第140話 純粋な暴力

「……アレは何だ?」


「お前知っているか?」


「私が知る訳ないだろう! 誰かアレを知っている者はいるか?」


 社交界に集った彼らはディスプレイに映される名も知らぬ人型の巨大な存在から目が離せなかった。

 AWと名付けられた巨人は帝都に生まれ、帝都で一生を終える彼らには知る余地もない代物である。

 だが不思議な事に、前例の全くない異常な事態が起きたのに関わらず貴族達は大きな混乱を起こす事は無く会話を行っていた。

 それは理解が追いついていない事もあるが、突如として現れた存在が攻撃をするでもなく動きを止めていたからも大きな理由ではあった。




<作戦地点である帝都への侵入、現時点での状況共有を行います>




 だが何もしてこないからと言って簡単に見過ごせる代物ではない。

 特に自分自身と帝都の境目が無くなった総統と呼ばれる男にとってはAWは自らの領域であり領土に不法侵入を犯した侵略者でしかないのだ。


「……何故侵入を許した。奴らが現れた通路には制御下にある生物兵器が配備されていた、どうして報告が上がってこない」


「……た、た、担当、部署からは観測計器の故障だ、と通知連絡が、来ています」


 総統の問いに対して傍に控える側近の一人が恐怖で喉を詰まらせながら返事をする。

 その言葉が目の前の人物の怒りを買う言葉と理解している、理解しているからこそ矛先を自分ではなく部下に向ける為に現場の責任であると側近は必死に弁明を行った。

 事実としてあの正体不明の存在が出現してから通過を許した大型貨物輸送ルートの担当者から思い出した様に雪崩の如く様々な報告が突如として舞い込んでいる。

 これだけあれば現場の怠慢が招いた問題であるのは誰の目に明らかである。


「聞き間違えたようだ。もう一度言ってくれ」


 だが総統と呼ばれる男は優しく弁明を聞き入れてくれる相手ではなく、そうであるからこそ今迄権力の座を維持し続けてきたのだ。

 底冷えするような目で睨みつけられ、恐怖で喉を痞えさせながらも側近は如何に現場の失態が大きなものか、それを自分達が現在必死になって対応している事を伝えようとした。


「た、たた、担──」


 だが側近が言い終わる前に正体不明の相手は此方の都合など考慮もせずに行動を起こし、事態は動き出した。




<第2小隊の情報を受信。第1、第3小隊は作戦行動に遅延が見られる。第2小隊は先行して作戦を展開せよ>


<命令を受信。これより第二段階に移行します>




 正体不明の存在、巨大な人型の何かが背後から青白い炎を噴き出して飛んだ。

 そう飛んでいるのだ。

 その場で跳び上がっているのではない、巨大な人型の何かが継続的に宙に浮き続けて飛んでいる。

 そんな信じられないような映像をディスプレイに集った誰もが呆気に取られて見る事しか出来なかった。


 悪い知らせはそれだけではない。

 青白い炎が黒煙を吹き飛ばし視界が明らかになると其処には同じ巨人が二体もいたのだ。

 同時に誰もが息を呑んだ。

 そして先に飛んだ巨人に続くように二体も飛び上がり、計三体となった巨人が帝都の空を飛んだ。


「……弁明は後だ。アレを排除しろ、今すぐに」


「りょ、了解しました! 部隊の全力を以て不法侵入者の排除に当らせます!」


 一体だけでも対応に苦慮するだろう巨人が三体もいる。

 想定外の事態に口を閉ざしてしまった側近は直ぐに我に返るも悠長に弁明をする時間などある筈もない。

 総統は有無を言わせずに部下に即座の対応を命じ、恐ろしき権力者の言葉で我に返った側近達は急いで動き始めた。


「それと残りの二つの経路にも警戒厳にせよ。二度とこの様な失態を犯すな」


「勿論です。担当部署へ改めて連──」


 そして残り二つある厳重に封鎖された大型貨物輸送ルートがある入口付近が大爆発を起こした。

 総統に指摘された側近が即座に懐から連絡用の端末を取り出し残り二つある大型貨物輸送ルートに配備されている部隊に厳重な警備を命じようとした直後であった。

 ディスプレイに映るのは再び巻き上がる黒煙が二ヶ所。

 そして黒煙を突き抜けて現われたのは同じ巨人が三体、二ヶ所で計六体現れたのを見てしまった側近は掴んだ端末を地面に落とした。




<第1小隊、帝都へ侵入完了。作戦経路上に展開する大型ミュータントの排除に時間を取られました>


<第3小隊、帝都へ侵入完了。作戦経路上に展開する大型ミュータント、並びに小型ミュータントの群れに遭遇。随伴部隊の損耗を避ける為排除に時間が掛かりました>


<第1、第2小隊は作戦行動遅延を引き起こした障害に関する情報を共有。その後、作戦の第二段階に移行せよ>


<<命令を受信。これより第二段階に移行します>>




「……ふざけるな」


「……はい?」


 地面に落とした端末から現場の叫びが聞こえる。

 大型貨物輸送に配備されていた大型クリーチャー、メトロに配備された生物兵器の母体がミンチにされたと、踏みつぶされたと、取り巻きのクリーチャーが諸共殲滅された俄かには信じがたい報告が聞こえて来る。

 帝都を守り続けてきた化け物は現在に至るまで誰にも破られる事が無かった。

 敵対的な存在はクリーチャーに始末され、死体は母体の栄養源となるサイクルが永遠に続くと誰もが信じて疑わなかった。


 だが永遠であると信じていたシステムはあっけなく崩壊し、それが事実であるのだとディスプレイに映る映像が告げている。

 爆発によって吹き飛ばされ瓦礫の上に無造作に放置されたクリーチャーの母体でもあり女王でもある怪物の引き千切れた頭部が百の言葉よりも雄弁に証明している。


「ふざけるな」


「あの、閣下?」


「ふざけるな! 誰の許しを得て帝都の空を飛ぶ! 此処は俺の国だ、その汚れた脚で入ってくるな!!」


「閣下、落ち着いて下さい!」


 そしてディスプレイに映る映像は総統と呼ばれる男の神経を大きく揺るがした。

 先程までの余裕のある姿は剥がれ落ち、剥き出しの怒りが露になったのだ。

 だが男が幾ら怒りを叫ぼうと事態は何も変わらず、計9体にもなる巨人がシェルターの中を飛び続けていた。


「……落とせ」


「閣下?」


 だからこそ男は耐えられない。

 帝都である己の許可無く自由に宙を飛ぶ、それが許せるはずがない。


「今すぐアレを落とせ。その為の親衛隊だ、その為にお前達がいる、自らの役目を理解しているなら目障りなアレを、堕とせ!!」


「りょ、了解しました!」


 剥き出しの怒りを向けられた側近は条件反射の様に肯定の意を返す、元よりこの場においてそれ以外の返事など出来るはずもなく。

 そして側近は落ちた端末を拾うと全部署へ正体不明の人型に向けての迎撃命令を出した。




<第2小隊、光学映像から複数の武装集団を確認。武装は小火器のみ、脅威度は低いものと考えられます>


<映像を解析、第2小隊の判断は妥当であると考えます。現段階では攻撃は不要、目標である大型シェルターを統括する管理サーバーの制圧を最優先とします>


<了か──>


<銃火器による攻撃を認めました。脅威度は著しく低いですが対応しますか?>


<情報を解析、小火器による攻撃はAWの脅威にはなりえません。考慮に値しないものとして作戦を継続する様に>




 だが帝都に配属された部隊による攻撃は正体不明の巨人の行動を変える事は出来なかった。

 小火器は元より数少ない貴重な重機関銃であっても正体不明の巨人、AWの装甲を貫く事は出来ず放たれた弾丸は空しく弾かれるばかりである。

 帝都が保有する火器を幾ら放とうが雨粒にしか過ぎないのだと、迎撃は無意味であるのだと言外に突き付けられるだけに終わった。


「あれだけか?」


「………………」


「迎撃を命じてこの程度、この程度の迎撃しか出来ないのか?」


「閣下……、現在部隊が保有している武装ではコレが限界です。帝都と言う限られた空間において過剰な火力を持つ兵はシェルターその物を崩壊せてしまう恐れがある為、建設当時から配備されていません」


「そうか、そうか、そうか………………」


 現場はどうであれ自分達は懸命に動いている、必死になって迎撃を指揮しているのだと告げる事が出来ればと側近は考えた。

 だが言えるはずがない、言える人物が此処まで上り詰めることが出来る訳が無いのだ。

 しかし今回ばかりは無理難題にも程があるのも事実。

 自分達には逆立ちしても無理難題であるのだと告げるべきか、そう側近が考えていると不気味な声が収まった総統は酷く冷たい視線を側近に向けた。


「役立たず共が」


 それは死刑宣告。

 コイツは使えない人間であると人目を憚らずに総統は告げた。

 だが死刑宣告は側近だけに向けられたものではない。

 今回の様な不祥事を引き起こした全ての人間が総統とって不要な人物だと現時点を以て認識されたのだ。


「もう、お前達は必要ない」


 側近が何かを言っているが価値が無いと判断を下した人間の言葉など聞くに値しない。

 一片の疑問も抱くことなく、それが当然の事だと考える総統は立ち上がると自らの端末に特別な番号を打ち込んだ。

 そして僅かな時間を置いて了承、その瞬間に自分が何か別の存在に繋がった感覚を総統は感じ取る。

 それは言葉では言い表せない感覚だが恐れる事は無い。

 繋がる先にいるのは自己の意思を持たない存在であり、そうなる様に処置を施した上級個体エイリアンの脳でしかない。

 嘗ての敵であった生物の脳を生体部品として扱う事に恐れは無く、その果てに総統と呼ばれる人間不信の男が手にしたのは裏切る事が無い暴力だ。

 権力者の誰もが望み、そして得ることが出来なかった理想の暴力装置は男の権力基盤を強固な物に変えた。


「これで忌々しい奴らも終わりだ」


 そして裏切る事の無い暴力装置を手にした男の自我は際限なく肥大した。

 それだけの力があると長年の運用実績が証明しており疑う余地などありはしない。

 今回もその一例になる、なにせ相手は巨大だが僅か9体しかいないのだから。


 男は自身と繋がったエイリアンに向けて『宙を飛ぶ巨大な存在を破壊しろ』という至極単純な命令を下す。

 それで男の仕事は終わり、暴力の矛先を与えられたエイリアンは疑う事も無く命令に従い各々が持つ火器の銃口を宙に向け、放つ。

 人間が行った対空砲火とは比較にならない弾幕が空を飛ぶ先行していた第2小隊のAWに集中して命中する。

 その光景を見て漸く男は安心する事が出来た。

 これで全てが片付くと信じて顔には笑みが浮かんでいた。




<第2小隊、攻撃確認。射手は人間ではなく星外生物、エイリアンの戦闘ユニットです>


<──情報を解析、全小隊は武装を限定解除。進路上に展開するエイリアンの戦闘ユニットを優先して排除せよ>




 だが男が望んだ光景が訪れる事は無かった。

 人間が行っていた迎撃が一としたとき、エイリアンは十の迎撃を行い、対するAWは百の反撃をしてきた。

 言ってしまえばそれだけの事である。

 AWは其の巨体に見合わない俊敏な回避行動を行い、攻撃を躱す。

 そして迎撃の返礼としてAWから放たれた攻撃は最小口径の20㎜であってもエイリアンの身体を消し飛ばすには十分すぎる代物であった。


「なっ……」


 男は接続した生体部品の脳を経由してエイリアンの戦闘ユニットが凄まじい勢いで消えていくのを感じ取ってしまった。

 自らが信じた暴力が一方的に削り取られ、潰され、蹂躙されていく。

 それは最早戦いですらない、一方的な虐殺である。


「……何処だ。奴らは何処に向っている! 一体何が目的だ!!」


 己が信じていた筈の暴力がより大きな暴力によって粉砕される。

 そんな悪夢の様な光景を見せ付けられ、感じ取ってしまった男は僅かに残った冷静さえ手放し血走った目で側近に問い質した。


「進行経路を基にした予測では所属不明の武装集団は……、帝都中央に向けて進軍しています」


「守りを固めろ、親衛隊も守備兵も全て動員せよ、ありとあらゆる火器を動員せよ、帝都を死守しろ!」


 仮面を被る余裕すらない総統は側近達が聞いた事も見た事も無いような怒り狂った表情と声で叫び、誰も止める事が出来ない。

 諫めた瞬間に矛先が自分に向かう事を恐れ、故に側近達は総統の望むまま帝都中央を守備する為に部隊を展開させた。

 それが現場にどの様な負担を強いるのかなど考えない。

 それが熾烈な出世競争を勝ち抜く秘訣であり、生き残る術であるのだと自分に言い聞かせながら。




<進路上に展開するエイリアンの戦闘ユニットを排除。これより随伴部隊を帝都中央に位置する行政地区まで誘導する>


<此方、機械化歩兵中隊指揮官。目標地点に簡易なバリケード、及び敵兵力が確認されている>


<作戦に変更はありません。最短最速です>


<了解。当部隊はAWからの近接航空支援CAS後に施設へ突撃を敢行する>




 だが彼らの懸命な努力は瞬く間に一掃された。

 宙を飛ぶ巨人から放たれた攻撃が即席のバリケードを吹き飛ばし、集結途中であったエイリアンは血煙となって散っていく。

 その光景を否応なく見てしまった人間は戦意を保つことが出来ず部隊の末端から武器を捨て逃げ出していく。

 督戦隊として背後に控えていた人間の叫び声はAWが放つ轟音によって掻き消され届く事は無かった。


 そしてバリケードが吹き飛ばされた道をAWに随伴された装甲輸送車両が最高速度で駆け抜けていく。

 瓦礫を吹き飛ばし、エイリアンの死体を踏み潰し帝都中央に最短最速で到着した車両はその後も速度を緩める事突き進む。

 そして帝都の行政を一定担う行政施設の正面玄関を真っ正面から突き破って内部に突入した。




<施設内部に侵入、これより部隊を展開し目標サーバーの制圧に取り掛かります>




「所属不明──」


「敵だ!」


「て、敵の進軍を止められません! 既に中央行政施設へ侵入されています!」


「なんとしても防げ! 屋内なら人型は使えない、勝機はある筈だ!」


「了解しました! 部隊を屋内に展開させます」


 何を以て勝利とするのか、その定義さえあやふやな中で誰もが声を張り上げて新たな命令を出し続ける。

 装甲輸送車両から降りて来た統一された外骨格を身に纏った歩兵が施設内部に入り込んだ直後から現場から悲鳴の様な報告が立て続けに舞い込み続け止まる兆しは見えない。

 内部に侵入した敵歩兵に対して有効打を打とうにも事態の展開が速過ぎて対応が追い付かない。

 だが総統を前にして泣き言など言えるはずもない。

 側近達は総統の鬼気迫る気迫に呑まれながらも残存部隊を掻き集め、悪手である事を理解していながら順次屋内に展開させるつもりでいた。

 事実として総統が叫んだように巨大な人型が屋内に入れるはずもなく施設周辺の上空に警戒の為か留まっているだけである。

 あの出鱈目な火力が振るわれないのであれば屋内の戦闘は勝てると誰もが無意識に考えていた、願っていた。




<歩兵支援戦車『ガーディアン・リブートver2.1』起動。これより防衛行動に移行します>




 それが何一つ根拠もない願いであったのだと直ぐに彼らは思い知らされた。

 装甲輸送車両の後ろに連結されていたコンテナが切り離され、変形を始める。

 多脚重装警備ロボット『ガーディアン』を原型として元から施されていた改造をノヴァによって整えられ歩兵支援戦車として生まれ変わった『ガーディアン・リブートver2.1』。

 過剰な武装は排除し歩兵との共同展開を主とする小型多脚戦車は屋内に侵入しようとする帝都の部隊に対して警告を兼ねた二門の重機関砲を放つ。

 小火器や重火器とは違う重苦しい砲撃音、対戦車には力不足だとしても対人には過ぎたる火力である。

 一撃で壁を抉り飛ばし、即席の盾を粉砕し、避ける事を知らないエイリアンは手足を残して消し飛んでいく。

 そして装甲輸送車には装備された遠隔操作の回転式機関砲も加わり踏み入れた者を誰一人生きて返さない即席のキルゾーンが瞬く間に形成された。


『屋内に多脚兵器が展開されています! 突破できません!』


『凄まじい弾幕で近付けません! 増援を──』


『化け物の手足が飛んで来た!?』


『弾が貫通しない、弾かれています!』


『頭を出すな! ミンチにされるぞ!』


『嫌だ、死にたくない、死にたく──』


 現場から聞こえて来る声は悲鳴しかなかった。

 上層部が望んだ戦果は何一つ齎される事無く、それどころか屋内に入る事さえできない。

 苦戦どころではない、彼我の圧倒的な火力差によって触れる事すら叶わないのだ。




<目標サーバーに到着。これより長距離レーザー通信網への接続を行います>




「──しろ」


「か、閣下?」


「建物ごと爆破しろ、敵の注意を引き付けている間に諸共生き埋めにせよ」


 総統は光の無い目で側近に命じる。

 それが何を意味するのかわからない側近達ではない、だからこそ総統が命令した事がどれ程狂っているのか分かってしまった。

 最早、理性が無いに等しい総統の暴挙ともいえる命令に対してイエスマンである側近達であっても肯定する事は出来ない。

 避難の通達が遅れた結果、行政施設の内部には多くの人が取り残されている。

 その人々の中には側近達の親族がまだ数多く残っているのだ。


「閣下! それでは屋内に取り残された人々が──」


「お前の意見を聞いているのはない。これは命令だ、今すぐに実行し──」


 総統の命令に対する不服従は出世コースから外れる以上に命の危険がある。

 それでも命令に従えない一部の側近達によって険悪を通り過ぎ、片手に拳銃を握った一触即発の空気が形成された。


 ──だが空気が暴発する直前に社交界が開かれていた会場の照明が一斉に落ちる。


「なんだ!」


「一体どうしたの!」


 暗闇に包まれた誰もが突然の事態に慌てふためく。

 だが照明は直ぐに戻り再び会場を照らし、それと同時に会場に設置されたスピーカーから聞きなれない人工音声が流れ始めた。


『大型シェルター<ザヴォルシスク>にご在住の皆様、当シェルターの全システムは我々<木星機関>が占拠しました。戦闘を停止していただければ当方はこれ以上の武力行使を行いません。我々はシェルターの支配が目的ではなく、とある人物の発見、確保が目的です。その目的が達成されればシェルターから退去します。シェルターに在住の皆様は妨害、敵対を控えて頂き、事故防止の為に屋内へ待機して下さい。繰り返します──』


 スピーカーから聞こえて来たのは降伏勧告と言うには詰めが甘すぎる内容であった。

 それ以前に、これほどの大騒ぎを起こした原因が人探しであるなど帝都の上層部に所属する誰もが信じられなかった。


「閣下、これ以上の攻撃は──」


 だが現実として勝てる算段など全くない戦いを終える事が出来る。

 既に前線部隊の戦意は崩壊、放送を聞いた直後に部隊単位で戦闘を放棄したと連絡が次々と舞い込んで来ているのだ。

 最早満足に戦えない以上は一旦停戦を行うしかない、そう思い至った側近の一人が総統に進言しようと動き出した。


「閣下、総統閣下?」


 だが総統と呼ばれた男は側近達の前から、社交場から姿を消していた。






 ◆






<接続を確認、内部システム及び全管理権限を掌握。現時点を以て大型シェルター<ザヴォルシスク>の全機能を制御下に置きました>


<サーバー内データ閲覧、該当情報なし。

 監視カメラ映像を過去120時間、閲覧するも該当する人物は確認できず。

 帝都の外部交易記録を参照、条件に該当する交易記録を確認。

 監視カメラ映像を再確認、該当人物を格納できる容器を127点確認。

 該当容器の行先を照会、監視カメラから118件の内容物を確認。

 未確認容器9件、配送先を確認>


<サリア、聞こえますか?>


<五号、聞こえています>


<情報を共有します。お父様が帝都へ入った記録は公式には存在しません。ですが誘拐されてから暫く経って不審な物資搬入が一件ありました>


<その物資搬入に紛れ込ませる細工がされたと考えているのですね>


<そうです。そして内容物が確認出来ない容器の宛先は計3か所に分散、そのどれもが高いセキュリティーレベルです。該当施設に監禁されている可能性は高いと考えます>


<分かりました。それで私が担当する場所は何処ですか>


<公式名称は思想犯収容所、別名<処刑場>と呼ばれている施設です。残りは総統と呼ばれる人物の公邸、行政施設に併設された迎賓館です。この二ヶ所は他の部隊が担当します>


<分かりました。それと情報は常に共有する様に。ノヴァ様を見つけたら直ぐに報告をするように>


<部隊には厳命させます。此方は念の為もう一度記録を洗い直します>


<分かりました>


<…………>


<もう少しです、もう少しだけ、お待ちください>

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る