


 再生するだけで無い。

 傷口を覆う様に固く変化した体表が幾重にも重なり装甲を形成する。

 それは電磁砲であっても装甲を何枚か割る程度に収まってしまう程に強固であり、傷口を起点にして融合体は全身を組み替えようとしていた。


「『バスター』射撃開始」


『了解。射撃開始』


 だが射線上にあった幾つもの廃墟を融かし貫いた極光が融合体の肉体を文字通り消し飛ばした。


『GyaAAaAA!?!?』


 強固な装甲など意味は無いと言わんばかりに頑強になった肉体に大穴を作り、射線上にあった雲を貫いた極光。

 それを放ったのは『サイサリス』と同様に特化機体として開発された『バスター』。

『サイサリス』が燃料気化爆弾による広域殲滅を目的とした機体であるのに対し『バスター』は強固な単一個体の撃滅を目的として開発された機体。


 腰部に搭載する大型プラズマ兵器の運用に特化された本命のAW。

 プラズマ発生に必要となる大電力を賄うために専用の電力供給と観測手を兼ねた二機のAW。

 護衛と高熱によって損傷する砲身を取り換える為のAW一機。

 計4機のAWが揃って初めて運用可能な『バスター』は『サイサリス』と比較すれば特化機体としての完成度は高くない、ある意味で未完成とも言える機体である。

 だがそれを補って有り余る程の高威力の砲撃を遠距離から放てる一点において対大型ミュータント用の兵器として優れていた。

 そして融合体との戦いにおいても有用性を遺憾なく発揮して変異部位を抵抗も許さずに消し飛ばした。


『砲身融解を確認、予備砲身への換装と並行し電力充電を開始します』


「よし、『バスター』は準備が完了次第即座に砲撃」


『了解しました』


『此方『サイサリス』、敵集団の殲滅を完了』


「了解、それじゃこっちの攻撃に加わって」


『了解』


 もはや融合体に勝ち目など無い、──だが砂粒一粒程には融合体にも可能性はある。

 そんな僅かな可能性さえ潰す様にノヴァは融合体への攻撃に『バスター』と『サイサリス』を加える。

 融合体の肉体を砲弾が貫き、火球が全身を焼き尽くし、極光が肉体を消し飛ばす。

 思考能力は削られ逃走どころか再生すら間に合わない、全てが致死の攻撃の嵐に包まれながら融合体は声なき悲鳴を上げた


『──!? ────!?!?』


「アニメの様に……とは口が裂けても言えないな。───だけどお前は逃がさない、今日此処で、俺が用意できる火力を総動員して、お前を殺す」


 フィクションで描かれるロボット達の様なヒロイックな活躍とは程遠い蹂躙劇がノヴァの見下ろす戦場で繰り広げられる。

 それから暫くして融合体は文字通りノヴァによって滅ぼされた。

 度重なる高熱によってガラス化した戦場に残されたのは融合体であった黒く炭化した肉体の欠片のみ。

 其処には生命の息吹は無く、只々死の気配のみが充ちていた。


「成仏してくれよ」


 後にメトロでは帝都事変と呼ばれる一連の騒動。

 その終わりとなった戦場の上空でノヴァはAWの中で一言だけ取り込まれた男を思って呟いた。

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